犠牲
「寿命をくれんか」とばあさんが言った。“どうぞ”と男は答えた。
ばあさんはもうすぐ死ぬ身だった。しかし死を前にしてあらゆる後悔を思い出し、生きることを渇望していた。男は生きることをやめたかった。もう十分だと心の中で何度もつぶやいた。だからばあさんの申し入れが嬉しかった。彼は自分の寿命を5年ほど渡した。ばあさんは喜び、子犬のように飛び跳ねた。彼もまた、悪くない気分だった。しかし一抹の不安もあった。俺はあと何年いきるんだろう。男は言い知れぬ寂しさを感じていた。
何日か経ち、見知らぬじいさんが声をかけてきた。「寿命をくれんか」と男の予想した通りに言われた。“いいですよ”と彼は言ったが、自分にあと何年残りがあるのかわかっていなかった。彼は5年の寿命をじいさんにあげた。じいさんはまるで20代のようにはしゃいだ。彼も悪い気はしなかった。しかし、不安だった。あと残り何年あるのだろう。何年いきればいいのだろう。男は独りうつむいたまま、騒がしい街を歩いた。
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