第27話 派閥トップ三人VSミルフィ

 「さあ、いきますよ」


 ミルフィがすさまじいオーラを放つ。

 相対あいたいするクレア達も、思わず目を見開いた。


「「「……っ!」」」


 これでも“白”は発動させていない。

 ミルフィの素の威圧感だ。

 しかし、クレア・エアリナ・メルネも負けるわけにはいかない。


「わたしたちも!」

「やればできます!」

「ええ、その通りよ!」


 ミルフィを認めさせるため。

 ミルフィとゼルアの本当の関係を聞くため。

 三人はおくさず、前に突っ込んだ。


「三方向からいくよ!」

「うん!」

「ええ!」


 クレア達は三つに分かれ、違う方向からミルフィを狙う。

 それぞれが得意の魔法を宿し、ミルフィに迫る。


「「「はあああああっ!」」」


 各派閥のトップクラスの三人だ。

 そう簡単には止められない──かと思われた。


「遅すぎます」

「「「……ッ!」」」


 クナイを持つ左右の手と、振り上げた右足。

 ミルフィは予想外の姿勢で、同時攻撃を止めた。

 さすがに驚く三人だが、これでは終わらない。


「まだよ! ──【火の渦巻ファイア・スパイラル】!」

「……!」


 メルネの火魔法がミルフィをおそう。

 ミルフィにとっては些細ささいなものだが、これはあくまで“目くらまし”。

 本命は、派閥トップ二人の攻撃だ。


「【怒涛の波リヴァイア・ウェーブ】……!」

「【荒れ狂う暴風テンペスト・ストーム】……!」


 クレアとエアリナの最大の攻撃である。

 威力はもちろんのこと、回避できないほどの大きさも誇る。

 火の明るさで目を奪われる中、左右から最大級の魔法が迫ったのだ。


 しかし、ミルフィに目など必要ない。


「──【心眼】」


 ミルフィは目をつむったまま、魔法の気配を察知した。

 二つの魔法のわずかな隙間を見つけ、最小限の動きで回避する。

 魔法が去ると、ようやくミルフィは目を開く。


「その程度ですか?」

「「「……!」」」

 

 クレア達のプランは、ここまでだった。

 先を何も考えてないわけではないが、一連の流れで何かを掴めると思っていた。


 だが結果は、収穫ゼロ。

 未だに攻撃を当てられる気配すらない。

 クレアは思わず歯をかみしめる。


「一体どんな魔法を使って……!」


 しかし、それにはクレアは首を横に振る。

 

「私、魔法は使えませんよ」

「えっ? 本当に?」

「はい。嘘をつく必要がありますか」

「……っ」


 ここに来て衝撃の事実だ。

 今までの強さも、先程の【心眼】も、単なるミルフィの技術。

 彼女が持つ身体能力だけで対処されていたのだ。


 だが、ミルフィは少し含みを持った言葉を口にした。

 

「まあ、私には“あの属性”がありますけどね」

「な、なんのこと?」

「こっちの話です」

「……ッ!」


 すると、今度はミルフィから仕掛ける。

 タンっと地面を蹴ったと思えば、次の瞬間にはクレアの目の前にいた。

 

「くっ!」

「良い反応ですね」


 間一髪、攻撃を受け止めたクレア。

 彼女を援護するよう、エアリナとメルネもすぐさまサポートに入る。


「クレアさん!」

「離れなさいよ!」

「素晴らしいサポートですよ」


 当然ミルフィも対処するが、二人を褒めている。

 言葉が“上から”なのは、言うまでもないが。

 

 そうして、三人で牽制する中で、クレアが口にする。


「前に言ってた連携技を、やるしかない」

「「……!」」


 顔を見合わせるエアリナとメルネも、こくりとうなずく。

 三人の意思は決まったようだ。

 すると、ミルフィを相手取るクレアが指示を出した。


「わたしに合わせて!」

「うん!」

「ええ!」


 クレアがミルフィを弾き、距離を取る。

 その間に、エアリナとメルネは準備を済ませていた。

 三人が同じ量・・・の魔法を宿しているのだ。


 それに、ミルフィは笑みを浮かべた。


「なるほど」


 本来、違う属性同士は打ち消し合うとされていた。

 だが、ゼルアがその常識をぶっ壊した。

 全く同じ量を合わせれば、魔法同士は爆発的な力を生む。


「今のわたし達ならできる!」


 それを三人で実現しようというのだ。

 会ってから日は少ないが、紡いできた絆は本物。

 ゼルアを通して出会った三人は、力を合わせられる。


「「「はあああああっ!」」」


 三位一体。

 火・水・風の三つの魔法は、重なりながらミルフィに向かう。

 打ち消し合うことなく、互いに力を高め合うように。

 

「「「【蒼焔嵐舞トリニティ・フォース】!!」」」

「……!」


 ゼルアに続き、人間の歴史をひっくり返した瞬間だ。

 1+1が10にも100になる属性の融合で、三人の実力以上の威力が生まれる。

 ──だが、ミルフィは一歩も動かなかった。


「これは予想以上でしたね」

「「「……!?」」」


 直撃したかに思われた三人の魔法は、ミルフィのクナイに斬り裂かれた・・・・・・

 正真正銘、最後の策が破られたのだ。

 クレアは悔しながらも宣言する。


「わたし達の、負けだよ……」

「「「……ッ!!」」」


 その瞬間、周囲が大きくざわついた。

 他派閥の者たちも、気がつけば手を止めてしまっていたのだ。

 だが、歓声というよりは動揺・・である。


「じょ、冗談じゃねえ……」

「あの三人で敗北……」

「何者なんだよ……」

「あの平民コンビは……」

「化け物すぎる……」


 そうして、勝敗は決した。

 ゼルアは膝をつくクレア達の元へ寄った。


「みんな、お疲れ様」

「ゼルアっ!」

「わっ!


 すると、クレアは震えさせる手で、ゼルアの裾を握る。


「わたし、悔しい……!」

「クレアも良くやったよ」

「でも、全然届かなかった!」

「ううん、そんなことない」

「え?」


 ゼルアはお世辞でもなんでもない。


(ほんの少しだけど、ミルフィにあれ・・を使わせたからね)


 最後の三人の魔法に、ミルフィはとっておきを少し用いていた。

 ゼルア以外は誰一人気づいていないが。

 その証拠に、背を向けるミルフィの口角はフッとゆるんでいる。


(まさか使わせられるとは)


 “予想外”の発言は、嘘ではなかったようだ。

 それでも、エアリナ達には悔しさが残る。


「ゼルア、わたしに魔法をもっと教えて!」

「ゼルア君、私にも!」

「お願いゼル君!」


 すると、三人はゼルアに懇願こんがんした。

 悔しさを糧にまた前に進み始めたようだ。

 ゼルアの答えはもちろん決まっている。


「もちろん!」

「「「……! ありがとう!」」」


 こうして、ミルフィの圧勝で模擬戦は終えた。





「……で、なんでこうなったんだっけ」


 その日の夜。


 昨日と同じく、生徒はテントで一夜を過ごす。

 だが、ゼルアの両隣のメンバーが変わっていた。


「ゼルア君、今日は私たちだよ」

「ちょっ、ゼル君そっち寄り過ぎよ!」


 エアリナとメルネだ。

 昨日のじゃんけん負け組が、今度はゼルアのテントに入ったらしい。

 隣のテントからは、クレアとミルフィのやり取りも聞こえてくる。

 

「次は負けないから!」

「百年後にでも挑む気ですか?」

「なわけないわっ!」


 いつも通り、あちらも言い合っているようだ。

 しかし、エアリナ達も疲れが出ていたのだろう。


「明日も、がんばろ……」

「えぇ、そうね……」


 しばらくすると、カクンっと寝落ちした。


「まあ、平穏に寝れるならいいか……」





 そうして──夜明け頃。


(なんか起きちゃった……)


 まだ空も青い頃、ゼルアはふいに目が覚める。

 なんとなく寝れないため、外へ出ることにした。


(さすがに誰もいない──って、あれって……)


 すると、森を少し抜けた先で、体育座りをする少女を見つける。


 褐色の肌に、銀髪のロング。

 土派閥のクルミだ。


 ゼルアが身を潜めると、クルミは日の出に向かってつぶやいた。


「人をまとめるって、難しいなあ……」





───────────────────────

模擬戦はミルフィの圧勝!

ですが、最後に予想外もあったようなので、クレア達も意地を見せました!

ミルフィの“あれ”はもう少しで出るかも?


そして、クルミは実は思い悩んでいるようで……?

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