第26話 突然の提案
「ん、んぅ……」
テントに陽の光が差し込み、クレアが目を覚ます。
「……!」
すると、すぐ目の前に寝ているゼルアが映った。
いつの間にかゼルア側を向いて寝ていたらしい。
「すー、すー」
「……っ」
ゼルアは気持ちよさそうに寝ている。
起きる気配は全くない。
肘から曲がった腕は上を向いており、子どものような寝相だ。
(ちょっとかわいい……)
そんなゼルアを、クレアはぼーっと眺める。
自分でも気づかぬ間に、顔の距離が近づいていたのだろう。
すると、すぐ隣から低い声が聞こえてきた。
「何をされるつもりで?」
「う、うわあっ!」
反対を向いていたはずのミルフィの顔が、気づけば真横にあったのだ。
驚くあまり、クレアは体をのけ反らせる。
「まさか、いかがわしいことではないですよね?」
「そ、そんなわけないよ! じゃ、じゃあわたしを顔を洗いに行こっと!」
「……フン、小娘が」
どんな時でもミルフィは出し抜けない。
さすがはゼルアを溺愛するメイドだ。
そんなやり取りをしていると、ようやくゼルアも目を覚ます。
「ん? 何かあった?」
「何でもございませんよ。
「……?」
こうして、朝を迎えた三人であった。
「本日からは魔法の特訓を行います!」
朝食後の広場にて、生徒達を前にマリエラが声を上げた。
昨日はサバイバルで一日を終えた。
だがこの日からは、各自レベルアップのためのカリキュラムが用意されている。
「それではグループに分かれて下さい!」
例のごとくグループは五つに分かれる。
各派閥が四つに、ゼルア派閥だ。
すると、各派閥の前にはそれぞれの教官が立った。
「「「よろしく」」」
「「「わああ!」」」
彼らも各属性の派閥に所属しているのだ。
これは後進を育てる良い機会である。
だが、一つだけ教官がいない派閥があった。
「あの、僕たちは……?」
色んな属性持ちが混ざるゼルア派閥だ。
それにはマリエラが答える。
「あなたたちは各自で高めあった方が効率が良いかと思います」
「各自で?」
「はい。例えば、後ろの方々で模擬戦をするとかね」
「「「……!」」」
突然の提案だ。
それを聞けば、早速視線を交わし合う者たちがいる。
ミルフィと、クレア・エアリナ・メルネの三人だ。
ニヤリとしたミルフィは、いつもの挑発気味の顔を浮かべる。
「それは確かに良いですね」
対して、クレア達も声を上げた。
「わたしもウズウズしてたよ」
「私もミルフィさんとやりたい!」
「ええ、やってやるわよ!」
続けて、クレアが確認をする。
「じゃあ何回かに分ける? みんなが一対一で出来るように」
「はい? 私にそんな
しかし、ミルフィは三人に言い放った。
「三対一でやりましょう」
「「「……っ!」」」
それにはクレア達も黙っていない。
「それはさすがに!」
「ミルフィさんでも!」
「ナメすぎよ!」
争いは好まないが、彼女たちにも最上位のプライドはある。
だが、ミルフィは笑みを浮かべるばかり。
「じゃあ試してみましょうか。ナメているかどうかを」
「「「……!」」」
こうして、ゼルア以外の四人の模擬戦が決定する。
だが、派閥リーダーのゼルアはうるうるとしていた。
「先生が挑発するからぁ」
「ごめんなさい。見てみたくって!」
「……」
「お覚悟はよろしいですか」
場所を変え、ミルフィがクナイを取り出す。
やってきたのは、広い
各派閥から離れているが、チラチラと視線は向けられていた。
(ついにあの人が……)
(平民にくっついてる奴か……)
(強いのか?)
(あの三人を相手にバカじゃないのか?)
(でもオーラは半端じゃない……)
クラス内でのミルフィは、あまりイメージがない。
ゼルアが目立ち過ぎているのもあるが、授業ではそこまで力を見せないのだ。
周囲からすれば、可もなく不可もなく、ゼルアの隣にいるだけの存在である。
対して、こちらは各派閥のオールスターだ。
水派閥のトップ──クレア。
「ここで君を認めさせる」
風派閥のトップ──エアリナ。
「私たちの力を見せます!」
火派閥の準トップ──メルネ。
「後悔させてやるんだから!」
それぞれの得意武器を持ち、ミルフィに向き直る。
そんな中、クレアはふいにたずねた。
「君は“白”を使えるの?」
「白
「……?」
少し含みのある言い方だが、ミルフィは続けた。
「
「「「……!!」」」
「あなたたち程度に、そんなもの必要ありませんがね」
同時に放つのは、凄まじいオーラである。
ヴァリオスが白を宿した時以上の威圧感だ。
だが、ミルフィは白を発動させていない。
これはミルフィが素で放っている“圧”だ。
「さあ、いきますよ」
「「「……っ!」」」
ミルフィとクレア達の模擬戦が始まる──。
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