夜明けのひみつ

美しい海だと噂が絶えない砂浜の一角。

その裏道に這いつくばるように、しばらく涙を流していた男がようやく立ち上がった。

その男は海に向いていた足先を、路地へと向けた。

そして握り込んでいた右手から何かを取り出した。

それは写真のようで、写り込んでいるのはこれ以上ない笑顔でこちらにピースをする男の娘だ。そのふわふわの髪の毛も、パッチリな目も、ぷっくりした頬も、首にある大きなホクロも、全てが愛おしそうに、男の目が柔らかく弧を描いた。

その時、男が息を呑む音が聞こえた。

ようやく、その事実に気がついたらしい。

裏道に反響するほどの声量で、嗚咽を漏らし、手は小刻みに震えている。

正直に言えば、遅すぎるな、と思う。

変わり果てた見た目でもそれくらい見つけられたはずだ。

少女の首に大きなホクロがあったことに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夜明けのひみつ 早坂綴 @hayasaka_tsuzuri

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画