ガウェイン

 ガウェインは蜥蜴人国リュウノヒトノクニ酒場サカバからひと月余り、蟲人国ムシノヒトノクニ貴族キゾク屋敷ヤシキへと辿タドり着いていた。


 アクロは屋敷に着く直前に、頭領トウリョウによって薬で眠らされている。


 巨大な門をクグり屋敷の前まで馬車で進むと、入口の前でヒトのメイドが待っていた。


 案内されて屋敷の大きな入口の扉を通ると、そこは目の前に巨大な階段カイダンのある広いエントランスになっている。

 

「さあさあ、着きましたぜぇ、旦那! 此処ココが貴族様のお屋敷ですわ」


 そこには様々な絵画などの芸術品が飾られ、両壁に大きな扉、正面中央の階段の左右に奥へと続く廊下、階段を上った二階部分はエントランスを囲み見下ろせる通路になっており複数の扉があった。


 天井が高い。


「おいおい……これはスゴいな。流石サスガ盟主様メイシュサマというだけの事はある」


 それから左の扉へと通されると、また廊下が続く。


 屋敷の門の外には警備の蟲人ムシノヒトが数人いたが、門を抜けてからは一人もおらず、中ではヒトのメイドや執事シツジばかりが働いている。


(いったい……どういう事だ?)


 すれ違うヒトを見て、ガウェインは不思議そうに首をカシげた。


 そのままガウェイン達は突き当りの部屋に通される。


「いらっしゃいませ、私、メイドチョウのエリスと申します。皆様、本日は遠い所までよくおいで下さりました。只今、旦那様は仕事で出払デハラっている為、代わりに私が応対オウタイさせて頂きます」


 部屋に入ると、大きなテーブルを挟む様にソファーが二つ置かれた客人用の応接室で、赤髪のミドルヘアーで眼鏡をかけた、ソバカスの目立つ女のヒトが待っていた。


 ハッキリとしていて、しかし耳障ミミザワりの心地良ココチヨい柔らかい声が部屋に響く。


「旦那様がご所望ショモウされていた女を連れてきました。この度はご心配をお掛けしてすみませんでした。その為、ぐにでもお引き渡ししたいと思いまして。急いで連れてきました」


 頭領トウリョウ胡麻ゴマスッってびへつらう。


「ありがとうございます。旦那様も大変、首を長くして待っておられました。帰って来られたらとても喜ぶことでしょう」

 

 ガウェインは背負セオっていたアクロをソファーに寝かせる。

 

「それでは早速サッソク、お約束の……ヘヘッ」


 エリスはテーブルの上に置いてあった大きな袋を差し出した。


 袋の中身を確認して頭領トウリョウは喜びの声を上げ、ガウェインもそれを見て安堵アンドした表情を浮かべる。


「一つ興味本位キョウミホンイで聞くんだが、人間の奴隷ドレイを買ってどうするつもりなんだ? どんな遊びのご趣味シュミをなさってるんだ?」


 ガウェインは屋敷の中に入ってからの違和感について尋ねた。


「おと……旦那様は決して、私達ヒトにヒドい事などいたしません。屋敷の中で何不自由ナニフジユウなく生活させて頂いております」


 エリスは胸を張ってホコらしげに答える。


「ほう、屋敷の中で何不自由ナニフジユウなく……か」


 ガウェインはアクロを見て、不敵フテキに笑った。





「それでは今後とも、どうぞご贔屓ひいきに……。旦那様ダンナサマにもよろしくお伝え下さい」


 頭領トウリョウの男は屋敷の前で、再度サイドメイドに胡麻ゴマっている。

 

 ガウェインは先に馬車に乗り、頭領トウリョウが来るのを待つ。


「本日は誠にありがとうございました。それではお気をつけてお帰り下さい」


 エリスが別れの挨拶を終え、ガウェイン達の馬車が走り出した。


「あら……旦那様。ひと足、遅かったわ」


 ガウェインが馬車の窓から美しい庭をナガめていると、門の手前で一台の馬車とすれ違う。


「おいおい……こいつはまた……。盟主様……か。確かにこいつは……セレン、お前もつくづく……」


 馬車の中で頭領トウリョウはガウェインと向かい合って座っていた。


「ど、どうなさったんで!? ガウェインの旦那! そんな険しい顔をなさって……。怖っ!!」






「おう! 元気だったか? チビスケドモ


 ガウェインの前に、幼い少年と少女がワイワイと駆け寄ってきた。


「わーっ! じいちゃんだ! じいちゃん! その目どうしたの?」


 元気でワンパクなお兄ちゃんのガロウが眼帯ガンタイをしたガウェインの左眼ヒダリメを指差して驚く。


「あぁ……これか、ちょっと目の病気になったんだ。お父さんはいるか?」


 子供達は、自分達が母や祖母と同じ先天性の病気だとは知らない。


「そうなんだ、早く治ると良いね!!」


 ガウェインは特別、眼の事は気にしてはいないのだが、子供達が見れば大騒ぎになると思い、わざわざ事前に眼帯をアツラえてきた。


「父ちゃーん! ガウェインじいちゃんが来てくれたよー!」

 

 ガロウは父親を呼ぶ為に家の奥へとけていく。


「じぃじぃ」


 ガロウの後ろにカクれて、ずっと大人しくしていたのは妹のガレリアだ。


「なにしにきたの?」


 ガウェインはガレリアをきかかえて頬擦ホオズりする。


「ん〜? お父さんにちょっと用事があってな……」


 ガウェインは容姿も性格も妻ガレア、娘ガリアの生き写しなガレリアにはめっぽう甘い。


「お義父トウさん、どうしたんですか突然……? どうされたんですかっ!? その眼!」


 義子ギシのガフィールが焦った様子でやってきた。


「いや、何……大した事じゃない。それより、いいか……?」


 ガウェインはガレリアを降ろし、ガフィールに目配せで合図を送る。


「ガロウ、ちょっとガレリアと一緒に奥で遊んでなさい。父ちゃんはおじいちゃんとちょっと大事な話があるからな」


 ガロウはガレリアの手を優しく引いて、奥の部屋へとけて行った。


「お義父トウさん。それで、話と言うのは?」


 ガウェインは、背負っていたバッグの中から大きなカワ袋を取り出し、ガフィールに開いて見せる。


「これで、あの子達を頼む」


 部屋の壁や天井テンジョウが金色に染まる。


「こ、これは!? どうしたんですか! こんな大金!!」


 ガフィールは思わず声が大きくなり、慌てて手で口を塞いだ。


「何……。お前達が気にする事じゃない」


 ガウェインは一瞬、外を気にして窓をノゾく。


「俺は妻も娘も救ってやる事が出来なかったからな……。これは、そのツグナいだ」


 ガウェインは部屋の壁にカザられた小さな肖像画ショウゾウを見つめる。


「それと、当分の間、お前達に会えなくなる」


 ガウェインはガフィールに目線メセンを写して話す。


「それは……これと何か関係が?」


 ガフィールは、義父ギフが何か危険な事にカカわって、追われたりでもしているのではないか……? と想像ソウゾウした。


「いや違う、これとは全く関係ない、心配するな」


 ガウェインは大きく手と首を振って否定する。


「一つやり残した事があってな……その為だ。だから、子供達の事は頼んだぞ……」


 ガフィールはその言葉に、何か強い決意ケツイの様なものを感じた。


「分かりました! ありがとうございました!」


 ガフィールもその言葉に大きくウナズいて、子供達を守り抜くとアラタめて決心ケッシンする。

 

「でも、決して無茶ムチャはなされないで下さい。あなたはあの子達にとって、とても大事な存在なのですから!」


 ガウェインは、娘は良い男を旦那ダンナに選んだ……と思う。


「あぁ……分かった……」

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