第18話 装備

「!?」


 ボトッという音にハッとして目を開ける。オレは河原に座っていて、焚火に当たっていた。目の前の焚火、周囲に置いた流木と、流木に吊るされたり広げるように置かれたりした洗濯物たち……どうやらオレはいつの間にか寝てしまっていたようだ。手に持っていたはずの《転生のタマゴ》が足元に落ちている。多分、転寝うたたねして手に持っていた《転生のタマゴ》を落とし、その音で目が覚めたんだろう。オレは《転生のタマゴ》を拾い上げた。


「……………割れなくてよかったぁ……………」


 色、変わってるのか? 

 変わっているような変わってないような……変わってる途中?


 最初はまん丸のホワイトオパールみたいな感じだったんだ。ツヤのある白い色で、遊色っていうんだっけ? 角度によってキラキラと緑とか赤の半透明の色素がところどころに見えるような感じ……でも今は遊色は消えている。それで透明感のあるツヤツヤした白色だったのが、ツヤはあるけど落ち着いた感じの乳白色になってる。白いヒスイかメノウみたいな感じだ。もっと違った色になってくれてれば変色したって判断できるんだが、同じ白系統の色だから変色し終わったんだか変色してる途中何だかよく分からない。


「ふ~~~~~……も少し待ってみるか……」


 オレはもう少し色が変わるまで念じ続けることにした。が、その前に服を着ることにする。焚火に当たっていたとはいえ雪解け水が流れ続ける沢に座っていたせいかさすがに寒くなってきた。焚火もだいぶ弱くなってるし、薪を足した方が良いだろう。だが薪はもうそれほど残っていない。薪を拾ってくるか、あるいは今洗濯物を干すのに使ってる流木を切って薪にしなきゃいけない。

 オレは一旦転生のタマゴを足元に置いて立ち上がると、干してる洗濯物を一つずつ手に取って乾き具合を確認する。


「……もう、いいかな?」


 正直言ってまだ生乾きだが、ちょっと湿っぽい程度で着れないほどじゃない。いくら人目が無いとはいえ屋外でいつまでも半裸で居続けるのも嫌だ。今のオレはTシャツ一枚……大柄でマッチョな邦男くにおが着るとパッツンパッツンだったシャツを裾を引き下げて何とか尻まで隠しているが、屈めば下が直接見えそうなほど裾がギリギリなマイクロミニのワンピースに、胸と尻のラインがクッキリ浮き出たうえに乳首が突き出ているんだ。……もう、全裸よりエロくね? いくらオレの心は男のままとはいえ、流石にこの格好は恥ずかしいと思う。女の心だったとしても多分嫌なんじゃないだろうか、てか女の方が嫌がるだろ。こんな格好で男の目の前に出てみろ、絶対誘ってるって思われるぞ。なんとかしたい。なんとかせねば。

 というか、沢の冷たく湿った空気の中じゃこれ以上乾かないんじゃないだろうか? 乾いたとしても今度は冷たくなってしまって却って着るのが辛くなってしまう気もする。


 うん、やっぱり着よう……まだ乾ききってはいないが、完璧を求めすぎるのは良くない。


 というわけで服を着るわけだが、しょっぱなに挫折しそうになる。そう、パンツだ。邦男くにおが履いてたパンツだ。一応洗ったけど、洗剤使ったわけでもないし、ただ単に水でジャブジャブして絞って干しただけだし……そんな邦男のパンツ履きたいか? 他人のパンツって思うと思いっきり抵抗があるな……でも、コレしかないし……割り切るしかないか……ちょっと臭いを嗅いでみる……臭くは無いが、でもなんか変な臭いが……うん、でも他にないんだし、ノーパンで過ごすわけにもいかんだろ! 


 パンツを履いた直後はちょっと不快だった。冷たいし湿っぽいし、何か不快を感じさせるような違和感が、特に脚の付け根あたりにあったが、割と数分で慣れた。慣れると気にならなくなる。むしろ暖かい。パンツって、それだけでこんなにあったかくなるのかってチョット驚いた。形はボクサーパンツだが素材がニットなので伸縮性があって今のオレの割と大きめの尻にもピッタリフィットするし肌触りが良い。気になるのは前の部分の布が余っているくらいか……ここだけなんか落ち着かないな。


 一つハードルを越えると、あとは抵抗は無い。カーゴパンツはすんなり履けた。デリケートな部分はパンツ越しだし、肌触りがどうというような特別気になるようなことは無い。ああ、尻が割とぴったりと言うかやや窮屈めなのにウエストがブカブカなのはチョット気になるかな? ボタンもファスナーもしっかり締めてるのに上からパンツが覗けてしまうくらいウエストに余裕があるのはどうか……まあ、上からTシャツ被せて見えないようにしとけばいいんだろうけど、ベルトは少しきつめに締めておこう。

 タクティカルベストは化繊なのでとっくに乾いている。Tシャツの上から羽織ると、動くたびにイチイチ揺れて気になっていた胸が上から抑えつけられてチョットいい感じだ。Tシャツを押し上げて存在を主張し続ける乳首も隠れるし。


 靴下は……もう少し待とう。乾いてないわけじゃないが、ブーツの方がまだグッショリ濡れたままなんだ。ブーツが乾いてないのに靴下だけ履いても、せっかく洗った靴下を泥だらけにしてしまうだけだ。今はもう少し裸足で過ごす必要がありそうだ。グルグルに丸めて太腿の横のポケットに突っ込む。


 でもあのブーツも乾いたとしてもサイズが全然合ってないから早いうちに代わりの履物を用意しなきゃいけないんだよな。最悪、草鞋わらじでもむか……実は小学校のころ、体験学習で草鞋づくりを習ったんだ。作り方は簡単だし今でも作れると思う。ただ、この山の中で材料が手に入るかどうかが問題だ。つる草でも編めるもんなのかな?


 とりあえず着る物を着、一度出してひとまとめにしておいた荷物をポケットにしまう。もちろん《転生のタマゴ》もだ。荷物を片づけたら次は薪をどうにかしないといけない。本当はとっとと移動して今夜は別のところで野宿するつもりだが、その前にブーツを乾かしてしまいたいのだ。


 うーん……それともこのまま今夜はここで野宿してしまうか?

 でも河原だしな……これだけ流木が落ちてるってことは、鉄砲水とか来るかもしれない場所だってことでもあるし、実際河原と森の間の土手……あれって鉄砲水でえぐられた痕だよな?

 うん、やっぱここで寝るのはダメだ。

 焚火でもう少しブーツを乾かして、それから移動しよう。どうせ今夜の飯はエナジーメイトだし……


 オレはブーツを口が焚火に向くように置き、転がらないように周囲に石を置いて支えると、残っていた薪を全部焚火に放り込み、追加の薪を集めるためにその場を離れた。

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