第6話 伝説たちの跡

 「一言で言えば、“どれだけ破壊できるか”かな」


 同じ受験生のクレアが、実技試験の内容を答えてくれた。

 でも、まだ戸惑う僕にふふっと笑って教えてくれる。


「ほら、あれを見て」

「あ!」


 クレアが指したのは、“超巨大な壁”。


 巨大な学院に匹敵する大きさで、すごく頑丈そうだ。

 奥にも分厚く、壁というより立方体に近いかもしれない。

 でも、所々ぼこぼこした不思議な形をしている。


「あれ、ずっと気になってたんだ!」

「あれが通称──“試験壁”だよ」


 クレアの説明と同時に、周りの受験生が呼ばれていく。

 すると受験生は、一人ずつ壁に向かって攻撃を放ち始めた。


「実技試験では“壁に攻撃を放つ”の。武器、魔法、自分の持ってるものなら何でもありだよ。そこでついた跡の大きさ・・・・・が点数になるんだ」

「へえ~」


 クレアの説明通り、生徒の攻撃で付いた“跡の大きさ”は測定されている。


「アスク・ドラド、12点」

「くそっ!」


 その後も、呼ばれた受験生が次々に点数を出されていく。


「16点」

「こんなもんか……」


「9点」

「せっかく筆記できたのに!」


「11点」

「ああちくしょう!」


 だけど、壁は想像以上に堅いらしく、みんな悔しそうだ。

 隣のクレアも険しい顔をしていた。


「点数を取るのが難しいっていうのは、こういうことだよ」

「確かにみんな高くないもんね……」


 それでも、時々盛り上がるタイミングもある。


「レオ・エリンギスキー、35点」

「よっしゃあああああ!」

「「「おおおー!」」」

 

 35点はかなり高得点みたいだ。

 こう見ると、100点満点の筆記試験がいかに大事だったか分かる。

 だけど、僕はちらりと左奥の方へ目を向けた。


「すごい跡がある……」


 35点が大体1メートル幅ぐらいの跡だ。

 その中で、いくつか“巨大な跡”が残されている。


「あれは英雄扱いをされてる人たちの跡だね」

「え、英雄!?」

「一番古いのは三百年前とかかな。いずれ語り継がれるような人は、入学試験から伝説を残すの。中でも有名なのがいくつかあるよ」


 クレアは指を差して順に教えてくれた。



 巨大な刀痕とうこん──剣の英雄イットウ(352点)


 大爆発の跡──千の魔女マジェス(347点)


 くっきりした拳の跡──武神ナックル(331点)


 真ん丸の跡──頭脳(物理)王ヘッドハンマー(304点)


 ネギの形をした跡──カモ神ネギ(224点)


   ・

   ・

   ・

 


「大体こんなところかな」

「すごいや!」


 200点以上出した跡は、遠目でもはっきり形で見えるみたい。

 武器や魔法によって形も特徴的なので、簡単に判別できるそうだ。


「そんな風に200点以上を出した記録は『伝説たちの跡』って呼ばれて、学院にも名を刻まれるんだ」

「かっこいい……!」


 まさに歴史に名を刻むみたいでワクワクする。

 もしかしたら僕も大きな跡を残せるかな。

 そんな事を考えていると、クレアはとある跡を眺めて首を傾げた。


「でも一つだけ知らないのがある。もしかして午前の部?」

「へえ! すごい人がいたのかな!」

「でも300点以上は百年出てないんだよ。ちょっと考えにくいけど……」


 謎のクナイの跡──午前の部? (307点)


「珍しい武器だね。クナイであんな跡を残せるなんて……」

「ん? クナイ?」


 見たことある武器かもしれない。

 いや、さすがに気のせいかな。

 深く考えるのはやめて、僕は感謝を伝えた。


「教えてくれてありがとう!」

「ううん、あそこまでとはいかないけど、わたし達も頑張ろう」

「そうだね!」


 そうして話していると、ふいに聞き覚えのある声が挟まれる。


「フン、本当に下民が試験を受けているとはな!」

「ん?」


 振り返った先にいたのは、ヴァリオス。

 試験前に会った公爵家の人だ。


「あ、また出た」

「な、なんだ、その口の利き方は!」


 ヴァリオスはギロリと目を睨んでくるも、すぐに背を向けた。


「だが、まあいい。聞けば筆記試験はボロボロだったそうだな」

「うっ……」

「俺が手を下すまでもなかったか。俺はお前のような下等な者が学院へ入らないならばなんでもいい」


 そのまま嫌な笑い方で、ヴァリオスは告げてくる。


「最後に恥をかいて去るんだな」

「むっ」


 でも、ここまで言われて僕も黙っていられない。


「僕は最後まで全力でやるよ!」

「フン、勝手にしておけ」


 すると、ちょうどよく僕やクレア、ヴァリオスの名前が呼ばれる。

 いよいよ僕たち最終組の番みたいだ。


「絶対受かってやるぞ!」


 だけど、この時はまだ誰も知らない。

 最終組の中から、伝説的な記録を残す人が出るなんて──。

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