第9話
屋敷に帰ると一休みするために自室へ帰った。しかしフランは子供らしく、体力がありあまっているようで、アルに尋ねる。
「あの……この屋敷はどこからどこまで僕が行っても良い場所でしょうか?少し散歩をしたくて」
「はぁ?行ってもいい場所ってなんだそれ?」
アルが首を傾げた。私があっ!と言って止める前にフランは言った。
「王宮では僕や母様が行ってもいい場所は限られていて、部屋にいつもいるように言われていたんです。その約束を破ったら、罰を受けていたので、先に聞いておこうと思いました」
「罰!?行動範囲を限られて?……いや、どういった状況だ?」
アルが私に説明を求める。
「行ってはいけない場所があったというだけです。私やフランに見せたくないものや関わらせたくないものがあったんです」
オースティン殿下の愛人の居住区、他の王族との関わりを避けさせ、私とフランはほぼ西の塔と呼ばれる王宮の端に住まわせられていた。フランが飽きてしまい、抜け出してしまった時、うっかりと庭へ出てしまった時など罰を与えられた。
私とフランの食事を抜きにしたり、私だけ部屋に呼び出されて王子から叱責を延々とされたり、フランが暗い部屋に閉じ込めれてしまったりしたこともあった。
愛人であるイザベラと呼ばれていた女性の方がのびのびと王宮では出歩き、パーティーに参加し、楽しんでいた。イザベラと自分の時間を邪魔されたくなかったのだろう。
それを説明することはしたくなかった。だけどアルは察してくれたらしく、眉をひそめて、少し怒った顔をしていた。
「ここではどこでも行っていい。好きにするが良い」
そう言って、フイッといなくなった。
「僕、なにか怒らせてしまったんでしょうか?」
「いいえ。そうじゃないと思うわ。むしろ悲しい気持ちにさせてしまったのかもしれないわね」
フランはなぜ?と呟いていたが、次の瞬間、パッと駆け出した。
「僕、屋敷の探検してきます!」
子どもらしい姿に私は微笑んだ。楽しそうに駆けていく。
「奥様、失礼します。旦那様から快適に過ごせるようにと言われております」
メイド3人がテキパキと部屋を整えだす。なっ!?なにが始まるの!?
テラスにはパラソルとハンモック、その横に冷たいレモン入りの水。部屋にはふかふかのクッションとソファー。テーブルの上にはアフタヌーンティーができるように、ミニケーキや焼き菓子、スコーンが並べられた。部屋の片隅には花が飾られた。
ここ……天国かな?もしかして夢?
呆然と私はした。
あまりの待遇の良さに、メイドの一人を捕まえ、震える声で尋ねる。
「あの……なぜここまでしてくれるんでしょうか?」
「旦那様はお優しい方なのです。奥様とフラン様がどんな目にあってきたのか、察していらっしゃるのだと思います」
なるほどアルは同情してくれてるのね。でもそれが、嫌な気分にならないのはアルの性格のせいかもしれない。
「こら!旦那様がお話していないことを奥様に言ってはいけないでしょ!」
若いメイドが年輩のメイドに叱られてあっ!というような顔をした。
「ごめんなさい。私、余計なこと聞いたわね。そうね。アルに直接聞いてみます」
ペコリと頭を下げてメイドたちが慌てて去っていく。しっかり教育されたメイドたちで感心してしまう。噂話や憶測で主人にものを言ってはいけないとわかっているのだ。
王宮でのメイドたちは失礼だった。私によく話しかけては反応を楽しんでいた。『オースティン様はイザベラ様のために花を贈られてました。シア様は頂いたことありました?』『そういえば今夜はオースティン様はいらっしゃらないですね。あちらのお部屋でお過ごしなんでしょうね』『今夜の夜会は来なくていいそうです。顔をみたくないとおっしゃってました。喧嘩でもされたんですか?』……頭の中で、言われた言葉がぐるぐる回る。
ダメダメ!こんなこと考えてちゃ!
せっかくアルがくつろげるように心を配ってくれて、用意してくれたのだもの。心穏やかに過ごしたいわ。私はハンモックに座って揺らしてみる。ユラユラと揺れる。ちょうどいい日差しが差し込む。こんな穏やかな時間、いつ以来ぶりかしら?
そういえば、アルはなぜ女嫌いになったのだろう?こんな良い人なのになにがあったのだろうか?
疑問が沸きあがってくるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます