第7話 実技試験『試験壁』

<三人称視点>


「Aグループ最終組の実技試験を始めます」


 試験官が手を上げ、付近に受験生が集まる。


 最終組には、ゼルア・クレア・ヴァリオスが含まれている。

 受験生は順に名前を呼ばれ、試験を開始していく。

 多数ある試験壁の内、この壁に『伝説たちの跡』(200点以上)はないようだ。

 

 そんな中、集団の後方でクレアが口を開いた。


「ねえ、あんた」


 クレアが話しかけたのは、ヴァリオスだ。

 水色のロングを耳にかけながら見つめ、声色は怒っているように聞こえる。


「さっきのゼルアへのじょく、取り消しなよ」

「お、お前は……!」


 クレアはは、隣のゼルアに手を向けながら言葉にする。

 侮辱されたゼルアをかばってくれたのだ。

 対して、ヴァリオスも目を見開いた。


「なぜお前がこの下民をかばう!」

「学院に位とか関係ないから。とにかくゼルアに謝りなよ」

「フン、下民には何を言っても良いだろう。お前も変わらんな」

「あんたにだけは言われたくない」


 じっと目線を逸らさず、二人はバチバチし始める。

 お互いに知り合いにも思える口ぶりだ。

 しかし、当のゼルアが間に入った。


「まあまあ二人とも。僕のことは気にしなくていいからさ」

「ゼルア、でも……」

「フン。ようやく身の程をわきまえたか」


 それでも、ヴァリオスはまだ見下すような目でゼルアを睨む。


「どうせ貴様には何もできん。ならば、せいぜい目に焼き付けておくがいい」

「なにを?」

「あの『伝説たちの跡』に、俺という新たな歴史が刻まれるのな」

 

 すると、ちょうど良くヴァリオスの番が来たようだ。

 彼が離れていく間に、ゼルアは疑問をたずねてみた。


「クレアとヴァリオスって知り合いなの?」

「直接の知り合いではないよ。……ただ、家同士が・・・・ね」

「ふーん?」


 だが、若干気まずそうなクレアにそれ以上は聞かず。

 ゼルアも人間界は複雑だと学んだようだ。


 そうして、ヴァリオスの準備が整う。


「見ておけ愚鈍どもが。──炎よ」


 ヴァリオスは腰の剣を抜き、真っ赤な炎を剣に伝えた。

 炎は燃え盛り、辺りに高熱をもたらすほど大きくなっていく。

 それには周囲もざわざわとした反応を見せる。


「おいおい、これって!」

「すごい点数出るんじゃないか!?」

「あれがレグナルト家の次男か!」

「なんて魔法なんだ!」


 試験前、ミルフィに向けた魔法よりも大きい。

 これがヴァリオスの本気なのだろう。

 ヴァリオスは大きな炎をまとわせた剣を前方に振るった。


「破壊し尽くせ──【業火の剣インフェルノ・ブレード】!」


 ドゴオッと鈍い音が響き、壁に大きな跡ができる。

 試験壁は多数存在し、この壁に『伝説たちの跡』クラスのものはない。

 目算だけでも一番大きいだろう。


 結果を聞こうと静まる中、試験官は測定を発表した。


「ヴァリオス・レグナルト、82点!」

「「「うおおおおおおおおお!」」」


 見事な高得点に、周囲は一斉に声を上げた。


「チッ、伝説たちには届かんか」


 口ではそう言うものの、ヴァリオスはちらちらとゼルアとクレアを見る。

 いかにも誇らしげな表情だ。

 

「まあ、貴様たちではこの点数は出せないだろうがな」

「すごいやヴァリオス君……」

「ふーん……」


 そんな中、次に呼ばれたのはクレアだ。

 クレアは準備を整えると、すぐに魔法を発動させる。


「水よ、我が意のままに」


 クレアは周りに大量の水を生成する。

 偶然なのか、水色の髪と合うように水魔法を得意としているようだ。

 水は手に合わせて踊るように動き、意のままに操っているのが分かる。


 そして、キッと壁に目を向けると、一気に放つ。


「──【怒涛の波リヴァイア・ウェーブ】」

 

 大量に押し寄せた水が壁に直撃し、ドゴゴオッと鈍い音が響き渡る。

 周囲は声を上げるよりも、びっくりしている様子だ。

 すると、試験官もぎょっとした目で測定を発表する。


「クレア・ルミエール、101点!」

「「「うわあああああああああ!」」」

 

 その瞬間、一気に場が盛り上がった。

 もちろんゼルア達も声を上げている。


「すごいよクレア!」

「なんだと!?」


 だが、手を合わせるゼルアの隣で、ヴァリオスは目を見開いていた。

 点数が抜かされて悔しいのだろう。

 すると、戻ってきたクレアはわざとらしく笑顔を見せる。


「ふふん」

「ぐっ、貴様ァ……」


 対して、ヴァリオスは返す言葉はない。

 ならばと、今度はゼルアに指を向けた。


「フ、フン! たまたまこいつには負けたが、下民のお前には高得点は出せん!」

「そうかなあ」

「ああ、そうに決まっている! しゃくだがこいつも上位貴族だからな! せいぜい恥をかくがいい!」


 そうして、いよいよゼルアの出番になった。


「ふう……」


 よく見れば、ゼルアは全受験者で一番最後だ。

 ヴァリオス・クレアと続いたのもあって、自然と注目を浴びていた。

 それでもやることは変わらない。


「よ、よし……!」


 ゼルアはもう一度気合いを入れ直す。


(筆記試験はダメダメだった。僕には実技試験これしかないんだ。送り出してくれた魔界のみんなのためにも、がんばるぞ!)


 呼吸を整え、ゼルアはぐっと腕を引いた。

 難しいことは考えず、とにかく力を込めることに集中して。


「うおー!」


 ゼルアは真っ直ぐに試験壁をぶん殴る。


 その瞬間──


「「「……!?!?」」」


 ボガアアアアアアアアアアアン!


 巨大な爆発音と共に、ゼルアの拳は試験壁を破壊した。




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