エピローグ② 心は闇(病み)へと堕ちてゆく(ラナ・フィルド)
お兄ちゃんの最後の演説が終わり、皆が意気揚々とし自分の持ち場へ動いていく。
私もお兄ちゃんと同じ、冥界の牙メンバー。結成時は、お兄ちゃんが本当に危ないと思っていた。仲間も少ないし、無謀だったとその時は思ってた。
けど、お兄ちゃんの背中を見るたびに、どんどんと距離が離れていくような感じがした。
お兄ちゃんは有能な者を召し抱えて、早くも駒として利用できるカリスマ性がある。
「みんな、みんな、お兄ちゃんの駒のくせに。」
本当にお兄ちゃんの周りに付く、寄生虫のような奴らが嫌いだ。許せない。
特にあのナナっていうビッチが許せない。あの女、自身のスライム娘の特性が唯一無二だからって、重宝されてるだけ。罪があるのはナナだけじゃない、お兄ちゃんもだ。
冥界の牙の勢力を増やしていく途中で、私に何も言わず怪しい女たちも沢山仲間へと加えてった。
お兄ちゃんにそのことを直接聞いても、
「なんでって言われても、使えるから。それ以外にあるかよ。」
冷たく、はぐらかされた。それでも私はずっとお兄ちゃんにお兄ちゃんのためにずっと妹、ラナ・フィルドであり続けていた。
でも、もう、それを続けるための気力が持たない。お兄ちゃんへの思いの限界がとうとう来てしまった。
「お兄ちゃん―もう絶対に、許さないよ。」
壊れた人形のように、少し不気味にほほ笑んだ。その壊れた人形も意思を持つことは許されるのだろうか?今の私を見て、お母さんはどう思うのだろうか?
「惨く扱ったお兄ちゃんが全部悪いのよ、それに私の思いを微塵も知らずにね。」
悪いのはお兄ちゃんだ。
お兄ちゃんが昔、
『罪があるなら、もちろん罰を受けるべきだ。それが新しい法治国家の在り方だ。』
って、自分で言ってたもんね。自業自得じゃない。
「だからもうこれからは私はお兄ちゃんに操られる人形じゃないの。自分の意志で、お兄ちゃんを私の物にするわ。」
心の深い闇にようやく自身の大儀ができた。お兄ちゃんの側に居ていいのは、
私だけ。それ以外は、誰も許されないの。お兄ちゃんはあの女たちに嵌められているのよ!
「やっぱり、作戦中にお兄ちゃんを救うしかないわ!これでお兄ちゃんが助かるんだから…」
「それ以外の奴らなんかどうでもいい。お兄ちゃんは私だけを見ればいいの。」
お兄ちゃんで頭がいっぱいになる。脳内が幸せと愛で包まれる。さっきまで真っ暗だった地平線に太陽の輝きが、暗い空を血の様に赤く染める。
とにかく、今はお兄ちゃんのことが心配でたまらない。お兄ちゃんは私一人で十分なの。絶対に、お兄ちゃんを一人にしない。それ以外何もいらない。
瞬間、思いがあふれ出た。
あ―
また、お兄ちゃんのことをずっと考え込んでしまった。涙が―
一筋の涙がこぼれ落ちる。さっきまでの幸せはもはや表面的なものだけだったらしい。深い深い闇は祓えず、心は沈みゆく。
沈みゆく闇の中で、学園でのお兄ちゃんとの冷たい過去を思い出す。
―大陸歴1852年 ジブ王国王立学園 校舎屋上―
「ねぇ、お兄ちゃん、本当にこれ、やるつもりなの?」
屋上に吹き抜ける風が、二人の間に張り詰めた空気を際立たせた。
私は内心、お兄ちゃんが無茶なことをやめてくれるのを期待していた。だけど、その期待はすぐに打ち砕かれた。
「今しかないんだ。王族や貴族が裏で繋がっている。奴らを止めないと、この国は変わらない!」
お兄ちゃんの目には確固たる決意があった。でも、その目の輝きがどこか遠く感じられて、怖かった。昔は、私たち兄妹の間にそんな壁なんてなかったはずなのに。
「お兄ちゃん…自分を犠牲にしてまで、復讐を選ぶの?」
私はただ、お兄ちゃんが無事でいてくれることだけを願っていた。お兄ちゃんがいなくなる世界なんて、想像もできなかった。だから必死に訴えた。だけど―
「ごめん、ラナ。俺にはもう、これしか道がないんだ。」
冷たい言葉だった。まるで、お兄ちゃんがどこか遠い場所に行ってしまうような気がして、私は思わず手を伸ばした。
「お兄ちゃん、お願い…もっと自分を大事にしてよ!私には、お兄ちゃんしかいないんだから!」
その手を、兄はそっと振りほどいた。何も言わず、ただ静かに背を向けて歩き出す。私の心には、重たい何かが沈んでいった。
お兄ちゃんの中に、私の居場所はもうないのかもしれない。そう思った瞬間、胸が締め付けられるような痛みを感じた。
その後、お兄ちゃんはどんどん大きくなっていった。
冥界の牙を結成し、周りには仲間が増えていく。彼の周りには、有能な者たちが集まり、尊敬される存在となっていくお兄ちゃん。
だけど、私はどこかでその姿を見て、自分が取り残されていくような感覚に囚われた。お兄ちゃんは変わってしまった。私を必要としなくなったんだ、と。
あの頃から始まったんだ。お兄ちゃんが遠ざかるほど、私は自分の中で何かが壊れていくのを感じた。それは、周りの女たちへの嫉妬だった。
特にあのナナ―お兄ちゃんの側にいる資格なんて、彼女にはない。なのに、私はどれだけ頑張ってもお兄ちゃんの隣に立つことができなくて、心の中で自分の正当性と欲望がぶつかり合っていた。
何度も何度も、話しかけたかった。お兄ちゃんと二人で過ごしたあの頃のように。でも、いつも誰かが邪魔をする。私が近づく隙すら与えられない。いつの間にか、お兄ちゃんは私に振り向かなくなった。
それから私の心はどんどん病んでいった。自分の存在が小さく、無意味に思える瞬間が増えていった。最初は、兄を守りたかった。
だけど、次第にそれはお兄ちゃんを独占したいという執着に変わっていった。誰にも渡さない。お兄ちゃんは私のもの。それ以外は、許されないんだ。
そして今、私は決意した―
お兄ちゃんのために、私がやらなきゃいけないことがある。お兄ちゃんが誰にも取られないように、全てを捨てる覚悟で私は彼を救う。どんな犠牲を払っても、構わない。そう心に誓った瞬間、私の中の理性は完全に壊れた。
■■■■■■■お礼・お願い ■■■■■■■
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