第8話 新たな英雄の足音

 「うおー!」


 若干ふぬけた声で、ゼルアは試験壁をぶん殴る。

 その瞬間、ボガアアアアンと大爆発したような音を立て、一帯の試験壁は破壊された。


「「「えええーーーー!?!?」」」


 周囲は思わず大声を上げてきょうがくする。

 今にも目玉が飛び出しそうなほどだ。

 

 それもそのはず、ゼルアと『伝説たちの跡』を比べたのだ。

 結果、歴史に名を残した英雄たちの跡がかすむほどの威力だった。

 つまり、学院創設から何百年以来、最も威力の高い攻撃だったと言える。


「「「……っ」」」


 周りは口をあんぐりさせている。

 状況に理解が追いつかないのだ。

 そんな中、うーんと首を傾げたゼルアが言葉にした。


「あれ、壊れちゃった……」

「は、はああああああ!?」


 すると、ハッとしたようにヴァリオスが声を上げる。


「貴様、一体何をした!?」

「わ、分かんない……」

「分からないで済むかあ!」


 ヴァリオスはどうしても納得できないようだ。

 未だ信じ切れない光景に、やがてケチをつけ始める。


「そ、そうか、貴様はズルをしたのだな! 下民が考えそうな事だ! 言え、どんなしゃくな手段を使ったのだ!」

「いや、僕は何も……」

「嘘をつけええええええ!」


 頭が理解することを拒んでいるのか、ヴァリオスは声を荒げる。

 対して、困ったゼルアはふと思いついた。


「あ、もしかしてクレアとヴァリオスの攻撃で壁がもろくなっていたのかな。なんだか柔らかかった・・・・・・し」

「……! そうだ、そうに違いない!」

「やっぱりそうだよね」

「まったく、調子に乗りやがって!」

 

 二人のやり取りで、周りもようやく状況を飲み込む。

 公爵家として名高いヴァリオスの言葉を信じたのだ。

 

「さすがにそうだよな……」

「それ以外考えられないだろ……」

「壁がぶっ壊れるなんてな……」

「本当なら史上最強だもんな、ははは……」


 無理やり納得することで、ようやく騒ぎは落ち着いてくる。

 試験の疲れもあり、受け止められない事実は笑い流すことにしたのだ。


 それでも、二人だけ・・・・はゼルアを信じていた。

 一人は、駆け寄ってきたクレアだ。


「すごいよゼルア! どんな力なの!?」

「あはは、だから脆くなっていただけで」

「そんなことない! 絶対ゼルアの力だよ!」

「あ、ありがとう……」


 全ては信じ切れないながらも、ゼルアの力を認めている。

 いち友人として素直にゼルアを褒め称えたのだ。


 そして、もう一人は試験官。

 メガネをかけた女性の教員マリエラだ。


(こ、この子は……)


 マリエラはゼルアから目を離せないでいる。

 何を思ったかは分からないが、まるで希望を見出したように。


 こうして、ゼルア達の入学試験は終えたのだった。







 翌日。

 セントフォルティア学院、会議室にて。


「今年は大豊作ではないか」


 現在、受験生の合否が話し合われていた。

 すでにほとんどの選別を終え、最後の一人となっている。

 だが、その一人で会議は難航していたのだ。


 受験生の名は──ゼルアだ。


「なんなんだ、この者は……」

「試験壁を一面破壊しただと……」

「にわかには信じられん……」


 議題はやはり実技試験についてだ。

 参考として、筆記試験にも触れられる。


「しかし筆記は“9点”。まともに勉強しておらんではないか」

「全受験生で最下位であるな」

「次に低いミルフィとやらの13点も中々だが」

「やはり壁の件も偶然だったのでは?」

「ありえる。何しろ平民だからな」


 すると、一人の女性が立ち上がった。


「それはありえません! 私はこの目でしっかり見ました!」


 彼女はマリエラ。

 ゼルアの時の試験官であり、誠実な教員だ。


 だが、対面の男教員たちは冷ややかな目を向けた。


「君の目が節穴だったのでは?」

「そんなことはありません!」


 マリエラに冷たいのは、彼女の位が高くないからだ。


「君は子爵家だったか。その程度ならば見分けもつかんだろう」

「そ、それは今は関係ないでしょう!」


 この学院では、教員陣でも選民思想を持つ者がいる。

 事実、対面している男たちの位は高かった。

 それでも、マリエラは実力で教員の地位を獲得した努力家なのだ。


「試験壁は古代の超魔法を用いられています! 多少属性を合わせたからと言って、脆くなるなどありえません!」

「だが実際に……」

「ならば『伝説たちの跡』も不正だったと?」

「くっ……」


 マリエラは選民思想側を沈めて着席する。

 すると、議長がマリエラに問う。


「では、仮に今回の威力を測定すれば、何点になる?」

「はい」


 ゼルアの得点は、混乱のあまりあの場では開示されなかった。

 その後、マリエラが測定したのだ。


 ちなみに歴代最高点は、剣の英雄イットウが352点である。


 対して、ゼルアは──


「1224点です」

「「「……!?!?」」」


 信じられない点数を叩き出していた。


 剣の英雄イットウは、かつて魔族から人々を救ったと言われる。

 その英雄の三倍以上を出したのが“平民”だとすれば、選民思想側は激しく怒った。


「やはりありえんだろう!」

「ただの平民ごときが!」

「高貴な学院で不正をしよって!」


 それでも、マリエラは対抗する。


「平民だからなんですか! 彼の実力は本物です! これは間違いなく“新たな英雄の足音”なのです!」

「「「なにをー!」」」


 白熱する両陣営に対し、議長が場を収めた。


せいしゅくに」

「「「……!」」」

「これ以上は平行線である。彼に限っては学院長の一任でご判断いただく」

 

 そうして、判断は学院長にゆだねられた。


「学院長、お願いします」

「ふむ。受験生ゼルア、彼の合否は──」







 入学試験から一週間後。


「楽しみだなあ~!」


 ウキウキの声を上げたのは、ゼルアだ。

 届いた制服に身を包み、何度も鏡で自分の姿を確認している。

 “合格”と書かれた通知書を持って。


 ゼルアは見事学院に合格したのだった。


「がんばるぞー!」


 この日から、ついにゼルアの学院生活が始まる──。





───────────────────────

ゼルア君、無事に合格!

結果は筆記9点、実技1224点で、合計1233点です!

うーん、最強!笑

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2024年9月27日 19:11
2024年9月28日 19:11

魔王の息子~魔王に育てられた最強の少年は、人間界で無自覚に常識をぶっ壊して無双する~ むらくも航 @gekiotiwking

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