第3話

 町へ行って仕事を見つけるわよ!と意気込んでいたところに、お父様から呼び出された。


「おまえ、その顔はなんだ?」


「顔ですか?」


 私の顔になにか?お父様が汚いものでも見るように私を見た。お母さまがハンカチで鼻を抑える。


「焦げたような匂いがシアからしますわよ」


「あっ!そういえば、小屋のそばの森の木から木炭を作って売れないか試していたところでした」


 私に顔を拭きなさいと母がハンカチを渡す。黒い炭がハンカチについた。どうやら顔についていたらしい。鏡を差し出される。私の自慢の綺麗な金色の髪はややくすみ、青い目のそばにはまだ黒い炭がついていた。


「おまえ、たくましすぎるだろ!?反省させるために小屋に追いやったのに、なんで自立しようとしているんだ!?泣いて謝れば許そうと思っていたんだぞ!それがいつまでたっても泣きついてこない!」


「そうだったのですか……まったく気づきませんでした。それならそうと言ってくだされば、泣いて懇願しましたのに。あっ!そうだわ!小屋のそばに野菜畑を作ろうと思うんですけど、許可もらえますか?」


「普通は最初からそうするだろうっ!?サラッとさらに自給自足しようとするなっ!どういう性格してるんだ!?」


「いやですわ。お父様、自分の娘の性格をご存じない?」


 お父様は額に手をやった。


「……まぁ、いい。そんな可愛げのない娘のどこがいいのかさっぱりわからんが、おまえに縁談が来ている」


「は?寝言は寝てから言うものですよ?お父様、起きてます?」


「起きてるわいっ!」


 お母さまが手紙を差し出す。


「クラウゼ公爵?縁談?ここから!?えっ!?ええっ!?公爵家!?」


 にっこりお母さまが私の反応を見た後に微笑む。


「クラウゼ公爵といえば、現国王が叔父にあたり、あなたの元夫である殿下の従兄弟ですわね」


「そ、そんな偉い人がなぜ!?」


 また王宮の二の舞になるでしょ。追い出されそうな嫌な予感しかしない。


「クラウゼ公爵のところへは何人もの女性が花嫁候補として行ってるけれど、誰一人として彼の心を射止めた人はいないらしいわよ。怒って帰る人、泣いて帰る人。噂では極度の潔癖症で、人嫌いなんじゃないかってことよ」


「そんな人が、私に縁談を申し込むなんて、おかしくありません?だってバツイチで子持ち……あっ!フランを連れていけないなら、おことわりします!」


 それがなぁと父は機嫌よく言った。


「なんと子どもも一緒に連れてきていいとのことだ。公爵といえば、オースティン王子の従兄弟にあたられる。もしやおまえやフランを哀れに思ってのことなのかもしれないぞ」


 ……なるほど。これは身内のやらかしたことを償う感じ?愛人になれってことなのかしら?本命はどこかにいそうな気がするわ。


 私はつくづく、旦那様になる人から愛をもらえない運命らしい。


「一応、お聞きしますが、お父様、私に拒否権はありませんよね?」


「ないとわかっていて聞くな!」


 ぴしゃりと強く返された。


「次はうまく立ち回るのよ?旦那様の言う事をよく聞いて、良い妻で、我慢強くいなさいよ?」


 お母様がそう言う。私、かなりオースティン王子との結婚生活、頑張ったんだけどなと思った。でもそれを口にすることは許されないだろう。ここでは私は失敗してしまった者としてでしか見てもらえないのだ。

 

 フランに違う場所へ行き生活をすることを伝えると不安そうに私を見上げた。


「大丈夫よ。母様は絶対にあなたを守るわ。二人で一緒なら、どんなところだってきっと楽しいわよ」

 

 ハイと素直にフランは頷く。次から次へと疎まれて、簡単に他の人の意思で、流されてしまう私とフラン。次の旦那様がどうか少しでも良い方であることを願いたい。それがだめなら二人で逃げ出そう!木炭作りだろうが野菜畑だろうが、なんだってするわ!


 そう私は決心したのだった。


 

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