第13話 ◇冒険者ギルド長の心配◇

 冒険者のパーティーには、いろいろある。


 普段は別々に暮らし冒険者として行動するときのみ一緒にいるものから、拠点と呼ばれる場所をしつらえ寝食を共にするものまで。

 パーティーを構成する個人個人の事情や都合によって、その形体が変わってくるのは当然で、こうするのが正しいなんてきまりはないのだが、それでも互いの居場所を知らないなんてことはあり得なかった。


「俺とリッカがパーティーを組めば、俺を通じてリッカの動向を知ることができるだろう。パーティーメンバーである俺に黙っていなくなるなんてこともしないはずだ」


 たしかにトウジの言うとおりだ。そうなれば、リッカはCランクのままでも不都合はなく、かえってSランクに上げた場合のデメリット――――周囲(特に権力者)の注目をひくなど――――もなくなるだろう。


 なによりトウジがリッカを正々堂々と守る理由ができるのもありがたい。

 しかし――――。



「ソロでのお前がか?」


 ソーコーは、驚きの目をトウジに向けた。これまでの経緯を知れば仕方ないことだとは思うものの、トウジが極端に女性を避けているのを知っているからだ。


「その女性不信に、今回の見極めを依頼したのは誰だ?」


 ジロリと睨まれ口ごもる。


「……あ、いや、それは俺だが。……信頼して任せられるのがお前しかいなかったからだし……リッカも、お前に纏わりつくような女どもとは雰囲気が違ったというかなんていうか――――」


 言い訳をするソーコーに、トウジはフッと笑いかける。


「まあ、いいさ。おかげで俺はリッカと知り合えたんだからな。今はお前の判断に感謝こそすれ不満はない。……リッカは、本当に得難い人だ。幻影――――いや創造魔法使いとしても興味は尽きないし、性格や言動も今まで会ったことのないタイプで面白い。一緒にパーティーを組んだら、きっと毎日楽しいだろうな」


 そう言うトウジの表情はキラキラと輝くようで、思わずソーコーは小手をかざす。


「あんまり張り切って取りこもうとするなよ。……お前が全力でせまって断れる女性なんていないだろうからな」


 自分でもこれほど眩しく感じる男なのだ。あまり男性への免疫がなさそうに見えたリッカでは、ひとたまりもなくトウジに丸めこまれてしまうだろう。


 心配するソーコーに対して、トウジは首を横に振った。


「いや、残念だけどそう簡単にはいかないだろう。……リッカにはがついているからな」


 トウジは眉間に深いしわを刻む。


「ビィア? ビィアは黒猫だろう? なんで猫が問題なんだ?」


 ソーコーは、本気でわからず目をしばたたかせた。

 トウジは、深いため息をつく。


「ビィアは、俺がリッカに創造魔法のことを言おうとしたときにからな。それだけじゃない、リッカが小麦に夢中になっている隙に俺をしたんだ」


 そう言いながらトウジは体をブルリと震わせた。その様子は冗談でもなんでもなく本気で恐怖を感じているかのようだ。


「……黒猫に威嚇されたのか?」


「ああ。以前ドラゴンと対峙したときよりよほどプレッシャーがあったぞ」


 トウジが単独でドラゴンを退治したことは有名だ。その功績で彼はSランクに昇級したのだから。


 ドラゴンよりもプレッシャーが強い猫とは、いったいどんな猫なのだろう?

 そもそもそれを『猫』と呼んでいいものか?


 首を捻るソーコーの前で、トウジはブツブツと呟きはじめた。


「あのときのビィアは、間違いなく俺に『余計なことを言うな』と警告していた。たぶんリッカに面倒事を気づかせたり近づかせたりしたくないんだろう。……あのビィアの警戒を解くのはかなり難しいだろうな」


 悩む姿は真剣で、彼が本気でリッカとパーティーを組みたがっていることは間違いない。


「まずは、信頼を得ることが一番だな。……リッカからも、ビィアからも!」


「……本当にやり過ぎるなよ」


 あまりにのめりこんでいるその姿に、ソーコーは釘を刺す。


「ああ。大丈夫、心配しすぎだよ、ソーコー。それに俺がするのは、単にパーティーを組もうという申し出だ。……な」


 トウジは呆れたようにそう言って笑う。







(……今はまだ、か)


 ソーコーは、困った顔でトウジを見た。

 意図せずそんな言葉が出るほどに、トウジはリッカを気に入っているらしい。


(気に入っているなんてもんではないんじゃないか?)


 女性不信を募らせたイケメンSランク冒険者のトウジ。しかも彼が隠している身分は王弟だ。


 とんでもなく面倒な男に執着されたリッカのこれからが、ちょっと心配なソーコーだった。

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