第49話 新時代

### 影の使者たち


****シーン: 上野城下の屋敷**


慶長19年(1614年)、藤堂高虎が上野城下にて新たに設立した「忍町」。高虎は伊賀郷士10名を「忍び衆」として登用し、彼らに専用の屋敷を与えた。屋敷の中庭では、忍び衆たちが自分たちの新しい生活を整えながら、密かに訓練を行っている。


**高虎:** 「これからは、我が領内の安全と情報収集を担ってもらう。忍び衆として、普段は目立たぬように、しかし必要な時には素早く動けるようにしておくのだ」


**忍び衆A:** 「了解しました、高虎様。我々の任務は何でしょうか?」


**高虎:** 「主に参勤交代の警固、御殿や城内の監視、武士や町人、百姓の観察だ。そして、時には異国船の探索も命じることがあるだろう。お前たちの役目は極めて重要だ。常に情報を集め、迅速に報告せよ」


**忍び衆B:** 「それは承知しました。任務に全力を尽くします」


**高虎:** 「良い。それから、注意してほしいのは、我々の活動が知られることがあってはならない。常に慎重に行動し、必要な情報のみを正確に伝えてくれ」


忍び衆たちは頷き、高虎の指示に従いながら、密かに任務を開始する。高虎は彼らを見守りながら、忍び衆の重要性と彼らの役割を再確認する。


** 忍び衆から伊賀者へ**


**シーン: 高虎の死後の屋敷**


高虎の死後、正保2年(1645年)、忍び衆は「伊賀者」と改称され、人数も20名に増員された。忍町の屋敷では、伊賀者たちが新たな命令を受け取っている。


**伊賀者A:** 「高虎様が亡くなり、忍び衆の名前も変わった。しかし、任務の内容に変わりはないのだろうか?」


**伊賀者B:** 「おそらく、変わらぬと思われます。ただ、名前が変わったことで、より良い待遇が期待できるかもしれません」


**伊賀者C:** 「それにしても、私たちの役目は依然として重要だ。参勤交代の警固や監視、そして異国船の探索など、我々の目は常に開かれている」


**伊賀者D:** 「そうだな。与えられた任務を忠実に果たし、今後も家の安寧に寄与することが我々の使命だ」


伊賀者たちは改めて自分たちの役割を認識し、忠実に任務を遂行する決意を新たにする。


**変革と減少**


**シーン: 享保2年(1717年)の伊賀屋敷**


享保2年(1717年)、伊賀者の数が16名に減少し、加番奉行の役宅に入れられた。屋敷内では、伊賀者たちが新しい状況に適応しようと試行錯誤している。


**伊賀者E:** 「人数が減ってしまったが、役宅での生活にどう適応するべきかが問題だ」


**伊賀者F:** 「減少したとはいえ、依然として我々の任務は重要だ。役宅内の監視や警護を行うことが我々の役目である」


**伊賀者G:** 「また、幕末には異国船の探索も命じられるだろう。その時には、我々の知識と経験が重要になる」


伊賀者たちは、新しい状況にも柔軟に対応しながら、引き続き任務を果たすために準備を整えていく。彼らの役割と責任は変わらず、家の安全と安寧を支えるために努力し続ける。


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 高虎の死後も、伊賀者たちは任務を忠実に遂行し、幕末まで存続した。

 高虎が南禅寺三門の再建を決意し、戦没者供養のために釈迦三尊像及び十六羅漢像の造営に着手する場面は、彼の深い宗教的信念と戦における犠牲者への敬意を表現しています。ここに、家康との会話を織り交ぜることで、高虎の決断の背景や家康との強い絆を描くことができるでしょう。


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**南禅寺の再建に着手する前夜、高虎と家康の会話**


夜風が静かに吹く中、家康と高虎は庭の縁側に腰を下ろしていた。家康はふと口を開いた。


**家康:**

「高虎、南禅寺三門の再建を考えていると聞いたが、それは戦没者のためか?」


高虎は一瞬黙り、星空を見上げた後、家康に向き直った。


**高虎:**

「はい、主君。八尾の戦いで失われた多くの命に報いるためにも、供養の場が必要だと思いました。彼らの魂が安らかに眠れるように…」


家康はその言葉に目を細め、静かにうなずいた。


**家康:**

「良い考えだ。だが、なぜ釈迦如来像に異形の姿を?」


高虎は少し困った表情を見せたが、意を決して答えた。


**高虎:**

「この戦いで見たもの、そして主君の御威光を忘れないようにしたいと思ったのです。釈迦如来像には岩座に坐し、宝冠をいただく姿を選びました。飾りをつけない蓮華座の像が通例ですが、あえて異形とすることで、主君や戦いにおける威厳を象徴したいのです」


 家康はしばしの沈黙の後、微笑を浮かべた。


**家康:**

「高虎、お前の思いはよく伝わった。私の威厳を象徴するなどとは恐れ多いが、彼らのためになるのならば、よかろう」


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この会話は、高虎の内面の葛藤と家康との強い絆を示すものです。また、家康の理解と承認が高虎にとって大きな意味を持ち、その後の彼の行動に影響を与えたことが伝わる場面となっています。


 さらに、八尾の戦いに関しても、戦没者の首実検を行った常光寺の居間での会話を描くことで、現実の残酷さを表現しながら、戦後の供養への思いを強調することができます。


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**常光寺にて、首実検を終えた後の高虎と家臣の会話**


 高虎は静かに立ち上がり、家臣の一人に声をかけた。


**高虎:**

「この縁側の板は血に染まった…すぐに廊下の天井に張り替えるように」


 家臣は驚いた表情を見せたが、すぐに深々と頭を下げた。


**家臣:**

「承知しました。これが『血天井』として後世に伝わることになるのですね」


 高虎は短くうなずき、重い声で言った。


**高虎:**

「そうだ…彼らの命が無駄ではなかったことを、いつか人々が知るだろう」


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 その時、家康は寝台に静かに横たわっていた。部屋の中はほの暗く、蝋燭の光がかすかに揺れている。家康の呼吸は浅くなり、息を引き取るその瞬間が迫っているのを、周囲の者たちは感じ取っていた。家康の枕元には数名の忠臣が侍り、その中でも藤堂高虎が、厳粛な面持ちで家康の側に控えていた。


「高虎……」家康が弱々しい声で彼の名を呼んだ。


「はい、殿……お呼びですか」藤堂高虎は跪き、家康の口元に耳を近づけた。


「この世は、儚いものだ。だが、秀忠にすべてを託す……。彼が私の後を継ぎ、天下を治めることができるように、お前たちが支えてくれ……」


藤堂高虎は静かに頷いた。「承知いたしました。秀忠様に仕え、この国を守るため、私たちができる限りのことを尽くします。殿のお志を無にすることは決してございません」


 家康は目を細めて微笑んだ。「ならば、安らかに旅立てる……秀忠は未熟なところもあるが、心は強い。お前たちがそばにいれば、間違いなく大成するだろう……」


 その言葉に、藤堂高虎は深く頭を下げた。「私たち一同、殿の教えを胸に刻み、秀忠様をお支えいたします。ご安心ください」


「うむ……」家康の声はますます弱々しくなり、瞼が重く閉じられていく。「この乱世を生き抜き、徳川の名を永遠に残すため……共に歩んでくれたこと、感謝している……」


 藤堂高虎はじっと家康を見つめ、その言葉が心に染み渡るのを感じた。彼にとって、家康はただの主君ではなく、生涯にわたって忠誠を尽くすべき偉大な存在だった。家康の息が途絶えたその瞬間、静寂が部屋を包んだ。彼がこの世を去ったことを告げる鐘の音が、遠くからかすかに響いていた。


 その後、藤堂高虎は第2代将軍・徳川秀忠に仕えることとなった。家康の教えを胸に、秀忠を支え、徳川の治世を守るために日々を捧げる決意を新たにした。時折、家康との最後の会話を思い出し、その度に忠誠の誓いを深くした。秀忠は確かに未熟な部分もあったが、藤堂高虎をはじめとする家臣たちの支えを受けて次第に力をつけていった。家康の意志は、彼らの手によって受け継がれていくのだった。


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