第6話 リヴァイアサンの咆哮
どこまでも青く晴れ渡った大空。
その青色を写したように青い海の中に、一隻の船が浮かぶ。
波はとても穏やかで、船の上であることを忘れるほどに揺れを感じない。
甲板の上に佇む少女を潮風が心地よく撫でていく・・・
長い髪を風になびかせながら、少女はその手を伸ばす。
まるで空を掴もうとするかのように、高く・・・まっすぐに。
薄紅色の唇がすうっ・・・と息を吸い込んだ。
「ストームファルコン!」
・・・
しかし何も起こらない。
少女・・・アニスの叫びは虚空へと消えていくのみだ。
ため息をつきながらアニスは高く掲げた腕を下す・・・その右腕の腕輪には、依然と輝気を放つ星が一つ。
マーゲスドーンの記憶の中で見た勇者を名乗る少年、彼の右腕には、これとよく似た腕輪があった。
ストームファルコン・・・あの巨大な鷹のような幻獣の姿を、アニスは思い浮かべていた。
幻獣合身・・・アラシ少年と融合する事でイセカインのような巨人、勇者グランストームへと形を変えていた。
あの力が自分にもあったなら・・・そんな思いからアニスは記憶の中の勇者の真似をしてみたのだったが・・・
(ひょっとして・・・って思ったけど、やっぱりそんなに都合良くないか・・・)
よく似てはいたが、腕輪のデザインは細部が異なる。
やはりあの腕輪とは別物・・・古の勇者の腕輪がそのまま祭具として王家に伝わった、というわけではないようだ。
東大陸解放作戦・・・その第一歩として、勇者イセカインを乗せた大型船が東大陸を目指す事になった。
港町を魔王軍から解放して、王国軍の橋頭堡とするのが最初の目的だ。
その総大将が今のアニスの置かれた役割である。
西大陸を離れるわけにはいかない国王の代行者として、王族であり勇者の召還者でもあるアニスに白羽の矢が立ったのだ。
この船も彼女の名前からとって、プリンセス・アニス号と名付けられている。
イセカインを乗せる為に巨大化した船体にはマストがなく、真平らな甲板の上に屋根のようにもう一枚甲板が乗せられたそのシルエットは近代型客船のそれに近い。
大きく異なるのは、船体から左右に突き出た数十本の櫂。
兵士達が息を合わせて漕ぐ事で生まれる速度は、気まぐれな風に左右される事がない。
そして船の中央部と船尾には魔術師達が配置され、巨大な船体を安定させ推進力を高めていた。
今アニスが立っているのは屋根の部分である上部甲板だ。
マストを持たない事で出来た広い空間が高い開放感を生み出していて、見晴らしも良い。
その中ほどの位置では、イセカインが放水車の形態で駐機しており・・・
『アニス王女、今何をしていたのですか?』
「へ・・・い、イセカ・・・うぇええ!!」
背後から不意にかけられた声に動揺したアニスは、派手に転んで尻餅をついた。
イセカインは放水車の姿でずっとここにいたのだが、身動き一つしないのでその存在を失念していたのだ。
「痛たた・・・イセカイン、いつから見て・・・」
『私はずっと上部甲板にいましたので、最初から・・・アニス王女、今の行動にはどのような意味が・・・』
「な、なんでもないわ・・・これはなんでもないの!」
『今この船の最高責任者は貴女ですが・・・ここで魔術の練習をするのはあまり推奨出来ません』
彼のAIによる分析結果は理解不能、つまり魔術の可能性を導き出していた。
アニスは誰もいない甲板で新しい魔術の練習をしていた・・・そう判断したのだ。
「あ・・・え、えーと・・・そ、そうよね、ソニアに見つかったら怒られちゃうよね、うん」
『洋上では些細な事から大事故に繋がる可能性があります。それにいつ魔王軍の襲撃があるかもわかりません、くれぐれも気を付けてください』
「はーい」
イセカインが都合よく勘違いしてくれたおかげで、とりあえず誤魔化せた事にほっとするアニス。
さすがに勇者の真似をしていたと知られるのは少し恥ずかしい。
「そういえば、魔王軍に動きはないのかしら・・・てっきりすぐに襲撃があると思ったけれど・・・」
『今も周囲を警戒中ですが、私のセンサーにはそれらしき反応はありません』
イセカインはこの場所でずっと・・・船の周囲1キロメートル程の探査を続けている。
しかし空、海共にイセカインのセンサーには危険な適性体の反応はなかった。
せいぜい魚群が何度か接近するくらい・・・それも地球の海洋生物と程近いものが多く、魔物らしき存在はなかった。
「そう・・・魔王軍の支配も案外海にまでは及ばないのかもね」
『ええ、今もこの船の下で多くの魚達が泳いでいます・・・平和な良い海です』
そう語りながら、イセカインは伊勢湾の事を思い出していた。
あの海は無事に平和な海へと戻っているのだろうか・・・そしてカケル少年は・・・
望郷の念とでも言うべき感情を抱いたイセカインを、アニスの声が引き戻す。
「この船の下にたくさん?じゃあ今釣りをすれば魚が釣れたりするのかしら」
『はい、もしもこの船が漁船であれば大漁だったでしょう』
アニスは船の下で泳いでいるという魚群が気になったようで、しきりに海面の方を覘き込んでいる。
「へぇ・・・じゃあ平和になったら漁船に改造してもらおうかしら」
『魚群が遠ざかりました・・・アニス王女の食欲を感じて逃げてしまったのかも知れません』
「イセカイン、それじゃ私が食い意地張ってるみたいじゃない!」
『騎士ソニアから今朝もつまみ食いをしたと伺っておりますが・・・』
「う・・・いや・・・あれは・・・って、いつの間にソニアとそんな話をするように・・・あ」
ぐぅぅ
その話題をきっかけに空腹を思い出したのか、アニスのお腹が空腹を告げた。
顔を赤くしてお腹を押さえるアニスだが、お腹は鳴り止んでくれなかった。
『昼食の時間まであと少しです・・・耐えてください』
「うぅ・・・おなかすいた・・・」
空腹でよろけるアニスを車体で支えながらイセカインが励ましの声をかける。
今日もプリンセス・アニス号の航海は平和に続いていた。
その海の奥深く・・・美しい珊瑚礁が芸術的な姿を見せていた。
大樹のように大きく育った珊瑚が、その枝を円盤のように広げ天蓋を形作っている。
その下にも珊瑚が、壁となり層となり・・・いくつもの区画を構成している。
・・・それはまるで天然自然が時を費やして生み出したかのような珊瑚礁の宮殿。
それが彼ら人魚族の王城だ。
岩などの建材の表面を削り、そこに珊瑚を定着させて補強する・・・海に住まう彼らならではの建築技術である。
もちろんそれはこの王城のみならず、人魚たちの住居にも使われており、王城を中心に珊瑚の街並みが海底一面へ広がっていた。
「父上、人間達の船を監視させていた魚達が気付かれたようです」
「さすがは勇者の一行・・・勘の鋭い者もいるようだな」
人魚の王、アトーリアの前に現れたのは彼の息子であるキュリオーン。
若くたくましい肉体と美しい顔立ちをした人魚族の王子だ。
人魚達からの人望も厚く、やがては王を継ぐ者として将来を期待されている。
「ですが、人間達の船は直進を続けています。このまま行くと暴食の海域に差し掛かるでしょう」
「双角鮫の住処か・・・」
双角鮫・・・文字通り2本の角を頭部に持つ大きな鮫だ。
凶暴な性格で、近寄る者は何であれ噛みつき食らう・・・その姿から悪食鮫と呼ぶ者もいた。
暴食の海域とは、そんな彼らの餌場とも言える危険な海だ。
「そろそろ仕掛ける頃合いか・・・」
「父上・・・」
キュリオーンは何事かを言いかけたが、口を閉ざした。
だがアトーリアも息子が何を考えているのかは理解出来た。
「元来、俺達海の民は陸の争いには干渉しない・・・あんな者達など放置するべきだと言いたいのだろう?」
「はい、我らは古の大戦にも不干渉を貫いたはず・・・それをなぜ・・・」
「魔王などに従うのか・・・か?」
「はい、勇者と魔王など勝手に争わせていれば良い・・・皆の意志です」
彼ら人魚族は自由を愛する海の民だ。
対等な取引ならともかく、ただ陸の者達の言いなりになって戦うなど納得できる事ではない。
「勇者か・・・魔王を凌ぐ程の者ならば良いのだがな・・・」
「父上はいったい魔王の何を恐れているのですか!勇敢な父上はどこへ行ってしまったのです!」
武勇で知られた彼らの王とも思えない弱気な言葉にキュリオーンは激高し、口に出せずにいた言葉を吐き出した。
誰よりも強く、勇敢な父をキュリオーンは尊敬し憧れていたのだ。
年老いたとはいえ、その鍛え上げられた肉体は未だ健在。父の域に追い付くにはまだまだ程遠いと感じさせれられている。
・・・そんな父が何かに怯える姿など見たくなかった。
父が恐れる魔王というものはどれ程の存在なのか・・・しかし、その答えは帰ってこなかった。
「もうお前たちは何もしなくていい・・・勇者は俺が倒す」
「父上・・・」
黄金に輝く愛用の矛を手に取り、アトーリアは一人王城を後にする。
その父の背からは強い闘気が感じられた・・・やはりその力は衰えてなどいない。
「なぜ・・・なぜなのですか・・・父上・・・」
どうしようもない悔しさを胸に、キュリオーンはその後を追った。
この戦いを見届けなければ・・・そこに答えがある、そんな気がしたのだ。
彼に気付いているのか、アトーリアは泳ぐ速度を上げていく・・・父の姿を見失わないように、彼は必死に後を追い続けた。
プリンセス・アニス号には300人ほどの兵士達と数十人の魔術師達が乗っている。
その中にはソニアとその部下である少年兵達・・・幾度もの実戦を経験した彼らは立派な戦士としてこの船に乗っていた。
今彼らは船の左舷側で、三人一組となって大きな櫂を漕いでいる。
魔術によるものなのか、周囲の波はとても穏やかで巨大な船体は滑るように海面上を加速していく。
「しかし良いんですか?ソニア様までこんな事をしていて・・・」
櫂を漕ぎながらカロは隣で漕ぐソニアに問いかける。
すっかり成長した彼にかつての気弱な面影はなく、漕ぎながら会話をするだけの余裕が生まれる程になっていた。
「私だけ楽をするわけにはいかないさ・・・これはこれでいい鍛錬になっているしな」
ソニアも漕ぎながら答える。
本来ならば彼女にはアニスの護衛という役割があるのだが、今は傍にイセカインがいる。
そしてアニス自身も魔術を身に着けるなど成長著しく、今ではソニアと互角に渡り合えるのではないかと思う程だ。
アニスを護衛する必要性も薄くなってきていた。
(本当に私も、うかうかしていられないな・・・)
護るべき主に置いて行かれないように、ソニアは自らの弱点の克服を計る。
この櫂を漕ぐ作業は、彼女に不足している筋力を鍛えるのにちょうど良かった。
三人のポジションによって鍛えられる部位が違うのも良い。
この戦いが終わった後も兵達の訓練に取り入れるのも良いかも知れない。
そんな事も考えていた彼女を不意に違和感が襲った・・・櫂が急に重くなったのだ。
「どうしたお前たち、休憩にはまだ早いぞ」
「いや、俺も手抜きなんてしてないですよ」
見るとカロも他の兵士も必死に櫂を漕いでいた。
となれば原因が櫂の方にあるのは明白だ。
「これは・・・海藻でも絡みついたか?・・・」
しばらくすると、他の櫂を漕いでいた兵士達の方からも似たような反応が現れていた。
誰がサボったかで言い争いが発生している所もある。
「漕ぎ方やめ!櫂に何らかの異常が発生しているようだ、皆はしばらく待機していてくれ」
そう言ってソニアが魔術師のいる場所へ向かおうとした時、船が揺れた。
『アニス王女、非常事態です』
「え・・・」
センサーで海中を調べていたイセカインにはこの状況が手に取るように分かった。
大型の鮫と思われる海中の生物が、この船へと群がって来ているのだ。
櫂を餌の魚だとでも思っているのか、船に肉薄した鮫は櫂に噛り付いていく。
ソニア達の感じた櫂の重さは、この鮫たちによるものだったのだ。
『海中の生物のようですが、このままでは航行に支障をきたす恐れあり、これより駆除を開始します』
「それって・・・どういう・・・わわっ!」
首をかしげるアニスを甲板上に残したまま、素早く変形したイセカインが海中へと飛び込む。
盛大に上がった水飛沫と衝撃が船を揺らした。
それからしばらくして海面へと浮かんできたのは鮫の死骸だ。
そこへ別の鮫が群がってくる・・・悪食なこの鮫は同胞をも食すのだ。
「な、なんなのよ・・・こいつら・・・」
何が起こっているのかも理解しないまま繰り広げられる残虐な光景。
アニスの目の前で、瞬く間に海面が鮫の鮮血で染まっていく。
『彼らにこの船を餌だと思われたようです、決して海面に近づかないでください』
「餌って・・・見境無さ過ぎるわよ!」
船上のアニスが悲鳴のように声を上げる中、イセカインは櫂に噛みつく鮫を一匹ずつ駆除していく。
それらの鮫の死骸にはすぐに別の鮫が殺到し食い尽くしていく・・・
さすがに木の櫂よりも鮫肉の方が好まれたようで、次第に櫂に噛みつく鮫はいなくなった。
しばらくすると満腹になったのか、鮫たちの姿は遠ざかっていった。
安全が確保されたと判断したイセカインが船上に帰還したのは、ちょうどソニアが甲板上に駆け付けた頃だった。
「アニス様、ご無事ですか?・・・これはいったい・・・」
「ソニア・・・どうやら終わったみたいよ」
『この海には予想以上に危険な生物が多いようです。彼らに食べられてしまった櫂の交換を申請します』
ズブ濡れになっているアニスの姿と、返り血に染まった海面。
事態を理解するのは難しいが、状況はイセカインによって解決したしたようだ。
「ああ・・・たしか予備の櫂があったはずだ、すぐに手配しよう」
『船外作業が必要でしたら私も手伝います』
蚊帳の外のまま解決してしまった状況に僅かな不満を感じながらも、ソニアが事後対応を開始したその時だった。
「なるほど、お前が勇者か・・・」
「?!」
声がしたのはプリンセス・アニス号の前方・・・その海中より一人の人物が姿を現した。
逞しい肉体を持ったその男は、黄金の矛を手に名乗りを上げた。
「俺の名はアトーリア、四天王の「水」と言えば、用件はわかるな?」
「四天王・・・!」
魔王軍四天王が勇者の前に現れる意味はただ一つ。
それが人間達に浸透したのを見たアトーリアが不敵に微笑む。
『激しい戦闘が予想されます、二人は船内に避難を・・・』
「いいえイセカイン、私達を乗せなさい!」
四天王という事はマーゲスドーンと同等の戦力。
先の戦いのデータから苦戦は免れない。
そう判断して避難を促すイセカインだったが、アニスは毅然とした態度で命令した。
「アニス様?!」
『アニス王女、それは危険です』
「何言ってんの、この前だって私がいなかったら危なかったくせに」
『いや、それは・・・』
「相手は四天王、イセカインだけじゃきっと勝てないわよ、さっさと乗せなさい!」
「ですが、なぜ私まで・・・」
「いいから、早く!敵は待ってくれないわよ!」
アニスに押し切られる形で搭乗席を解放するイセカイン。
勢いでソニアも押し込まれてしまった。
アニスは手慣れた様子で二人分のシートベルトを締めていく・・・
彼女の言葉に反して、敵・・・アトーリアは攻撃を仕掛けてくることはなかった。
しかし・・・
「ふん、人間の魔導騎兵か・・・この海でどれ程戦えるか、見せてもらおう」
彼は黄金の矛を高く掲げ、叫んだ。
「この海を守護せし大いなる大海の覇者よ・・・来たれ、リヴァイアサン!」
「え・・・」
既視感のあるその光景にアニスが息を漏らす。
次の瞬間、アトーリアの背後の海面から、水飛沫をあげながら巨大な海蛇・・・海竜リヴァイアサンが姿を現した。
そして、アトーリアはリヴァイアサンの口の中へと飛び込んでいく。
「神獣合身!」
「う、嘘でしょ・・・あれはまるで・・・」
リヴァイアサンの姿が大きく変わっていく・・・
翼のような大きなヒレが開き・・・鱗に覆われた身体から腕のようなものが突き出してくる。
それは、かつてアニスが垣間見た古の勇者グランストームの変形を思い起こさせた。
最後に竜の口の中から人の顔のようなものが現れ、その瞳がアクアブルーの光を放った。
『神獣リヴァイアサンと一体化したこの姿こそ海の王者なり!さあ勇者よ、その力を俺に見せよ!』
人のような上半身となったその姿は巨大な人魚を思わせる。
そして、その手には自らの姿に合わせて巨大化したかのような黄金の矛が握られていた。
「あれが、神獣リヴァイアサン・・・父上の真の力・・・」
アトーリアの後を付いて来ていたキュリオーンは、驚愕の表情を浮かべていた。
一族の中でも選ばれし者にしか呼び出すことの出来ない神獣リヴァイアサン。
彼もまた実物を見たのはこれが初めてだったのだ。
人間達の勇者、イセカインの巨大さにも驚いたが、その雄大な姿には魂を揺さぶられるものを感じずにいられない。
場合によっては父の加勢をと思っていたキュリオーンだったが、もはやそんな次元の戦いではなくなっている事を実感する。
今目の前で繰り広げられるのは、まさしく伝説の戦いと呼ぶべきもの。
(この戦いを見届ける事こそが、海神がこの身に与えた使命か・・・ならば、一瞬たりとて見逃すまい)
父の勝利を疑う事無く、観戦に集中するキュリオーンだった。
「イセカイン、気を付けて・・・」
『わかっています、あの姿は水中での戦闘に適応したもの・・・』
そう言いながらもイセカインは、プリンセス・アニス号から飛び降りて海中へと着水する。
「ちょっと、イセカイン?!」
『船を護りながら戦うのは難しいと判断しました、それに・・・』
敵の狙いがイセカインであるならば、船から離れた方が巻き込まずに済む。
それくらいはアニスにもわかる、だからと言って相手の有利な海中で戦うのは・・・
『それに・・・私は元々伊勢湾を、海の平和を守る為に生まれた勇者ですので』
搭乗席の気密と共に、イセカインの各部スラスタが切り替わる・・・地上用の者から水中用の物に。
そう・・・イセカインもまた、水中での戦いを得意としているのだ。
『ほう・・・海の平和を、か』
アトーリアの海の色の瞳が光る・・・その視線は油断する事なくイセカインの動きを窺っていた。
イセカインはセンサーで海流の動きを捕捉し、スラスタに微調整が入れながら静かに構えた。
その手にはマーゲスドーンとの戦いでも使った鉄の棒・・・の先端に、今度は槍のような穂先が括り付けられていた。
(この海中で姿勢を崩さぬか・・・確かに口だけではないようだ)
地形による優位を得られなかった点に動じる事はなく、アトーリアはこの強敵との邂逅に闘志が滾るのを感じていた。
果たしてこの勇者に、あの魔王を倒す程の力があるのかどうか。
勇者は構えながら少しずつ移動している・・・軸線を船から外そうというのだろう。
イセカインの望み通りに船が離れるのを待つ・・・それはアトーリアも望むところなのだ。
この勝負に余計な物は要らない。
『どちらがこの海に相応しいか・・・いざ、刃を交えて決するのみ!』
先に仕掛けたのはアトーリアだ。
黄金の矛による鋭い突きが、水中とは思えぬ速度でイセカインを襲う。
しかしイセカインも素早い身のこなしで突きを躱し、距離を取る。
『アクアブリット!』
イセカインの放水銃から放たれた水の弾丸が、不可視の矢となってアトーリアに迫る。
『リヴァイアスロア!』
アトーリアの胸を中心に海水が振動する。
超音波によって海中に生まれた細かな空気の層が、水の弾丸を分解していく。
両者共に水中での実力をいかんなく発揮している・・・戦況は互角だった。
(やっぱりあれは、勇者の力と同じもの・・・)
相対する四天王に勇者と同じものを感じたアニスは動揺していた。
アトーリアの戦い方は、先日のマーゲスドーンの記憶を嫌が応にも思い出させてくる。
目の前の相手は本当に敵なのか・・・それとも・・・
(まさか魔王は勇者同士を戦わせて、潰し合わせようとしているの?)
それが魔王の目論見なのか・・・しかしアトーリアには操られているような様子はない。
マーゲスドーンのようにアンデットというわけでもなさそうだ。
(このまま二人を戦わせちゃいけない・・・でも、どうすれば・・・)
実力が伯仲した戦いは、わずかな隙が命取りとなる。
アニスは何も出来ず、この戦いを見守る事しか出来ずにいた。
そのアニスの隣でソニアは、初めて乗ったイセカインの搭乗席の情報量に圧倒されていた。
(これが、勇者の視点なのか・・・)
傍目には・・・船に残された兵士達や海中のキュリオーンからは、人知を超えた戦いを繰り広げているようにしか見えない。
ソニアも今まではそちら側の光景しか知らなかった。
・・・だが、この搭乗席から見える景色は違った。
イセカインの動きが、まるで自分の事のように感じられる。
アトーリアの巨大さにも圧倒される事はない、ここから見れば同等の対戦相手に過ぎないのだ。
そして、この環境に慣れて来るにつれて、ソニアはイセカインの動きに違和感を抱くようになっていた。
(・・・接近戦を避けているのか?)
矛による攻撃を幾度となく繰り出してくるアトーリアに対して、イセカインは距離を取って戦おうとしていた。
その理由にもソニアはすぐに思い至る。
「イセカイン、もしや貴方は・・・その武器を扱いかねているのか?」
『はい、せっかく用意して頂いたのですが申し訳ありません。私のデータ不足です』
返事はすぐに返って来た。
不慣れな武器での戦いは明らかに不利だ、接近戦を避けるのは仕方がない。
ただの棒よりは良いだろうと思っての加工が仇となった。
槍ではなく、剣が用意出来ていれば・・・アニスに教わった剣術が生きただろうに・・・
(いや待て・・・確かあの時・・・)
アニスが剣術を教えていた時の事を思い出す・・・あの時イセカインは、アニスの動きを余計な所まで正確になぞって・・・
その時、ソニアの脳裏に一つの案が浮かんだ。
思い付いた事を確認するために、ソニアは問いかける。
「イセカイン、今ここにいる私達の姿は見えているのか?」
『はい、二人の姿は私のカメラで視認していますが・・・』
質問の意図を計りかね困惑するイセカイン・・・そのわずかな隙を狙ってアトーリアが矛を繰り出す。
「今から私の動きを見て、同じ動きをするんだ、腕の動きだけでも良い」
そう言ってソニアが腕を動かす・・・それは槍こそ持たないものの、王国式槍術の構えだ。
そしてイセカインはその動きを正確に模倣した、その結果。
『なに・・・!』
イセカインの槍が、まるで蛇のように黄金の矛へと巻き付いていた・・・いや、そう見える程に滑らかな動きで矛の軌道を受け流している。
巻き落とし・・・槍対槍での戦いを想定した王国式槍術の基本技だ。
そのまま受け流した相手へのカウンターを試みるが、その動きは目測を外れてしまった。
その隙にアトーリアが体勢を立て直し、再び矛を構える。
だが、それでも充分な成果は得られていた。
『意図を理解しました、騎士ソニア。移動は口頭で指示を、後はこちらで調整します』
「イセカインを通してとはいえ・・・まさかこの私が四天王と刃を交える事になるとはな・・・」
急に動きが変わったイセカインを警戒してか、アトーリアは仕掛けてこない。
慎重に間合いを計ろうとしているのがソニアにもわかった。
「ならばこちらから仕掛ける、直進だ」
『了解』
槍を構えて突進するイセカイン、単純ながらも鋭い突きがアトーリアの頭部を狙う・・・しかしそれはフェイントだ。
目の近くを狙う事で高い位置に誘導された視線は下方への隙を生む。
アトーリアの頭上へと反れたかに見えた槍がくるりと回転し、その腹を打つ。
『く・・・』
ソニアの強さはその技の正確さにある。
生身での戦いでは筋力の不足が否めないが、イセカインによってトレースされた技は最大限の威力となって発揮される。
それはもはや達人の域と呼ぶべきものであり・・・
鍛えた肉体こそを頼みとする戦い方をしていたアトーリアに太刀打ち出来るものではなかった。
「馬鹿な・・・父上が・・・」
圧倒的な存在だった父が、海の神獣リヴァイアサンが、負ける・・・
キュリオーンは、目の前で繰り広げられている光景が信じられなかった。
しかし誰の目にもアトーリアの劣勢は明らかだ。
「何か・・・何か私に出来る事はないのか・・・」
キュリオーンがその小さな身体で加勢に入ったところで何も出来ないだろう。
よしんば何か出来たとしても、アトーリアは卑怯な手段を良しとしない・・・だがそれでも父が負けるよりは良い。
(私にもっと力があれば・・・)
キュリオーンは自らの非力さを痛感していた。
そこへ・・・
「力が欲しいのかしら?」
「!」
不意に背後から声が聞こえた。
キュリオーンは慌てて振り返ったが、誰もいない。
「・・・今のはいったい・・・」
その直後、彼の全身が硬直した・・・魔術による拘束、それもかなりの魔力の持ち主によるものだ。
指一本動かせない彼の背後から腕が回され・・・首筋を撫でる感触に怖気立つ間もなく、彼の意識は闇に落ちた。
『アクアバレット!』
水の弾丸を牽制に使い、回り込んだイセカインが槍の一撃を放つ。
ソニアとイセカインの連携はアトーリアに反撃の隙を与えない。
アトーリアの動きも段々と鈍っているように感じられる。
リヴァイアサンの強靭な身体であっても、そこにダメージが蓄積しているのは間違いない。
とどめの一撃を放つべく、ソニア、そしてイセカインは必殺の構えを取る。
「ここで決めましょう、アニス様、槍に付与の魔術を」
「・・・だよ・・・」
「アニス様?」
「だめだよ・・・ソニア、あれを倒しちゃいけない」
「何を言っているのですか?!あれは魔王軍の四天王ですよ」
戦いを止めようというアニスにソニアは困惑する。
相手は魔王軍の四天王、それに今ならば勝利はほぼ確実だというのに・・・
しかしアニスは今にも泣きだしそうな顔でソニアへ懇願する。
「そうだけど違うの・・・何て言うか・・・とにかくお願いソニア、もう戦いを止めて・・・」
アニスの言葉は要領を得ない、しかしイセカインには通じるものがあったらしい。
ソニアの動きの模倣をやめ、構えを解く。
『確かに、彼の戦いからは邪悪な気配を感じられませんでした。一度対話を試みても良いかも知れません』
「イセカイン・・・私の言葉をあの四天王・・・アトーリアに届けられる?」
『問題ありません』
(構えを解いただと・・・今度はいったい何を・・・)
急に構えを解いて動きを止めたイセカイン。
困惑するアトーリアの耳に届いたのは、この戦場に場違いな少女の声だった。
『アトーリア、この声が聞こえますか?私の名前はアニス、人間の王女です』
『聞こえているぞ、人間の王女とやら・・・これは何のつもりだ?』
水中であっても声は届くようだ。
そして問答無用という事もなくアトーリアは返事をしてきた。
会話が成立した事に安堵しつつ、アニスは言葉を続ける。
『私達はこれ以上の戦いを望みません・・・どうかこの場は見逃してくれませんか?』
劣勢なのは相手の方だが、お願いするのはこちら側だ。
精一杯相手を立てる形で交渉を開始する。
『見逃せ、と言うのか・・・お前たちを』
『はい、私達の目的は東大陸への上陸です・・・この海をどうこうするものではありません』
出来る事なら船での通行くらいは認めてほしいところだが、まず優先すべき事は停戦だ。
そこから先は後で時間をかけて交渉すればいい。
『私は貴方が戦う理由を知りません、魔王軍内での立場もあるのかも知れません・・・ですが』
『ならばここで俺を倒して行けば良いだろう・・・なぜそうしない?』
『それは・・・』
『この俺を殺したくない、か?』
『・・・はい』
アトーリアは海の勇者とも言うべき戦士だ。
決して倒すべき邪悪な存在ではない・・・アニスは素直な思いを口にする。
しかし、アトーリアは嘲笑を以って返した。
『フ・・・ハハハッ!甘い、甘いぞ王女!』
『え・・・』
『そして勇者よ、そんな甘い考えで魔王が倒せると思っているのか!魔王を倒したくば、まずこの俺を倒して行け!』
そう言い放ち、アトーリアは黄金の矛を高々と掲げる。
逆転の手を隠し持っているとでもいうのだろうか。
(違う・・・あれは・・・)
アトーリアは深い海の色の瞳でまっすぐにこちらを見据えている。
自らの命を賭してでも護る者を持つ者の強い意志を秘めた瞳だ。
『アトーリア・・・何が貴方をそこまでさせているの?アナタは何を護・・・』
『くどいぞ!その甘さごと、この矛で貫いてくれよう!』
「そうそう、甘いのよね~」
「?!」
不意に聞こえた聞き覚えのない声・・・その男は、上空より優雅に舞い降りた。
「はじめまして、かしら・・・人間達、そして勇者イセカイン」
細身の身体に、透けるような薄い布が幾重にも巻き付いたその姿は植物の花弁を思わせる。
「私は魔王軍四天王「風」のミラルディ・・・以後、お見知りおきを・・・」
「四天王がもう一人・・・だと・・・」
その名乗りは、これから状況が大きく動く事を物語っていた。
四天王を同時に二人相手にするとなれば、今までの優位など無きに等しい。
「あらあらビビっちゃった?でも安心してねぇ、私は越権行為っていうやつはしないの」
『では何をしに来た?ミラルディ』
戦いに水を差されたせいか、アトーリアの声は不機嫌そうだ。
同じ四天王という立場だが、この二人は仲が良くないように見える。
「まぁ今日の所は噂の勇者様にご挨拶を、と・・・そういえばアトーリアが負けそうだったわね」
『ふん、お前の助けなどいらんぞ』
「別に助けるつもりはないんだけど・・・でも、この子がね・・・」
『キュリオーン!?』
どんな魔法を使ったのか、ミラルディの左手には一人の人魚が・・・まるで猫のように首を掴まれ、ぶら下げられていた。
キュリオーン・・・アトーリアの息子たる王子は、意識を失っているのか身動き一つしない。
『ミラルディ・・・貴様、我が息子キュリオーンに何をした?』
「まだ何もしてないわよ?今は眠ってるだけ・・・ホラ、目を覚ましなさい」
「・・・ここは・・・父上!」
ミラルディのその言葉を合図としたかのように、キュリオーンが意識を取り戻した。
ミラルディの手から逃れようとするが、その細い腕は恐るべき力で彼を捕えて離さない。
「この子がねぇ・・・お父さんを助けたいって言うから、心優しい私としては力を貸してあげようと思うわけ」
そう言ってミラルディは、怪しげな光を放つ宝石のような物体を取り出した。
それを見た瞬間、アトーリアの目が驚愕に見開かれる。
『な・・・それは・・・』
「アトーリアはこれ知ってたわよね?魔王様からのプレゼント、生き物を魔物へと変える素敵なおくすり・・・これを一つ海に溶かせば、たちまち魔物溢れる死の海の出来上がり~」
『な・・・なんですって』
前触れもなく突然、大量の魔物が襲ってくる事があり・・・あの魔物達はどこから送り込まれたのかと不思議に思った事があった。
強力な転送魔法の類で送り込まれてきているのかと思っていたが、生き物を魔物へ変える薬・・・そんな物が存在するとは・・・
『話が違うぞ、魔王はそれを海に使う事はないと・・・』
その言葉を聞いてアニス達は理解する。
アトーリアがなぜ魔王軍に付いたのか、そして最後まで戦おうとする意味を・・・
ミラルディは同じ四天王のアトーリアを嘲笑うように・・・いや、実際嘲笑っていた。
「そうねぇ・・・海には、使わないけど・・・実はコレ、一人で飲み干すとすごい事になるのよね」
そう言いながら、ミラルディは薬をキュリオーンの口元へと・・・
『そこまで聞いて、おとなしくしてる理由はないわよ、イセカイン!』
アクアバレットがミラルディの、薬を持つ右手を精密に狙い撃つ。
慌てて回避するミラルディだが、キュリオーンから手を放してしまった。
「あらいけない」
『させぬぞ!』
すかさずアトーリアがミラルディとの間に割って入り、息子の身を庇う。
目論見が失敗したミラルディはその顔に・・・笑みを浮かべた。
「なーんてね、本命はこっち」
『!!』
ミラルディはそのままアトーリアの頭部に肉薄し、薬を持つ右手をアトーリアの口の中へとねじ込んだ。
『ぐわあああああああああ!』
「そんな・・・父上!」
苦悶の声を上げるアトーリア・・・その姿が変貌していく。
内側から避けるように肉が噴き出し、優美とは程遠い醜い肉塊の魔物へと・・・
「神獣リヴァイアサンだっけ?はたしてどんな魔物が生まれるのかしら?とっても興味深いわ」
『な・・・なんてことを・・・』
「フフッ・・・すごいのが生まれたわね、じゃあ私はここでお暇させてもらうわ」
『邪悪な者よ、逃がしはしない』
逃げようとするミラルディにイセカインが迫る・・・しかしミラルディは足元から現れた転移の魔方陣によって一瞬にして姿を消す。
その場に残されたのはイセカイン達とキュリオーン・・・そして、かつてアトーリアだったもの。
もはやその意志は失われ、暴走を始めた肉塊の魔物だけだ。
「父上!私の声を聞いてください、父上!」
暴走を止めようと必死に語りかけるキュリオーンだが、肉塊はその彼をも飲み込もうと大きく口を広げ、襲い掛かる。
「そんな・・・く・・・」
回避は間に合いそうにない。
(私はこのまま父と共に死ぬのか・・・)
結局父に追いつくこともなく・・・巨大すぎる悪意に抗う事も出来ないまま・・・
キュリオーンは諦めて瞳を閉じた・・・しかし、その瞬間は来ない。
『諦めちゃダメよ!』
その声に目を開けると、目の前では勇者が迫りくる肉塊へと槍の一撃を繰り出していた。
それはまるで背後にいるキュリオーンを庇っているかのような戦い方で・・・実際庇っているのだろう。
「何故だ・・・私もお前たち人間の敵のはず・・・なぜ私を庇う?!」
キュリオーンも勇者とアトーリアの激しい戦いを見ている。
あれだけの戦いを繰り広げた敵の陣営の者を助けるなど理解出来ない。
しかし、人間の王女、アニスは至極当然の事のように言い放った。
『あなたも勇者だからよ!』
「私が・・・勇者?」
『アトーリアは、この海を護るために命を掛けて戦った勇者だった・・・』
それはキュリオーンも異論はない。
父は一族の誇り、どこまでも偉大な海の勇者だ。
しかし、自分が父と同じ勇者であるとはとても・・・
『あなただって勇者よ、お父さんを助けようって勇気を出してここまで来たんでしょ!だから、諦めないで』
「しかし、今の私に出来る事など・・・」
襲い来る肉塊の動きは大雑把で、今のイセカインの技量ならば攻撃を捌くのは造作もない。
しかし肉塊の方も物凄い生命力でその力が尽きる事がない。
再びイセカインの槍が閃き、鋭いその穂先が肉塊を切り裂いていく・・・その肉の中で何かが光った。
それは何度も憧れた輝き・・・キュリオーンは見紛うことはない。
「あれは・・・王家の矛」
イセカインはそれに気付かぬまま、迫りくる肉塊と戦い続けている。
意を決したキュリオーンは、隙をついて飛び出した。
『イセカイン、彼を追って』
『了解』
肉塊の攻撃からキュリオーンを庇いながら、イセカインが後を追う。
すると肉塊の中に黄金の輝きを放つ物体・・・アトーリアの使っていた矛を発見した。
無事にイセカインが付いてきている事を確認したキュリオーンは叫んだ。
「人間の勇者よ、あの矛を破壊してください!」
『え・・・あれを・・・』
「あの矛こそ神獣リヴァイアサンをこの世界に留める神器、あれを破壊すればこの魔物も・・・」
『でも、あれはお父さんの・・・』
「この海の平和を守るのが父の願いです、どうか・・・」
イセカインのモニター越しに、アニスはキュリオーンを見つめる。
その顔には強い意志を、その海の色の瞳には父と同じ勇者の魂を感じた。
「光よ・・・海の勇者の願いをこの手に・・・」
イセカインの槍に魔力の光が宿る・・・心なしか、以前よりも強い輝きを放っていた。
「ソニア、お願い!」
ソニアの動きをイセカインが模倣する・・・必殺の一撃が狙い違わず黄金の矛へと叩きこまれる。
次の瞬間、矛の黄金の輝きが爆発した。
その光は魔物の全身を包み込み・・・やがて大きな光の柱となって天へと伸びてゆく。
光の消えた後に残ったのは一人の人魚の姿。
しかしそれもどこかうっすらとしていて・・・身体の向こう側が透けて見えた。
「父上!」
父の姿の元へ、キュリオーンが駆けつける。
(キュリオーン・・・怪我はないか)
「はい、かすり傷程度です」
あの戦いの中、無傷というわけにはいかなかったが・・・
父を安心させようとキュリオーンは強がって見せた。
その甲斐はあったのか、アトーリアはその顔に微笑みを見せる。
そして彼はイセカインを見上げた。
(人間の勇者よ、済まなかった・・・そして、この海を救ってくれた事を感謝する)
『・・・』
はたしてイセカインのカメラにはその姿は映っているのか、彼は無言で敬礼をするのみだ。
(人間の王女・・・アニスと言ったか・・・)
そして彼はアニスへと最後の願いを告げる。
(どうか海の民を・・・お前たち人間の仲間に加えてはくれないか)
『もちろんよ、王女として約束するわ』
その言葉を聞いてアトーリアは安心したように瞳を閉じた。
その身体が光の粒となって消えていく・・・
(魔王は強いぞ・・・だがお前たちならば、きっと・・・)
「ええ、必ず勝つわ・・・偉大な海の勇者よ・・・どうか安らかに」
アニスは静かに祈りを捧げる。
その腕輪には新たに青い星が一つ、美しい輝きを放っていた。
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君達に極秘情報を公開しよう。
東大陸を解放する戦いの最中、古の勇者を祀った遺跡の話を耳にする。
果てしなく長い時の中に埋もれたその剣は、自らの主を待っていた。
次回 勇者イセカイザー 第7話 伝説の剣
に
レッツブレイブフォーメーション!
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