第二話 僕の存在意義 2

 今日は美容室に行った次の日。

「学校やだな」

 けれど昨日の出来事のおかげで少しは気が楽な気がした。

「今日の僕はなにか上手く行きそうな気がする!」


 教室前にて


 やっぱり怖い。でも頑張らないと!

 ガラララララ

 ドアの音でクラスのみんなの視線が一瞬僕に集まった。あっ無理だこれ。

 友達を作るのは明日からにしよう。



 約2年後


 あれ?僕はどれだけ友達を作るのを先伸ばしてるんだ?もう僕のクラスのみんなからの印象は教室の角で本読んでる陰キャだよ。多分、いや絶対に!僕もう3年生だよ?もうやだな僕の存在意義ってなんだろう?

 そんなことを考えながら帰り道を歩いていた。

 ちょうど公園の横を通りかかったその時。4人の男子生徒と、1人の女子生徒がいた。

「おい!なに変なこと言ってんだよ!」

「ち、違うの本当なの!」

「嘘をつくなよ!」

「や、やめてっ!」

 男子生徒の内の1人が女子生徒を殴ろうとしていた。

「危ない!」

 俺の体は咄嗟に動いてしまった。遺伝子ってやつは怖いものだ。

 僕のお父さんは優しい人。しかしお父さんは僕が生まれる少し前に死んでいる。ナイフを持った通り魔から知らない人を庇って死んでしまった。僕の遺伝子の半分はそのお父さんと同じ遺伝子だ。だから咄嗟に体が動いてしまったのだろう。

「なんだてめぇ!お前から先にぶっ飛ばしてやる!」

 そう言って男子生徒は僕に向かって拳を振り上げてきた。


 2分後


 男子生徒達は全員僕にボコボコにされてた。

 僕は小学生の頃から喧嘩だけは負けたことがなかったからだ。ちなみに口喧嘩はそれには含まれない。

「あ、あの〜、助けてくれてありがとうございます」

「あ、うん」

 久しぶりに年齢の近い人と話た気がする。

「それじゃあ僕はこれで」

 けれど久しぶりに話た年齢の近い人がまさかの異性だなんて、緊張で顔も見れない。

「ちょっと待って!」

「え?」

 僕は初めて女子生徒の顔を見た。すごく可愛かった。こんなに可愛い子に呼び止められただと!?今は人生で1番輝いているかもしれない。

「あなたは制服の名札の色的に3年生だよね?」

 うちの中学校は名札が学年によって色が違うのでだ。

「うん。そうだよ」

「私も名札を見たらわかると思うけど3年。」

「私は冬野ふゆの なぎさ。あなたの名前は?」

「僕は西野 秋人」

「あの、秋人くん!ちょっとお願いがあるんだけど、いい?」

 いきなり名前呼びだと〜!?中学校生活で初めて名前呼びされた!先生ですら『西野さん』だったからな。嬉しい!嬉しすぎる!

「いいよ」

 あ、ノリで言ってしまった。

「冬野さん。お願いって言うのはなんですか?」

「秋人くんは私たちの学校にある噂を知ってる?」

「なにそれ?」

 当然友達もいなければ噂を耳にすることはない。

「私たちの学校に"トイレの花子さん"が出るって話知ってる?」

「え!?あの"トイレの花子さん"?」

「そう。その"トイレの花子さん"」

「知らなかった」

「そう。私の親友がトイレで意識を失ってるところが見つかって病院に運び込まれたの。そして、意識は戻ったのだけど時々何も無いところに向かって喋ったりするの」

「そしておかしいと思い、"トイレの花子さん"が関係してるのではないか。ってことか?」

「そういうこと。そしてさっきの私を殴ろうとしていた人達は男女ともに友達が多いからなにか知ってると思い今の話をしたの。」

「すると、『嘘をつくなよ』と言って私を殴ろうとしていた所を秋人くんが助けてくれたの」

 そういうことか。オタク心が揺すぶられる話だな。いや!冬野さんに失礼だろ!冬野さんは親友がおかしくなって困ってるんだ!それなのに僕はなんてことを考えているんだ!

「僕はその話信じるよ」

「え?ほんと?」

 今まで暗い顔をしていた冬野さんの顔が少し明るくなった気がした。

「うん。ほんと」

「ありがとう。秋人くんはスマホ持ってる?連絡先教えて」

 レンラクサキ?僕は聞きなれない単語に一瞬戸惑ったがすぐに正しい表記に直した。

 連絡先だと!?僕の連絡先の一覧には家族しかいないから家族以外で初めてだ。

「わ、分かった」

 そう言って僕は冬野さんと連絡先を交換した。

「今更だけど、苗字じゃなくて名前で呼んで」

「渚さん?」

「さん呼びは気持ち悪いかも」

「なら渚?」

「よろしい!」

 ①名前で呼ばれる ②連絡先を交換した ③呼び捨てで呼ぶ 以上の3つのことで僕の心はもう耐えられず爆発するかもしれない。今が人生で一番輝いてるかもしれない。

「暗くなってきたから解散しよっか!なにかあったらまた連絡するね!」

「分かった」

 危なかった。爆発は免れた。けれど今日は久しぶりに同級生と話して疲れたな。けれど楽しかったな。

「秋人くん!」

 名前を呼ばれたので振り返るとそこには、万遍の笑みで手を振っている渚がいた。

「今日はありがと!これからもよろしくね!そして私たちは友達だから秋人くんが困ったことがあれば私を頼ってね!」

 グハッ、ト モ ダ チ

 僕は口に出して答えることが出来なかったので、手を挙げて答えた。

 今日は帰ったら直ぐに寝よう。

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