第5話 入学試験開始!

<ゼルア視点>


「おっきいなあ~!」


 セントフォルティア学院を前に、つい大きな声を出してしまった。


 学院門から見上げると、壮大さに改めて度肝を抜かれたんだ。

 こんなすごい場所に行けるかもしれないなんて。

 今からでもワクワクが止まらない。


 けど、隣にはずーんと落ち込んでいる人もいて。


「なぜ坊ちゃまと私が別グループ……」

「あはは、それは仕方ないよ」


 今にも人を呪いそうなのは、ミルフィだ。

 

 試験には実技・筆記があり、受験者は二つのグループに分けられる。

 Aグループは前半に筆記、Bグループは前半に実技をして、後に交代するそうだ。

 受験人数が多すぎるのも大変だね。


 その結果、僕たちは別グループの案内をされた。


「決めました、やはりあの試験官を処します」

「ダメダメ!」


 ギラっとした目のミルフィを抑えて、まあまあと声をかける。


「とにかく、一緒に合格しようね」

「坊ちゃま! はい!」


 お互いに健闘を祈ると、ミルフィにも笑顔が戻った。

 すると、後ろの方からクスクスと声が聞こえてくる。


「あの格好、どこの貧乏貴族だ?」

「いや平民なんじゃないか」

「まあ汚らしい。受かるはずもありませんわ」

「学院を見上げてる時点で田舎者か平民だろ」

「普通は何度も訪れるよな」

「紹介者がいなかったんじゃないのか」


 会話は聞こえずらいけど、みんな僕たちを見ている。

 でも不思議だな、殺気は向けてきていない。

 敵対しているわけではないのかな。


 だけど、隣のミルフィはまたもスカートの中に手を入れている。

 絶対隠しナイフを持ってるな。


「坊ちゃま、あいつら処しますか? 処していいですよね? もう処しちゃえ──」

「だからダメー!」

 

 ずんずんと歩き出そうとするミルフィをなんとか引っ張る。

 

「試験前に失格になっちゃうよ。ここは大人しくしていよう」

「最悪、試験官を脅せばよくないです?」

「試験の意味なくなっちゃうよ……」


 ミルフィは本当にやりかねない。

 ここはひとまず落ち着かせないと。


「とにかく、試験が終わるまで大人しくしよう」

「坊ちゃま……はぁい」

「それに、僕もやりたいことがあるんだ」

「?」


 でも実は、これはチャンスだと思っていたんだ。

 みんなが興味を持ってくれているならちょうどいい。

 僕は集団の方へ駆け寄った。


「ねーねー、みんなは学院に来たことあるの!」

「「「……!?」」」


 そのまま思い切って話しかけてみる。

 人間と魔族が仲良くなるには、僕が学院でたくさん友達を作ることが一番だ。

 だから、こんなチャンスは逃しちゃダメだよね!


 でも、みんなはぎょっとした顔を浮かべて、眉をひそめた。


「普通これで話しかけてくるか!?」

「皮肉の一つも効かないとは、さすが平民」

「おい、もう行こうぜ」


 そして、僕の前から去ってしまった。


「ど、どうして……」


 友達を作るのは予想以上に難しいみたいだ。

 それに“貴族様”との会話の仕方も分からない。


「次はもっとうまくやらないと」

「人間界も難儀ですね。ですが坊ちゃま──」


 すると、ミルフィが手を握ってくれた。


「この悔しさを試験にぶつけましょう。坊ちゃまが何度も止めてくれたおかげで、私も無事に試験を受けることができます」

「ミルフィ! そうだね!」


 今までのお返しのように元気づけてくれたみたいだ。

 よーし、試験がんばるぞー!







「ああ、終わった……」


 午前を経て、僕は外でぼーっと見上げていた。


 もう何も考えられない。

 おそら、きれいだなあ。


「なんて難しさなんだ……」


 僕のグループは午前に筆記試験があった。

 でも、内容が僕には難しすぎた。

 大国の成り立ちとか、昔の偉い人とか、人間界に関することはほとんど分からなかった。


「魔法の問題はちょっとだけ書けたけど……」

 

 戦いの基本である魔法に関しても問があった。

 なんとなく書いてみたものの、自分なりの考えすぎたかなと少し後悔している。

 とにかくまとめると……多分やばい。


「難しかったよね、筆記試験」

「え?」


 そんな時、ふと後ろから声をかけられる。

 後ろに寄りかかるように見上げると、意外と近くに顔があって転びそうになる。


「わっ!」

「あ、ごめん! 大丈夫!?」

「あはは、全然平気だよ」


 手を差し伸べてくれたのは女の子だ。


「よかった。君も受験生だよね」

「あ、うん」

「へへっ、同じ同じ」


 明るく長い水色の髪を揺らして、女の子は明るく笑った。

 飾らない人だけど、格好はすごく綺麗だ。

 ヴァリオスと同じぐらい高級かもしれない。


 でも、僕にも普通に話しかけてきてくれた。

 その笑顔にもう一度思う。


 これはお友達チャンス!


「僕はゼルアだよ! 君は?」

「わたしはクレア。名字は……ルミエール」

「わかった、じゃあクレアだね!」

「……!」


 何気なく名前を呼ぶと、クレアは目を見開いた。


「名字を聞いても態度が変わらない……?」

「え?」

「ううん、なんでもっ!」


 聞こえずらかったので聞き返すと、クレアはふっと口元を緩めた。

 これはまたやってしまったかと不安になって尋ねる。

 

「あ、ごめん、あんまりマナーとか知らなくて。何か失礼なことした?」

「全然っ! むしろそのままでいてよ」

「そっか!」


 でも大丈夫だったみたい。

 すると、クレアが話を続けてくれた。


「筆記の話だったね。あれは例年から見てもかなり難しかったと思うよ」

「そうなんだ、僕は全然書けなかったよ」

「でも大丈夫!」

「え?」


 そうして、次の言葉は僕を元気づけてくれる。


「これから行う実技テストは、筆記テストより点数が高いから」

「そうなの!」

「まあ高いというか、上限がない・・・・・って感じだね」


 話を聞くと、筆記試験は百点満点。

 間違える度に点数が減っていく“減点方式”だ。


 でも、実技試験は“加点方式”。

 毎年決まった試験内容で、理論上はどれだけでも点数が伸びるらしい。

 ただ、クレアはその難しさを強調する。


「逆に言えば、それだけ点数を取るのが難しい・・・・・・・・・・んだけど」

「なるほどー。でも諦めちゃダメってことだね!」

「ふふっ。ポジティブでよろしい!」

「それで、実技試験はどんな内容なの?」


 すると、クレアは少し前屈みで答えた。


「一言で言えば、“どれだけ破壊できるか”かな」





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「がんばるぞ」からの「終わった」即オチゼルアくん。

実技試験で巻き返しとなるか……?

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