第17話 再びのダンジョン!
三日後、リッカはダンジョンの入り口でトウジを待っていた。
今日の服装は、微起毛のシャツと細身の黒いパンツ。ハイカットスニーカーは赤だ。
(トウジはイケメンだから、一緒に行動するとなると服装にも気をつかうのよね。……そんなにおかしな格好じゃないと思うんだけど?)
冒険者であるならば、レザーアーマーくらいは身につけた方がいいのかもしれない。しかし、基本リッカは直接戦闘をしない魔法使い。防具の
(だからって、魔法使い然とした長いマントも重そうなのよね。悩んでこの格好にしたのだけど……おかしくないわよね?)
自分で自分の服を見下ろしたしかめていれば、遠くからよく通る心地よい声が聞こえてくる。
「――――リッカ!」
駆けてきたのはトウジだ。ゴールデンロッドの髪が、光を浴びて輝いている。
「ごめん! 遅れた」
「遅れていませんよ。私が早すぎただけ」
「いや。君を待たせたんだから、俺が遅れたんだよ。次はもう少し早くくるね」
肩で息をし、謝ってくるトウジ。今日も安定のイケメンで、先日とは違うタイプの眼鏡をかけている。
そんなに気にしなくてもいいのにと、リッカは思った。
今日は、先日の約束どおり彼と一緒にダンジョンに潜るのだ。どうせなら中で採取できる薬草の種類とか値段、あと魔獣の素材についても調べたいと思っている。
「大丈夫だから、行きましょう」
リッカは、トウジの手を引いた。早くダンジョンに入りたい!
ダンジョンの入り口は、これから冒険しようという人々で賑わっていた。トウジとリッカのように身軽な服装の人から重装備を整えた厳しい表情の人まで、いろいろ。前者はきっとダンジョンの浅い場所を日帰りする人で、後者は深い場所まで何日もかけて潜る人だろう。
(地下三十階に到達するまでには、よほど高ランクの冒険者でも一ヶ月くらいかかるっていう話なのよね。十階以降は帰還のための転送陣がボス部屋ごとに現れるっていうから、あまり帰りの心配はしなくていいダンジョンみたいなんだけど――――)
それでも一ヶ月はかかりすぎだ。まあ、苦労に見合うお宝が手に入るらしいので、それはそれでいいのかもしれない。
今日のリッカとトウジの目標は、前回到達できなかった十階でのボス退治。当然日帰りで、日の高いうちに戻ってこようと思っている。
ふたりは、ダンジョンの入場待ちの列に並んだ。
最後尾につけば、前の冒険者がチラリとこちらを振り返る。そのまま興味なさそうに前を向いた。
(あれ? この人、トウジを知らないのかしら?)
トウジはSランク冒険者だ。それなりに有名なはずなのだが……そういえば、誰もこちらに注目していない。不思議に思っていれば、トウジが屈んで自分の眼鏡を指さしてきた。
「これ、軽い認識阻害の効果のついた眼鏡なんだ」
「認識阻害?」
「ああ。俺から声をかけなければ、注意を向けられないようになっている。一緒にいるリッカにも効果は波及していると思うよ」
相手は、そこに誰かがいるということはわかるものの、それが誰かを気にしなくなるという魔道具らしい。前回は破邪の眼鏡をかけていたし、トウジはいろいろ物持ちだ。
(さすがSランク冒険者ってことかしら)
リッカは素直に感心する。
(いずれひとりで潜るためにも、今日はトウジからしっかり学ばせてもらおう!)
心密かに決意した。
――――なにせトウジとのパーティーは、一時的なもの。ビィアと一緒にダンジョンに潜りたいというトウジの願望が叶えばいつ解散されても不思議はない。
(そもそもSランク冒険者とCランク冒険者がパーティーを組むなんて、普通はあり得ないことだものね)
今日で終わりの可能性さえあると、リッカは思っていた。
そこに、トウジが話しかけてくる。
「――――そうだ。リッカ、預かっていたギルド証を返すよ。しっかりパーティー登録してきたからね」
彼が差しだしてきたのは、先日届けてもらったばかりのリッカのCランク冒険者ギルド証。パーティーを組むのに必要だからと、あの日そのままトウジが持ち帰っていたのだ。
見れば、今まで無表示だったギルド証の裏面に、くっきりと文字が浮かび上がっている。
――――――――
パーティー名:幻影の支配者
パーティーメンバー:トウジ(リーダー)、リッカ(サブリーダー)
――――――――
「一応俺がリーダーになっているけど、かまわないかな? パーティーでは冒険者ランクが上の者が自動的にリーダーとして登録されるんだ」
申し訳なさそうにトウジが聞いてきた。
リッカは、大きく首を縦に振る。
「トウジがリーダーで当然よ。それよりふたりしかいないパーティーでも私がサブリーダーになっちゃうの?」
「リーダーとサブは必ず決めるきまりになっているからね」
仕方ないとトウジは笑う。
ちなみに、同じランクの者ふたりが組む場合は先に冒険者登録をした者がリーダーとなるそうだ。誰がリーダーになるかの争いを未然に防ぐために、そこはきちんと決められているらしい。
「パーティー名も勝手に決めてしまったけれどかまわないかな? ……リッカの幻影魔法からイメージしてみたんだけど」
「もちろん! 『幻影の支配者』とか、なんとなくカッコイイわよね!」
少し……いや、ずいぶん気恥ずかしい感もあるけれど、臨時パーティーの名前なのだから、それほど気にする必要はないだろう。
「気に入ってもらえてよかった。……じゃあ行こう! 幻影の支配者の初冒険だね」
嬉しそうなトウジの様子にリッカのテンションも上がる。
「ええ!」
ふたりは並んでダンジョンに入っていった。
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