第8話
美しい布地が広げられる。それに飾る上等のレース、キラキラ光る宝石達。見たことないくらいのたくさんの靴とドレス一つ一つに合わせるための髪飾り、ネックレス、イヤリング、腕輪などの装飾品。
「母様、綺麗です」
うっとりとした感じでフランがドレスを試着した私を見て、褒めている。
「うん。よく似合っている。公爵夫人らしい。試着しているが、すべてオーダーメイトで作らせるから、好きなドレスの型があれば言うといい」
「すべてオーダーメイト!?」
アルは当たり前だろと言う。何枚かしら……ここに靴や宝石と並べられているだけでも軽く10着はある気がするんだけど。それプラス普段着用の服も10着作ろうかと布地が広げられている。
「あ、でも差し当たり着るものはいるから、適当に見繕っておくか。これとこれとこれとあれもくれ。最新の流行のやつで頼む」
かしこまりました!とお店の人が超ご機嫌で返事をした。
「おっ、お金使いすぎです!」
ニヤリと笑う彼。
「このくらいで公爵家の財力が揺らぐと思うのか?」
「そういえば……クラウゼ公爵家といえば、この国最大の領地を持っていると学んだ気がするけれど……でも、領民が一生懸命働いたお金を私に無駄に使うなんてダメです」
「無駄?自分の領主と夫人がみすぼらしい格好をしているより、どこのやつより負けないものを身に着けているのがいいだろう?それに見合った仕事ももちろんしている」
うっ!ま、眩しい!なんか堂々としてて、キラキラしてるわ!自信に満ち溢れていて、眩しい。『女嫌いだ』とカミングアウトした時の少し暗さのある彼とは別人だ。
私は一呼吸おいて考えてから言った。
「では、布地はこの領地内で作られているものにしてください。私が身につけるのはなるべく公爵領の中のものにします。そうして人目に触れれば、良い宣伝になると思いますし、領地内でお金を回すことになるでしょう?」
アルが少し驚いた顔をした。
「へぇ。思っていた以上に賢いな。シアがそれで良いというのならば、そうしよう」
お願いしますと私は言った。そのほうが少しは罪悪感が薄れるわ。この贅沢さ心臓に悪いわ。
次はフランだ!とアルがはりきる。次の店でも私は驚くことになったのだった。フランが大量の服を見て、呆れたように言った。
「僕は一人しかいないのに、こんなに着こなせるでしょうか?」
「オレは子どもの頃。毎日違う服を着ていた気がするな」
贅沢すぎるわと私は肩をすくめた。
「公爵様は……」
フランがそう言った時、彼は違うだろーと言う。
「オレは君の父という設定だから、できればお父様と呼んでくれ。まぁ、嫌ならアルでいい」
設定って、自分で言わないほうがいいんじゃないかしら?フランには契約上の結婚なんて言ってないもの……そう思ったけれど、フランは気付かず、困った顔をした。
「実の父も父らしくありませんでしたが、まだ公爵様をお父様と呼ぶことは、なんだか……できません」
「そうだろうな。見知らぬ男がいきなり父って言ったところで無理だな。うん。アルでいい。なんなら友だちか兄と思ってくれていい」
「はい」
アルは返事をしたフランの頭をポンポンと優しく叩く。
「子どもの扱い、慣れてるんですね」
公爵様はああと笑った。
「両親の意向で、幼い頃は街の学校に通っていた。年下の子の面倒もみていたからな。フランもオレと同様に、街の学校に通わせながら教育係をつけようと思っている。領民に寄り添える者になれるようにというのが教育方針だったんだ」
なるほどと私は納得した。だからアルは高い地位でありながらも、どこか気さくさもあり、偉そうじゃないのかもしれない。
「両親が早くに亡くなってしまったから、オレは早々に公爵になることになったけど、良い両親だった」
「アルを見ていると、そう思います」
ほんとか?と聞き返す顔は嬉しそうだった。女嫌いの女性アレルギーで契約結婚を持ちだしてきたときは、変な人だわと思ったけれど、実はしっかりとした考えを持つ、良い人なのかもしれないと思い始めてきた私だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます