ソトノセカイヘ
黒い毛並みは変わらず美しく、立ち姿も静かで落ち着いているが、その体格は大きく変化していた。
以前よりも一回り太く発達した
「よし! 次だ!」
セレンは
セレンはこのようないくつかの独自に考えた修練を、フォルンとの約束から二年半、毎日かかさず続けていた。
「アクロ……フォルンまだ見つからないのか?」
十八歳で大人として認められる
今夜はその祝いにフォルンが家を訪問する予定だ。
小さな三角屋根の家の庭に、まだ消したばかりであろう焚き火の薄い白煙がのぼる、明かりが灯った四角い窓に大小の
「どうだ、美味いか? セレン」
この調理の仕方は以前アクロに教えて貰った方法で、ヒトの国では昔からピザと呼ばれていて、祝いの席などで良く食べられているらしい、
「あぁ、とても美味しいよ。フォルン、今日はありがとう」
今日の料理の材料はほとんどフォルンが用意した物だ、肉も酒もチーズも普段セレンには食べられない高級品である。
「セレン、こちらもどうだ」
そう言って、食事が始まったばかりなのに既に顔の赤いフォルンは、大きな木のコップに
「すいません、いただきます」
大人になり酒を飲むようになって知ったことは、
セレンはどうやらミレーニアに似ていて強いらしい、フォルンがそう言うのだから間違いないのだろう。
セレンはミレーニアが酒を飲む姿など子供の頃に一度も見た事がなかった為、最初に聞いた時は以外な話でとても驚いた。
そんなやり取りをして、フォルンはとてもご機嫌なのだが、セレンはずっと浮かない顔をしている。
酒が入れば元気になるかとフォルンは勧めてみたのだが、セレンはアクロの事を考えると素直に喜んでいられないのであろうことも分かる。
「セレンお前も今日で二十歳か、既に一人前の大人だな」
本当はもう少しの間、祝いの席を二人で楽しみたかったのだが、セレンの表情を見ていると、まだ早いが仕方がないと思い、フォルンは意を決して、持参した小さな木箱をセレンに手渡す。
「セレン、これは私からの贈り物だ」
箱の中には顔を全て隠せる大きさの灰色の仮面と、深いフード付きの茶色いマントが入っていた。
「ありがとうございます。フォルン、これは?」
中を確認して不思議な顔をしたセレンを見て、フォルンは微笑んでいる。
「それと今日はな、実はお前に一つ良い話を持ってきた。いや、私としては悪い話になるがな」
セレンはもしやと前のめりに身を乗り出す。
「遂に
セレンは
「本当か! フォルン!」
フォルンの
フォルンはセレンの
「
セレンは
「いいんだ、気にしないでフォルン、ありがとう! アクロの事はガウェインに確かめる! ずっと、この日を待っていたんだ」
そう言うと、セレンはその場ですぐに旅立ちの準備を始める。
「やはり行くのか? セレン」
セレンは手を止め、フォルンと向かい合う。
「はい、自分なりに出来るだけの準備をしてきたつもりです。必ずアクロを助けます!」
フォルンの瞳に、セレンの真っ直ぐな姿がかつてのミレーニアと重なって見えた。
「約束だったからな。もう大人だ止めるつもりはない。だが無茶だけはするな、お前にはここに待ってる家族がいるんだぞ」
成長したセレンの姿への感動と離れることへの寂しさ、その両方からフォルンの
「はい! アクロと一緒に、必ず帰って来るよ!」
数日後、森の入口に荷車を引く一台の馬車が止まっている。
目的地には早ければひと月程で辿り着ける。
「忘れ物はないか?」
セレンは先日フォルンから
国外であっても身体の色で差別される可能性はあるので、なるべく不利益を被らないようにというフォルンの気遣いだ。
「うん、大丈夫!」
腰の小さな革袋の中を確認して、セレンは後ろの荷車に飛び乗る。
これからアクロの事を助けに行くというのに、
「それじゃ、行ってくるよ!」
セレンは後ろを向いて、見えなくなるまで手を振り続ける。
「ミレーニア、どうかセレンを見守ってやってくれ」
青い空を仰ぎながら、フォルンはそう願った。
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