第三話 トイレの花子さん 1

 昨日は色々あって疲れたけどさすがに夢じゃないよな?

 そんなことを思いつつスマホを開いた。未読メッセージが1件あった。開いてみると、渚からだった。

『今日ちょっと話したいことあるから放課後昨日の公園に来てくれない?』

『分かった。学校が終わったらすぐに行く』

 既読の速さにドキッとした。

『わかった。ありがとう!』

 既読だけ付けて僕はスマホを閉じた。


 放課後


 僕が公園に着いた時にはもう渚はいた。

「来るの早いね、ごめん待った?」

「大丈夫!今来たところだし、私から呼んだから」

「ありがとう」

「うん。早速なんだけど"トイレの花子さん"が出てくるのは女子トイレだけじゃないみたい。そして現れるのは旧棟の1階のトイレ。」

「ちょっと待ってって言ったか?」

「友達に聞いたのだけど今までに6人が"トイレの花子さん"に襲われたらしい。そしてみんな旧棟の1階のトイレで意識を失っている所で見つかったの」

「怪しいな。本当に"トイレの花子さん"がいるかもしれないな。少し調べてみるよ」

「ありがとう」

「うん」

「じゃあまた」

「うんまたね!今日は来てくれてありがとう!」

「うん。任せて」


 僕は新聞社で働いているお母さんに、今までに僕の学校で事件があったかどうか聞いてみた。

「ん〜、私がこの仕事を始めてまだ1年だから分からないな〜。明日仕事の先輩に聞いてみるね」

「ありがとう」

 お母さんは何故か僕の顔を見てニヤニヤしている。

「僕の顔に何か付いてる?」

「いや〜、昨日帰ってきてから秋人が元気だからいい事あったのかなって思ってね」

 なんで分かるの!?お母さんって、人の心読めたりするの?なんかバレると恥ずかしいな。

「そんなことないよ」

 バレないように適当に誤魔化しておいた。

「そうか〜」

「そうだよ。もう寝るねおやすみ」

「おやすみ。明日秋人の言ってたこと調べるね」

「ありがとう」


 さてと、どうしようかな?"トイレの花子さん"は本来トイレの中に引きずりこんでくるヤツだよな?

 だったら2人いれば引っこ抜けるかな?引っこ抜くとか面白すぎる。我ながら天才かもしれない。

 けれど本当にトイレに引きずりこまれるなら意識を失った状態で"トイレの花子さん"に襲われた人は見つからないはずだ。だったら"トイレの花子さん"ではない何かがいるということか?一度行ってみないと分からないな。

 でも、渚を危険にさらすわけにはいかないな。渚がいないと僕は必然的に1人で行かないといけなくなるな。困ったな。

 などと考えていたら、僕のスマホが振動した。渚からのメッセージだ。

『一応言っておくけれど、私無しで旧棟の1階のトイレに行ったらダメだよ』

 お母さんといい、渚といいどうして2人とも僕の心を読めるんだよ!

『わかってるよ』

『それならいいけど。秋人くんなら1人で行ってしまいそうで心配だったの』

『大丈夫、心配しないで。怖くて1人で行けないから』

『ダサ』

『ごめん』

『冗談だよ(笑)』

『なら良かった』

 冗談でも、女子からの『ダサ』は心をえぐられるな。けれど昨日話を聞いた時よりも随分元気になっていて嬉しく思う。


 2日後


 昨日は渚からメッセージ来なかったな。そりゃそうか。あんなに可愛い子が僕みたいな陰キャに進んでメッセージをしてくれないか。そんなことを思いつつスマホを開いた。未読メッセージが1件あった。やった!渚からだ!そう思いながら開いてみるとメッセージはお母さんからだった。

『秋人が前に言ってた学校のことなんだけど、4年前に女子生徒が行方不明になって今も見つからないらしいの』

『そうだったのか。教えてくれてありがとう』

 それだけ打って画面を閉じた。

 ということは、"トイレの花子さん"説が濃厚になってきたな。渚に伝えておくか。

 渚のメッセージを開いた。あ、そういえば同級生にメッセージ送るのって生まれて初めてだな。小学生の頃はスマホ持ってなかったからな。なんて打てばいいんだろ。

 そんなことを考えていたら気づけば10分が経っていた。

 やばい!遅刻する。送るのは学校に着いて時間があればにしよう。

(うちの中学校は文部科学省で原則禁止とされている中学校へのスマホの持ち込みがOKとされている。)

 僕は急いで学校に行く準備をした。

 出来ることなら遅刻や欠席をしたいけれど、僕みたいな陰キャは1日休むだけで先生にすら名前を忘れられてしまう。昨年一度だけ学校を休んだことがあった。学校に行くと、先生は僕の名前を忘れていた。先生失格だろ!先生が生徒を傷つけてどうする!

「行ってきます」

 お母さんは仕事が朝早いから、誰もいない家に挨拶をして家を出た。


「はぁはぁ、何とか間に合った」

 とりあえず少し時間があるから渚にお母さんに教えて貰ったことを伝えよう。

『どうやら4年前にこの学校の女子生徒が行方不明になって今も見つかっていないらしい。本当に"トイレの花子さん"がいるかもしれない』

 とりあえず送れた。家から学校まで走ってきたから息が上がっていて全然緊張しなかった。良かった。


 昼休みになっても、既読はつかなかった。なぜだ?昨日から熱で休んでいるのかな?

 そんなことを考えていたらクラスメイトの話し声が聞こえてきた。


「なぁなぁ隣のクラスの冬野さんって知ってる?」

「あのすごく可愛い子?」

「そうそう。その子!」

「その子がどうしたの?」

「僕も聞いた話だから詳しくは知らないけれど、旧棟の1階のトイレで、意識がないところを見つかったらしいよ」

「え、まじ?だから昨日近くで救急車の音がしたのか?」

「多分そうだと思うぜ」

「なんで意識がなかったか分からないのか?」

「さー、俺もさっき聞いたからな」

「そうか」


 え、渚が1人で旧棟の1階のトイレに行ったのか?何をしてるんだよ!僕に危ないから1人で行くなと言っておいて。とりあえず放課後に渚のいる病院に行ってみよう。

 この学校の近くには大きな病院がある。だから多分そこに渚はいるはずだ。


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