第4話

 私とフランは質素な馬車に乗り、クラウゼ公爵家の門の前に着いた。私とフランはしばし、ポカーンとし、立ち尽くした。お屋敷の規模が半端ないのだ。門のところから馬車で入り、しばらく走らせてやっと屋敷なのだ。


 その走らせている間も立派な庭があり、小さな湖や硝子の温室、果樹園などが見えた。王宮に暮らしていたといっても私とフランに自由はなく、出歩ける範囲を決められていたので、王宮は広いのだろうけれど、狭く感じていた。

 

 屋敷の前では、ズラリと使用人たちが並んでいた。


 これ、出迎えの人たちじゃないわよね!?まさか……そんなこと……。


 バツイチ子連れの私をこんな歓迎ムードで迎えてくれるわけないわよね!?私は脳内で止まることなく問い続けている。


「ようこそお越しくださいました」


 使用人達の先頭にいたのは執事のシリルという青年だった。他の使用人達もそれに倣って、深々とお辞儀した。


 歓迎されたーーっ!?私の頭の中は、またまた疑問符が浮かんでいた。フランもこの状況に警戒し、私の後ろに隠れている。


「このように歓迎して頂けると思わず、驚きました。ありがとうございます」


「それはクラウゼ公爵様にお伝えください。丁寧に出迎えるようにとの仰せなのです」


 旦那様になる方なのよね。いい人そうだけど、怪しい。


 ハッ!もしかして私よりすごく年上のおじさんとか?変な趣味持ってる人とか?性格がすごく悪いとか?


 拒否権がなかったから詳しく聞かなかったけれど、実は色々問題を抱えている人かもしれない。ふと今になって不安になる。


「荷物を運びます。荷物はこれだけですか?」


「ええ。大丈夫です。私とフランでカバン一つずつですから、自分で持てます」


 少ないと思われたのは間違いなかった。仕方ない。支度金だと渡されたお金は微々たるものだったし、王宮から追い出されたときも数多く持っていた装飾品もドレスも置いていく様に言われたのだ。私の持ちものなんて、ないに等しい。実家のフォルテス伯爵家だって、そんな裕福ではない。むしろ貧乏貴族の部類だ。


「そういうわけにはいきません」


 使用人たちがサッとカバンを持ってくれる。


 通された部屋も立派で、絵画をあまり知らない私すら知っている有名な絵画が飾られ、座り心地の良い椅子に美味しいお茶にお菓子が並べられる。


 フランが美味しいと呟けば、嬉しそうにメイドの一人が微笑む。


「よろしければおかわりをお持ちしますね。コック長手作りのお菓子なんですよ。コック長が、気に入ってくれたと知ったら、喜びますよ。少しお待ち下さい」


「うわぁ……ありがとうございます」


 フランが目を輝かせて、お礼を言った。


 なんだか、本当に丁重にされてる気がする。されればされるほど、不安になるのはなぜ!?


 いや、待って?公爵様ということは、私とオースティン殿下の結婚式にも来ていたんじゃないの?従兄弟にあたる方ですもの。一度は確実に会っている。思い出してみようと思った……ダメだわ。記憶にないわ。どんな方なのかまったくわからない。


 しばらくくつろいでいると、シリルが戻ってきた。


「旦那様がいらっしゃいます」


 とうとう会うのね。私は緊張でドキドキした。


 でも緊張とは少し違うかな。きっと自分の未来が決まるからかもしれない。愛のない生活にはもう疲れきった。フランと一緒に逃げる覚悟を私はしていた。平民になっても構わない。身分を捨てても構わない。フランを守って二人で生きていければそれでいい。私はそう思っていた。


 ギイっと運命の扉が開いた。

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