第42話 夢

「どうでしたか?」


 車に戻ってから、庭さんの質問に僕はうまく答えられずにいた。


 ずっと結衣子の言葉が耳に残っていた。

 砂時計の最後の一粒――。

 一体どういう意味だろう。


 ただ、彼女を不用意に傷つけてしまったことだけは理解できる。


「ずいぶん、失礼なことを言ってしまいました……」


 しばらく時間が経つと、僕の中でむくむくと自己嫌悪が育っていった。

 結衣子に対して申し訳ないことをしたという気持ちが膨れ上がる。

 僕は庭さんに一部始終を聞かせた。


 庭さんは眉をひそめたり目を大きく見開いたりして、忙しく話を聞いた。


「森沢くん的には、彼女の反応をどう思いますか? 君の言うように、事件に関係している可能性があると思いますか?」


 結衣子は何かを認めたわけでも、また否定したわけでもない。

 僕はしばらく考え込んだ。


「分かりません……。すいません……」


 それよりも、今はまだ結衣子に対する申し訳無さがまさっていた。

 おもむろに空を見上げる。

 まるで自分の心情を表したような、灰色の雲がかかっていた。

 なぜだろうか。途方もない胸騒ぎが胸の中に広がっていた。



 その晩、ビジネスホテルに宿泊した僕は、夢を見た。


 いつものバーガーショップの席に、キヨが座っていた。

 僕の方を見つめ、笑顔を浮かべている。


「やばいでショ? これ、調べた方がいいでショ?」彼は何度も繰り返す。

 だがその声はどこか遠く、輪郭がぼやけていた。

 何か応えようと口を開いた瞬間、視界が暗転した。


 ホテルの無機質な天井が、突如として視界を覆う。

 手のひらの中にキヨのお守りがあった。無意識のうちに、握りしめていたようだった。

 キヨのお守りを枕元に置いて寝るのは、もはや習慣となっていた。

 僕とキヨとの最後の繋がりだった。


 窓の外に目をやると、まだ日は昇りきっていなかった。朝靄あさもやに包まれた静かな田舎町の風景が広がっている。


 夢でもキヨの姿を見られたことは嬉しかった。友人がそばにいてくれるような気がした。


「だから大丈夫」心の中でそう呟く。

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