第50話 永い眠り
### 藤堂高虎、出世の白餅
**序章**
与右衛門(藤堂高虎)は、阿閉氏の元を出奔し、三河吉田宿(現在の豊橋市)で餅屋の前に立っていた。空腹と疲労に耐えかねた彼は、餅屋に入り、三河餅を食べ始める。だが、財布にお金がないことに気づく。
**本章**
与右衛門(藤堂高虎)は、店主の吉田屋彦兵衛に対して、無銭飲食をしてしまったことを正直に話す。
**与右衛門**: 「申し訳ありません、お金を持っていないのに餅をいただいてしまいました」
**彦兵衛**: 「それは困りましたね。しかし、あなたの苦しんでいる様子を見て、すぐに追い出すわけにもいきません。どうか、今は帰って親孝行をすることを考えなさい」
**与右衛門**: 「本当に申し訳ありません。私が帰ったら必ずお礼を申し上げます」
**彦兵衛**: 「これからのあなたの人生が幸せでありますように。この路銀を使って、故郷へ帰りなさい」
彦兵衛は路銀を渡し、さらに与右衛門の帰りを見送る。彼の妻がたまたま近江出身であったことも話に花を添える。
**転章**
年月が流れ、高虎は大名として出世し、参勤交代の際に吉田屋を再び訪れる。現在の主人は三代目中西与右衛門であった。
**高虎**: 「お久しぶりです、吉田屋の主人様。以前、こちらで無銭飲食をしてしまった藤堂高虎です」
**中西与右衛門**: 「ああ、お懐かしい。お話は聞いております。まさか、あなたがここまで成り上がるとは」
**高虎**: 「おかげさまで、私はここまで来ることができました。過去の恩を忘れず、お礼を申し上げたくて参りました」
**中西与右衛門**: 「ありがとうございます。私の祖先のことも話していただけるとは、嬉しい限りです。どうぞ、お餅の代金は結構です」
**結章**
「中川蔵人日記」には、1839年5月24日に、中川が中西与右衛門のもとを訪ねた際のエピソードが記されている。中川は「吉例の餅」をいただき、その後も宿泊時には主人が麻裃で餅を搗く習慣が続いていることを聞いた。
高虎の誠実な行動と出世の物語は、今も語り継がれる人情話となり、彼の旗指物である「三つ餅」は「城持ち」にかけられた意味があるとされている。吉田屋の逸話は、歴史の中で生き続ける人情と誠実さの象徴である。
元和3年(1617年)新たに伊勢度会郡田丸城5万石が加増され、弟正高が下総国で拝領していた3000石を津藩領に編入し、これで津藩の石高は計32万3000石となった。
なお、田丸5万石は元和5年(1619年)に和歌山城に徳川頼宣が移封されてくると紀州藩領となり、藤堂家には替地として大和国と山城国に5万石が与えられた。
元和6年(1620年)に秀忠の五女・和子が入内する際には自ら志願して露払い役を務め、宮中の和子入内反対派公家の前で「和子姫が入内できなかった場合は責任をとり御所で切腹する」と言い放ち、強引な手段で押し切ったという(およつ御寮人事件)。寛永4年(1627年)には自分の敷地内に上野東照宮を建立している。
事件の前年である元和4年(1618年)、娘・和子の入内を進めていた江戸幕府2代将軍・徳川秀忠と御台所・江は、典侍・四辻与津子(お与津御寮人)が親王(賀茂宮)を生んだことを知って激怒、更に与津子が懐妊したと知った秀忠は元和5年(1619年)9月18日、与津子の振る舞いを宮中における不行跡であるとして和子入内を推進していた武家伝奏・広橋兼勝とともにこれを追及した。
権大納言・万里小路充房入道は監督責任を問われて丹波篠山藩に配流、与津子の実兄である四辻季継・高倉嗣良を豊後に配流、更に天皇側近の中御門宣衡・堀河康胤・土御門久脩を出仕停止にした。これに憤慨した後水尾天皇は退位しようとするが、江戸幕府の使者である藤堂高虎が天皇を恫喝、与津子の追放・出家と和子の入内を強要した。元和6年(1620年)6月18日に和子の入内が実現すると、これに満足した秀忠は、今度は処罰した6名の赦免・復職を命じる大赦を天皇に強要した。
禁中並公家諸法度11条には、関白や武家伝奏の指示に従わない公家を流罪に出来る規定が設けられていたが、秀忠は武家伝奏と結んでこの規定を行使した。また、これをきっかけに江戸幕府による朝廷に対する様々な干渉が行われるようになった。なお、与津子が産んだ賀茂宮は元和8年(1622年)に死去、元和5年6月に生まれた文智女王は寛永8年(1631年)に鷹司教平(権大納言・左大将)に嫁ぐが離縁、出家して大和に隠棲した。
一方で内政にも取り組み、上野城と津城の城下町建設と地方の農地開発、寺社復興に取り組み、藩政を確立させた。また、幕府の命令で陸奥会津藩と讃岐高松藩、肥後熊本藩の後見を務め、家臣を派遣して藩政を執り行った。
** 政治の変わり目**
**シーン: 家光と高虎の密談**
**場所: 江戸城の書院**
家光が重臣たちと一緒にいる書院に、加藤高虎が呼ばれていた。家光はその若々しい顔に真剣な表情を浮かべ、部屋の中央に座っている。高虎は家光の前に膝をついている。
**家光:** 「高虎殿、これからの政局についてお話ししたいことがある」
**高虎:** 「何なりと、お申し付けください」
**家光:** 「私の治世を始めるにあたり、国内外の動乱をどうにか収めたい。反乱や敵対勢力が増えていると聞いている。高虎殿、君の経験と知恵を貸してほしい」
**高虎:** 「はい、承知しました。私の力を尽くして、お力になりたいと思います」
**家光:** 「それは頼もしい。まず、関東地方での反乱が激化しているとの報告がある。ここで高虎殿の軍略をもって、反乱軍を鎮圧してほしい」
**高虎:** 「かしこまりました。関東地方の状況を精査し、迅速に対策を講じます。ですが、少し気になる点がございます」
**家光:** 「何が気になるのか、言ってみなさい」
**高虎:** 「最近、内部に反乱を煽る者がいるとの噂があります。それが真実であれば、単なる反乱軍の鎮圧だけでは足りないかもしれません」
**家光:** 「なるほど。内部の敵がいるということか…。それについても調査を命じよう。高虎殿には、反乱軍の鎮圧だけでなく、内部の陰謀についても見張ってほしい」
**高虎:** 「承知しました。まずは情報収集を行い、迅速に対策を講じます」
**家光:** 「ありがとう、高虎殿。君の活躍を期待している」
高虎は頭を下げ、家光の指示を受けて書院を後にする。家光は高虎の背中を見送りながら、その決意に期待を寄せる。
**内憂外患**
**シーン: 高虎の戦略会議**
**場所: 高虎の陣営の本陣**
高虎が集めた部下たちと共に、戦略会議が開かれている。彼は地図を広げ、各地の情報を整理している。
**部下A:** 「高虎様、関東地方の反乱軍は予想以上に組織的です。反乱軍のリーダーが強力な戦略家である可能性があります」
**高虎:** 「うむ、そこが問題だ。反乱軍がただの暴徒であれば、我々の力で簡単に鎮圧できる。しかし、背後に何らかの影響力を持つ者がいるならば、戦略を練り直さなければならない」
**部下B:** 「どうすればよいでしょうか?」
**高虎:** 「まずは、反乱軍の動きを詳細に分析し、リーダーの位置を特定する。その上で、我々の軍を分散させて、各方面から包囲する戦術を取る。さらに、内部の情報網を強化し、敵の動向を把握するのだ」
**部下A:** 「かしこまりました。すぐに準備を整えます」
**高虎:** 「良い。それと、反乱軍の背後にいる可能性のある人物についても調査を続けること。内部の敵が現実のものであれば、根本的な対策が必要だ」
部下たちは高虎の指示に従い、準備を進める。高虎は地図を見つめながら、これからの戦いに対する計画を練り続ける。
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寛永7年(1630年)10月5日、藤堂高虎は江戸の藤堂藩邸にて静かに息を引き取った。病床に臥せっている高虎の側には、長男の高次と家臣たちが集まっていた。高虎の一生を振り返りながら、彼の最後を見守っていた。
「高虎殿、どうかお休みください。私たちは今後も必ずお守りいたします」高次は涙をこらえつつ、父に語りかけた。
高虎は微弱な声で応じた。「高次……お前がこれからこの家を継ぐ。心をしっかり持って、家を守るのだ」
「はい、父上。お言葉を胸に、これからも藤堂家のために尽力いたします」高次は深く頭を下げた。
その時、家臣の一人が高虎の元へ歩み寄り、敬意を表して話し始めた。「高虎公、私たちはこれまでのご指導に感謝の気持ちでいっぱいです。藩政の基盤を築いてくださったおかげで、津藩も繁栄しました」
高虎は微笑みながら、わずかに頷いた。「それはよかった。お前たちがしっかりと藩政を支えてくれる限り、私の心配はない。津藩の発展を願っている」
高虎の最後の時が近づく中、彼は自らの墓所のことを思い出していた。津市の寒松院に建てられる墓は、天海僧正によって「寒風に立ち向かう松の木」と名付けられることが決まっていた。
「寒松院か……」高虎は微弱な声で言った。「それが私の最後の場所となるのだな」
家臣の一人が慎重に答えた。「はい、殿。寒松院は、あなたの強さと不屈の精神を表す場所となるでしょう。また、三重県津市の高山神社にも祀られる予定です」
「そうか……」高虎は力を振り絞って微笑んだ。「私の子孫たちが、この家を守り続けることを願っている」
その後、藤堂高虎は静かに息を引き取った。彼の死は、家臣たちとその家族にとって大きな損失であったが、高次と家臣たちは高虎の意志を受け継ぎ、藤堂家の繁栄を支え続けた。高虎の遺志を継ぐため、彼の墓所と神社は今も人々に尊ばれ、彼の功績と精神は永遠に記憶されることとなった。
こんな大河ドラマを見たい!『藤堂高虎・七転八輝』全50話 鷹山トシキ @1982
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