第26話 ㉗猛虎爆進

 賤ヶ岳の戦いに敗れた柴田勝家は、疲れ切った様子で柳ヶ瀬を抜け、越前へと向かっていた。虎杖や今ノ庄を経て、ついに府中へたどり着くと、勝家は前田利家の屋敷を訪れた。


「利家、長い付き合いだな」と勝家が口を開いた。


 利家(瀬戸康史)は黙って勝家を見つめる。数々の戦いを共に戦い、友情を育んできた二人だが、今、戦況は利家にとっても難しい状況を作り出していた。秀吉との関係も深い彼にとって、勝家との板挟みは辛いものだった。


 勝家は続けた。「お前が俺に忠誠を尽くしてくれたこと、感謝している。しかし、今はもう俺のことを気にするな。秀吉とは元々仲が良かったんだろう?俺のために無理をする必要はない。秀吉に降れ。それが、これからお前が生き延びる道だ」


 利家はその言葉に驚き、少し息を飲んだ。彼はすぐに反論することもできず、勝家の覚悟に打たれていた。


「勝家様……しかし、私はあなたを裏切るわけには……」


「利家、俺はお前を恨まない。これまでのお前の交誼に心から感謝しているんだ。だが、俺はもう終わりだ。秀吉に降り、これからの時代を生き抜け。それがお前のためでもある」


 勝家は人質として預かっていた利家の家族を返還する意向を伝えると、その温かな心遣いが利家の胸を打った。


「勝家様……どうかご無事で」


「心配するな、利家。俺は俺の道を行くだけだ」


 その夜、勝家は北ノ庄城に帰還した。近臣たち、柴田弥左衛門、小島若狭、中村与左衛門らを集め、城の守りについて議論を始めた。しかし、彼の表情には既に、運命を受け入れた決意が垣間見えていた。


 その一方、秀吉は堀秀政を先鋒として、勝家の後を追っていた。越前へ入り、今ノ庄に宿陣した秀吉は、4月22日には府中へと進軍し、ついに前田利家を降した。


 利家は、心の内で葛藤しつつも、秀吉の道案内役を引き受けることとなった。そして23日、秀吉は足羽川を渡り、北ノ庄へと迫った。


 **北ノ庄城の戦い – 高虎編**


 1583年、賤ヶ岳の戦いで柴田勝家が敗れ、越前の北ノ庄城に退却したという知らせが羽柴秀吉の陣に届いた。秀吉は追撃を命じ、堀秀政を先鋒とし、彼に続いて高虎も従軍することとなった。


 高虎はその頃、賤ヶ岳の戦いで功を立て、秀吉の信頼を受けていた若き武将だった。これから行われる北ノ庄城攻めにおいても、その名を高らかに轟かせようと決意していた。


**秀吉の陣営**


「高虎、今回は北ノ庄城に向けて、お前の鉄砲隊が重要な役割を担うことになるだろう」秀吉は高虎に語りかけた。


「御意にございます、秀吉様。勝家の武勇は広く知られておりますが、私の鉄砲隊で彼の城を攻め落とし、必ずや勝利を手に入れましょう」



 高虎は冷静ながらも心中には闘志が燃えていた。勝家との直接対決は避けられぬ運命であり、その機会に自らの存在を示すことこそが武士としての誇りであった。


**北ノ庄城前夜**


 高虎の率いる鉄砲隊は、堀秀政の部隊とともに北ノ庄城を包囲していた。夜の闇が降りる中、敵の動きをじっと見つめながら、部下たちは静かに準備を進めていた。


「ここが決戦の地か…」高虎は城を見上げながら呟いた。


 その夜、高虎は部下を集め、短いが力強い指示を与えた。「明朝、我々は一斉に鉄砲を放ち、城内にいる敵兵を混乱に陥れる。その隙に堀殿が攻め込む。勝家にとってもこの戦いが最後だ。全員、準備を怠るな!」


 部下たちは一斉に声を上げ、「お任せください!」と応えた。


**決戦の朝**


 北ノ庄城の上空は曇り空だった。薄暗い朝、いよいよ攻撃の開始時刻が近づく。高虎の鉄砲隊が前線に配置され、秀吉の命令に従って準備が整った。


「撃て!」高虎の声が響き渡り、鉄砲隊が一斉射撃を開始した。火薬の爆発音が鳴り響き、煙が立ちこめる。勝家の兵たちは突如の攻撃に混乱し、防備が崩れ始める。


「今だ、突入せよ!」高虎は続けざまに指示を出し、兵たちは堀秀政と共に城門へと進撃を開始した。


**北ノ庄城陥落**


 北ノ庄城内では、勝家の部下たちが必死に応戦していたものの、秀吉軍の勢いに押されていた。高虎の指揮する鉄砲隊は、その圧倒的な火力で勝家軍を追い詰めていた。


「見事な采配だ、高虎!」堀秀政が駆け寄り、城門を突破した知らせを伝えた。「これで勝家の運命も尽きた」


 高虎は一瞬だけ勝家の姿を想像した。かつての名将が、ここ北ノ庄城でその生涯を終える瞬間が近づいているのを感じながら、彼は次の指示を冷静に出した。「全軍、城内へ突入!勝家を逃がすな!」


**勝家との別れ**


 その後、城内は完全に制圧され、勝家が自らの居室で自刃したという報告が入った。高虎は、勝家の最期に対し、敵ながらその武士としての勇気を心から讃えた。


「柴田勝家という武将に敬意を表し、その亡骸は手厚く葬るように」高虎は部下にそう命じ、戦いの幕を閉じた。


**


 こうして、賤ヶ岳の戦いの余波で北ノ庄城も陥落し、柴田勝家の時代は終わりを告げた。しかし、この勝利によって高虎はさらに頭角を現し、秀吉の天下統一において重要な役割を果たす存在へと成長していくのだった。

 柴田勝家の最期が静かに訪れたその夜、北ノ庄城は重い沈黙に包まれていた。勝家とお市の自刃の知らせが城中に伝わると、家臣たちは無念の思いを胸に刻みながらも、それぞれの命をつなぐため、散り散りに城を後にした。


 翌朝、秀吉の軍が北ノ庄城に入り、城の静けさが戦の終わりを告げた。秀吉は、勝家の最期を尊重し、彼の遺体に手厚い扱いを指示した。かつての名将を敬い、敵ながらもその武勇を称えたのである。前田利家もまた、無言のまま勝家の亡骸を見つめ、胸の中に複雑な思いが渦巻いていた。


 戦いが終わり、時代は大きく動き始めていた。秀吉は着実に天下統一への道を歩み、徳川家康との関係も新たな段階を迎えようとしていた。そんな中、利家は再び秀吉の陣営に立ち、これからの世をどう生き抜くべきかを静かに思案していた。


 数日後、秀吉は利家を呼び寄せた。賤ヶ岳の戦いの後、利家の立場は揺らぎながらも、秀吉は彼を信頼していた。二人は面と向かって話す機会を得た。


「利家、お前がここに戻ってくれたこと、ありがたく思う。勝家殿の最後も、お前のおかげで穏やかに迎えられた」


 秀吉は、利家に対して穏やかな口調で話しかけた。利家は頭を下げ、静かに答えた。


「秀吉様、勝家殿の意思を尊重し、このような結果になったこと、私も感慨深く思っております。だが、今後の世の中は、より一層厳しいものになるでしょう」


 秀吉は微笑みを浮かべて言った。「そうだな。しかし、これからはお前のような者が必要だ。私は、家康殿との関係をより深め、天下を平和に治めるつもりだ。そのためには、お前の助けが欠かせない」


利家は一瞬、秀吉の言葉に戸惑ったが、すぐに理解した。これからの時代、勝家のように強さのみを信じる武将ではなく、状況を見極め、柔軟に対応する者が生き残る時代が来るということを。


「秀吉様、私はこれからも忠義を尽くし、この新たな時代を共に切り開いてまいります。」


秀吉は満足そうに頷き、利家にさらに多くの領地を与えることを約束した。こうして、利家は再び秀吉の側近としての地位を確立し、新たな時代の幕開けに備えた。


**


その後、秀吉は天下統一に向けた歩みをさらに進め、家康との協力関係を築いていった。賤ヶ岳の戦いを機に、利家もまた天下を見据えた立場に立ち、加賀百万石の大名として大きな役割を果たすこととなった。


そして、柴田勝家の最期を経て、戦国の世は確実に終わりを迎え、天下人・豊臣秀吉の時代が到来したのだった。

 天正11年(1583年)、四国は戦国の動乱が激化する中、藤堂高虎がこの地に進軍し、戦局に大きな影響を与えました。高虎の四国攻めは、秀吉の戦略の一環として、四国の主要な勢力を制圧し、秀吉の領地を拡大するための重要な戦略的行動でした。


**高虎の出発と準備**


 高虎は、秀吉の命を受けて四国攻めに出発しました。彼は豊かな経験と戦術を持つ優れた将であり、四国の地形や敵の動向を十分に考慮した準備を行いました。高虎の軍勢は、精鋭の兵士と豊富な物資を持ち込み、四国の拠点を次々と攻略するための計画を立てました。


**四国での戦闘**


 高虎が四国に上陸すると、最初の目標は四国の主要な城や拠点を制圧することでした。彼の軍はまず、土佐の長宗我部元親の領地に侵攻し、いくつかの城を迅速に攻略しました。長宗我部元親は、四国の支配を巡って秀吉と連携し、抗戦の姿勢を見せましたが、高虎の巧妙な戦術と迅速な攻撃によって、次第に劣勢に追い込まれていきました。


 高虎は、四国の地形を巧みに利用し、敵の動きを封じ込める戦術を展開しました。特に、高虎は四国の山岳地帯や川を利用して、敵の補給路を断つことに成功しました。この戦術により、長宗我部元親の軍は補給不足に苦しむことになり、戦局が不利に進展しました。


**四国の抵抗と高虎の対応**


 四国の各地では、高虎の進軍に対する抵抗が続きました。特に、長宗我部元親が派遣した兵力や、地元の豪族たちが集結して抵抗する場面もありました。高虎の軍は、これらの抵抗に対して冷静に対応し、戦術を変えることで敵の動きを抑えました。


 高虎はまた、四国の地元豪族との調略も行い、敵勢力を分断する戦略を採りました。これにより、長宗我部元親や他の敵勢力の協力体制が崩れ、戦局が有利に進展しました。高虎の戦術は、四国の地形や敵の動向に適応する柔軟性を持ち、多くの戦闘で勝利を収めました。


**四国制圧と秀吉への報告**


 高虎の四国攻めは、次第に成功を収め、四国の主要な拠点や城が次々と制圧されました。長宗我部元親や他の抵抗勢力は次第に降伏し、四国の支配権は高虎の手に落ちました。この成功により、高虎は秀吉からの信任をさらに強化し、戦国時代の戦局において重要な役割を果たしました。


 高虎は、四国制圧の結果を秀吉に報告し、彼の戦略的な手腕を称賛されました。秀吉は高虎の成果を評価し、彼の能力と忠誠心を高く評価しました。この成功により、高虎は戦国時代の英雄としての地位を確立し、さらに大きな戦略的役割を果たすこととなります。


**総括**


 この章では、高虎の四国攻めが詳細に描かれています。高虎の巧妙な戦術と戦略的な手腕が光り、四国の主要な拠点を次々と制圧していく様子が描かれています。また、四国での抵抗や高虎の対応、最終的な制圧と秀吉への報告がストーリーの中心となり、高虎の戦功がどのようにして彼の地位を確立させたのかが示されています。

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