第44話 愛別離苦

### 加藤嘉明との対立


**場面:慶長2年7月、唐島海戦の論功行賞の席上**


豪華な席に並ぶ武将たちの中で、藤堂高虎と加藤嘉明は対面していた。海戦の結果を讃える論功行賞の場で、互いの戦功に対する評価が分かれていた。高虎は一番乗りの栄誉を受けることが決まっていたが、嘉明の表情は険しかった。


**加藤嘉明:**

「藤堂殿、確かに戦の功績は評価されるべきだが、私の働きも見逃されるべきではない。あの戦での私の役割も大いに戦局を左右したはずだ」


**藤堂高虎:**

「加藤殿、私もあなたの功績を無視するつもりはありません。しかし、戦局を決定づけたのは確かに一番乗りを果たした我が軍の貢献です。これがどうしても評価されるべきだと考えます」


**加藤嘉明:**

「しかし、それが全てだとおっしゃるのですか?私の部隊も重要な局面での支えとなりました。評価は公平に行われるべきです」


**藤堂高虎:**

「公平さを求めるお気持ちはわかりますが、ここでの評価は戦局を踏まえたものであり、私たちの全ての功績が反映されています」


その後、二人の論争は更に激化し、他の武将たちもその不和を感じ取った。論功行賞の場は、戦の成果を讃えるはずの場所が、互いの権力争いの場となってしまった。


**場面:秀吉の死後、高虎の居城**


 藤堂高虎は、秀吉の死の知らせを受け取ったとき、ひどく動揺した。信長の後継者として、秀吉の威厳と力を認めていた高虎にとって、秀吉の死は単なる個人の喪失ではなく、政局の大きな変動を意味していた。


 高虎はその日の夜、自室でじっと考え込んでいた。従者がそっと入ってきて、床の下に置かれた手紙を渡した。手紙には、秀吉の死の詳細が記されていた。


**従者:**

「高虎殿、秀吉公の死が公式に発表されました。ご指示があればお申し付けください」


**高虎:**

(手紙を開き、目を通しながら)

「秀吉公が…まさかこのような事態になるとは…」


 高虎は手紙を読み終え、深い溜息をついた。秀吉の死は彼の心に重くのしかかり、政局の先行きに対する不安が募った。彼は秀吉の政策を支持し、そのビジョンを信じていたため、その突然の死は大きな衝撃となった。


**高虎:**

(ひとりごと)

「秀吉公がこのように早く去ってしまうとは…これからの時代がどう変わるのか、誰にも分からぬ」


 翌日、高虎は秀吉の死に関する声明を出し、謹んでその功績を称えた。彼は武将たちに対して、秀吉の遺志を引き継ぐようにと訴えたが、心の中では次に何が起こるかという不安が募っていた。


**高虎:**

「我々が今、秀吉公の遺志を守り続けることで、この国をより良いものにしなければならない」


 高虎はその後、秀吉の遺族や側近たちと共に、その死に関する儀式や行事に参加した。彼は秀吉の功績を偲びつつ、自らの役割と責任を果たすことを誓った。


**高虎:**

(儀式の終わりに)

「秀吉公、あなたの導きに感謝します。これからの時代に、あなたの教えを引き継ぎ、私たちがこの国を守り続けます」


 秀吉の死は、藤堂高虎にとって重大な転機であった。彼は深い悲しみを胸に抱えつつも、これからの政局の変化に対応すべく、冷静に行動を起こす必要があった。高虎は秀吉の死を機に、次なる時代への準備を整え始めるのであった。

### 母・とらの死


**場面:藤堂高虎の居城**


 高虎は秀吉の死を受けて、政局の変動に対処するために忙しい日々を送っていた。しかし、家族からの知らせが彼の心を重くした。母・とらの容態が急激に悪化していたのだ。


**高虎:**

「母上、どうか耐えてください。私はすぐに戻りますから」


**看護人:**

「申し訳ありません、高虎殿。お母様の状態は非常に危険です。お会いできる時間が残されていません」


 高虎は急いで帰城し、母の部屋に駆けつけた。とらはその床に横たわり、目を閉じたまま静かに呼吸していた。


**高虎:**

「母上、私は戻りました。どうか目を開けてください。お前の子がここにいます」


**母・とら:**

(微弱に目を開け、かすかな声で)「高虎…良い子で…母上を…見守ってくれ…」


 とらの最後の言葉は、高虎にとって深い悲しみとともに母への感謝の気持ちを伝えるものであった。母が息を引き取ると、彼はその喪失感に打ちひしがれながらも、自らの使命に再び立ち向かう決意を固めた。


**高虎:**

「母上の教えを胸に、これからも戦い続けます。どうか安らかにお眠りください」


 母の死は、高虎にとって大きな転機であり、政局の不安定な時期においても彼の精神的支えとなった。彼は母の記憶を大切にし、政局の荒波を乗り越えていくことを誓った。

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