第28話 小牧・長久手の戦い
**小牧・長久手の戦い(高虎編)**
天正12年(1584年)の小牧・長久手の戦いは、羽柴秀吉(伊藤淳史)と徳川家康(阿部寛)、織田信雄(野村周平)の間で行われた大規模な合戦で、天下統一を目指す秀吉に対抗する勢力が一丸となって立ち向かう形となった。この戦いは、秀吉が天下取りを進める中で初めて大きくつまずいた出来事であり、ここに若き藤堂高虎も巻き込まれていくことになる。
### 若き高虎の立場
当時の藤堂高虎は、まだ無名の存在でありながら、既にその築城術や戦術の才を示し始めていた。彼は秀吉に仕え、豊臣家の勢力拡大に貢献していたが、小牧・長久手の戦いの時点では、前線で戦う武将としての役割を期待されていた。
高虎は蜂須賀家で学んだ築城術を活かし、秀吉軍の陣地構築にも関与していた。彼の戦術眼は高く評価され、合戦前の準備段階での貢献が大きかったとされる。しかし、秀吉軍が家康と織田信雄に苦戦する中で、高虎もその影響を受けることになる。
### 戦況の変転
小牧・長久手の戦いは、戦力的に圧倒的な優位にあった秀吉軍が、巧妙な戦術を駆使した徳川家康に対して苦戦を強いられる形で進行した。家康は堅牢な防御陣地を築き、正面からの決戦を避けつつ、秀吉軍を長期戦に持ち込むことで、秀吉の勢力を削っていった。
高虎はこの戦いで、徳川軍の防御陣地に対する攻撃に加わった。秀吉軍は何度も攻勢をかけたが、家康の計略と準備の前に敗北を喫する場面が多く見られた。特に、池田恒興や森長可が戦死する「長久手の戦い」では、高虎もその厳しい戦局の中で、如何にして守りを突破するかに苦心していた。
### 高虎の築城術と戦術
藤堂高虎の築城術は、小牧・長久手の戦いでも発揮された。秀吉軍が一時的に防御を固める必要があった際、高虎はその技術を活かして陣地の補強や、兵の効率的な配置を提案したとされる。彼の築城技術は、後の大坂城や伊予松山城などで活かされるが、この時期にすでにその片鱗が見られた。
しかし、高虎にとってもこの戦いは苦い経験であった。秀吉軍の勝利が確実視されていた中での敗北は、彼にとっても大きな挫折だったが、それは同時に学びの機会でもあった。敵軍の防御戦術、特に家康の用いた機動的な戦術に対して、後に彼はさらに優れた戦術家として成長する。
### 戦後の転機
小牧・長久手の戦いは最終的に講和によって終結し、家康と秀吉は一時的に和睦する形となった。この戦いで高虎は直接の大きな手柄を立てることはできなかったものの、築城技術や陣地構築における能力は注目され、秀吉の信頼をさらに深める結果となった。
その後、高虎は秀吉の命により、伊勢・伊賀地方の城郭や防御施設の建設に関与するようになり、彼の築城家としての名声が確立されていく。この経験が後に家康との関係にも繋がり、関ヶ原の戦い以降、徳川家康に仕える転機となっていく。
### 藤堂高虎の策略と羽黒での葛藤
**1584年3月15日**、織田家の重臣であった池田恒興(温水洋一)が突如として羽柴秀吉に寝返り、犬山城を占拠する事態が発生した。藤堂高虎も秀吉軍に属し、この動きに巻き込まれる形で参戦していた。高虎は秀吉の軍で戦いに臨むものの、内心では複雑な感情を抱えていた。彼はもともと織田家に仕えていたが、織田信長の死後、秀吉に従うことを選んだ。しかし、旧主織田家と戦うことへの躊躇いがあった。
高虎は、同僚の武将たちと共に、森長可(橋本じゅん)が率いる部隊と協同しながら羽黒へ進軍した。羽黒での戦いは徳川軍との対決の場となり、高虎も森勢に加わっていたが、徳川方の松平家忠や酒井忠次らの奇襲を受けて、状況は急速に悪化した。
### 羽黒の戦いにおける藤堂高虎の選択
羽黒での敗走が決定的になったとき、高虎は冷静な判断を強いられることになる。徳川軍が側面から攻撃を仕掛け、森勢が押し返される中、高虎は迅速に自軍を再編成し、被害を最小限に抑えるべく奮闘した。この場面で彼の戦略的な才能が発揮され、単なる突撃ではなく、状況に応じた柔軟な防御と退却の指揮を行った。
しかし、戦いの結果は明らかであり、森長可の軍勢は壊滅的な打撃を受けて敗走した。高虎もまた、敗北の中で多くの部下を失ったが、彼自身は戦場を生き延び、後の戦いで再び力を発揮する機会を待つことになる。
### 高虎の成長と未来への布石
羽黒での敗北は藤堂高虎にとって大きな挫折であったが、この経験が彼をさらに強い武将へと成長させた。彼は失敗から学び、次の戦いではより一層の戦術的な洞察力を発揮するようになる。この戦い以降も秀吉の下で忠実に仕え、高虎はその築城術や戦略眼で評価され、やがて大名へと出世していく。
### 羽黒の戦い後、藤堂高虎の決断
**羽黒の戦い**で敗走した翌日、藤堂高虎は残った部下たちと共に退却し、秀吉軍の本陣へと戻っていた。疲労が色濃く残る中、高虎は森長可と池田恒興の幕営に呼び出され、再び戦略を練ることになる。
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森長可が苛立った様子で高虎に話しかける。
**森長可**: 「昨日の羽黒での敗北、俺は屈辱以外の何物でもない!高虎、お前はどう思っている?」
高虎は冷静に答える。
**藤堂高虎**: 「長可様、確かに我々は大敗を喫しました。しかし、戦は一度の勝敗では決まりません。我々の持つ力を正しく使えば、再び勝機は訪れるでしょう。」
**森長可**: 「だが、あの徳川家康はただの狸ではない。奴の兵は強い。どう打って出るべきか…。」
森は憤りを隠せない様子だったが、高虎は冷静に次の一手を考えていた。そこに池田恒興が現れ、二人に話しかけた。
**池田恒興**: 「高虎、長可、次の動きについてお前たちの意見を聞きたい。秀吉公は我々に再び小牧山を攻める準備を命じているが、どう思う?」
高虎は少しの間沈黙し、口を開いた。
**藤堂高虎**: 「恒興様、正面からの再戦は危険です。徳川軍は羽黒の勝利により士気が高まっており、我々が正面突破を試みるなら、再び同じ過ちを犯す恐れがあります。私は、敵の補給路を絶ち、疲弊させる方が有効だと考えます。」
森長可が割り込む。
**森長可**: 「何を言う!正面から叩き潰さなければ、奴らは我々を侮り続けるだろう!今こそ力で押し切るべきだ!」
**池田恒興**: 「待て、長可。高虎の言うことにも一理ある。戦には戦略が必要だ。正面突破は得策ではないかもしれん。」
森は不満そうにしながらも、池田の言葉に耳を傾けた。高虎は、秀吉軍の戦術を再考し、無駄な戦いを避けるための提案を続けた。
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### 高虎の戦略案
その晩、高虎は自分の幕営に戻り、部下の**山崎**と話していた。山崎は高虎の忠実な配下であり、戦の中でも冷静な判断力を持つ者だった。
**山崎**: 「高虎様、あの場であのような進言をされるとは…正面突破を拒むのは勇気のいる決断です。」
高虎は静かに頷いた。
**藤堂高虎**: 「戦での勇気とは、ただ前に出て斬り合うことではない。敵の動きを読み、勝機を見極め、必要な時に適切な判断を下すことが真の勇気だ。森殿の心情は理解できるが、我々が同じ過ちを繰り返すわけにはいかない。」
山崎はその言葉に深く感じ入り、黙って頷いた。
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### 池田恒興との再会議
翌日、池田恒興の幕営で再び会議が開かれた。恒興は藤堂高虎に問いかける。
**池田恒興**: 「高虎、改めてお前の意見を聞かせてくれ。次の一手はどうすべきだ?」
高虎は地図を指しながら話を続けた。
**藤堂高虎**: 「敵の補給路は北西にある。そこを断つことで、徳川軍の物資補給を滞らせることが可能です。戦いが長引けば、敵は自然と疲弊し、こちらに優位が訪れます。その上で決定打を打ち込むのです。」
恒興は少し考え込みながら頷いた。
**池田恒興**: 「よし、高虎の策を取ることにしよう。すぐに準備にかかれ。羽黒での恥を雪ぐためにも、次こそ勝つぞ!」
森長可はまだ完全に納得していなかったが、池田と高虎の意見を尊重し、次の戦いに向けて準備を始めることとなった。
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### 藤堂高虎の覚悟
その夜、高虎は再び自分の幕営に戻り、一人考え込んでいた。彼は、織田家から羽柴秀吉へと主を変えたことを思い出し、その決断が正しかったのかを自問していた。しかし、彼は秀吉の下で自分の役割を果たすことを決めた以上、後戻りはできない。
**藤堂高虎(心の声)**: 「私はこの戦で己の真価を試されている。勝利を掴むためには、冷静な判断力と戦術が必要だ。羽黒の敗北を無駄にしないためにも、次は必ず勝つ。」
こうして高虎は、次の戦いへの決意を固め、戦局の中でさらに成長していくことを誓った。
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この会話を交えた描写により、藤堂高虎が戦いの中で成長し、次第に冷静な戦略家としての側面を強めていく姿が描かれます。彼の内面的な葛藤と決意を際立たせながら、秀吉軍の中での役割が鮮明になります。
### 結び
小牧・長久手の戦いは、藤堂高虎にとっては若き日の苦い経験であったが、それが彼の戦術眼と築城技術をさらに磨き上げるきっかけとなった。戦国時代の波乱の中で生き残り、そして成長していく高虎は、後に徳川政権下で大名として大成していく。その基盤となったのは、このような熾烈な戦いの中で得た経験であった。
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