高校デビュー大成功させてやりたいこと全部叶えたい。
鮭とば
第1話
「卒業おめでとー。みんな今までありがとね〜!」
「うん!みんな別の高校だけど、絶対友達でいようね!」
「長かった中学3年間もあっという間だねぇ」
「ほんとだよ。ってちょっとまってアンタ泣くの早いって」
「うぅ…。だってぇ〜みんなバラバラになっちゃうんだよ?」
キャイキャイ。ガヤガヤ。
教室の真ん中の方でみんなが話しているのが聞こえる。
そして話し声に混ざるすすり泣く声。
「まー、この後クラスみんなで打ち上げ行くんだし泣くなって」
「そうそう。俺らが頑張っていい店選んどいたよ!」
「私も協力したし〜」
私はその打ち上げに呼ばれていない。
大事なことだから、もう一度言う。
私はその打ち上げに呼ばれていない!
何だよ「クラスみんなで打ち上げ」って。初めて今聞いたぞ!いや少し前からクラスの陽キャの方々が話しているのはうっすら聞こえたけども!きっと私も誘って貰えるだろうと思っていたのに…!
まぁでも仕方がないのである。何故なら私、早川雅は存在感の薄い陰キャボッチを極めているからだ。名前はミヤビなんてかっこいい癖に顔もパッとしない。むしろ不細工である。
小学校までは何とか友達がいたが、中学に入ってからは体が弱く病気で2年程入院してしまい友達がZEROのまま迎えた中学3年生。
元々社交的でない私は当然みんなの輪に入れる訳でもなく、誰か話しかけて貰うのを待つばかりの受動的ボッチになってしまった。
友達を作るのも得意ではないため元々グループに入っていない子とも仲良くすることが出来ず、いつの間にかにクラス内で出来上がっていくグループをただただみつめているだけ。
ついには、「え〜っと、名前何だっけ?(笑)」なんて言われてしまう始末…。
もう帰ろう。
家に帰って昨日録画しておいたアニメでも見よう。
私はそっと教室を出る。そして抱き合う同級生の間をすいすいと抜けて行き、お世話になった先生に挨拶だけして帰路に着く。
悔しい、最高に悔しい。何がってせっかくの女子中学生というブランドを無駄にしてしまったことが。
友達はおろか、気軽に話せる人が学校の保健室だけなのが悔しすぎる。
アニメであるようなキラキラ中学生ライフはどこへ行ったのか。
どうしてもっと積極的に色んな人に話しかけなかったんだろう。
どうしてもっと容姿に気を遣わなかったんだろう。
どうしてもっと話しかけられた時にちゃんと相手の目を見れなかったんだろう。
後悔ばかりが残る。
くやしいくやしいくやしいもう嫌だ!
そんなことを考えているうちに家に着いてしまった。
「ただいま」
「おかえり〜」
両親は共働きなので、今現在家にいるのは高校2年生の兄、早川楓である。
全く、カエデなんていうかっこいい名前をしやがる。しかしその名前に似合った風格を兄は持ち合わせている。
両親も美形なこともあり、兄も俗に言うイケメンだ。よく女の子と出歩いている所を見るし、バレンタインの日には家に大量のチョコレートを持ち帰ってくる。
陰キャの私に対して、兄は陽キャなのである。
「みやびぃ〜お前今日卒業式だろ?」
「そうだよ」
私は家に着くなり自室から出てきて話しかけてくる兄を邪魔に思いながらキッチンへ向かう。
「なんでこんなに早く帰ってくるんだよ。打ち上げとかないのか?」
「……。」
「…まさかお前、打ち上げ呼ばれてない、?」
「…………ウン」
「まじかよ」
そんな哀れみの目で見ないで欲しい。まぁ実際の所は哀れだが。
「友達は?」
「3年間ボッチです」
「うわぁ残念な中学生だなぁ」
キッチンからお気に入りのキャラメルポップコーンを取り出す。このポップコーン100円で買える癖に沢山入っていて美味しいのだ。
「友達作る気とかないの?高校生このままじゃお先真っ暗じゃん」
「友達とか…、本当は欲しいよ。でも私には無理なの」
自分で言ってて涙が出てくる。
私には兄が持っているような完璧な容姿はない。美形家族の中で突然変異のように生まれた醜いブスなのだ。それにみんなを惹き付けるようなトークスキルだってない。
涙が止まらない。胸の中から溢れてくる後悔と虚しさが、どうしようもなく押し寄せてくる。お気に入りのキャラメルポップコーンの甘さなんてもう、感じられない。
「私だって…充実した中学校生活を送りたかったよ!だけど蓋を開けてみれば中学2年生までは病院で入院生活!中3で退院していざ学校に行ってみればもう出来上がっているグループ達。入院してたから暫く人とも話してなかったし、何より私は話すのが得意じゃない……」
口に運ぶポップコーンの味がしない。
「高校生もこのまま灰色なのかなぁ」
私が自暴自棄気味に呟くと兄は一言。
「じゃあ、高校デビューすれば?」
「え?」
「お前は入院してて知らないだろうけど、俺も中学生の頃はめちゃくちゃ不細工でいじめられてたし、ボッチだったんだよ。でも頑張って自分磨きして高校デビューしたんだ」
「でもそんなの私無理だよ」
「無理じゃない」
兄が私の両肩をガシリと掴み、ニッと笑った。
「俺がお前の高校デビューを成功させたるわ」
そうして私の高校デビューへの道が始まったのである。
高校デビュー大成功させてやりたいこと全部叶えたい。 鮭とば @saketoba15
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