アンダー・ザ・レインボー

岡田カズキ

プロローグ

 僕はあきれるくらいに陽気な笑いの中にいる。決して広くはないバーに満席の状態で酒を飲んでいる20人ほどの男たち。下は20歳くらいから上は50代半ばくらいといったところだろうか、本当にみんな呆れるくらいに陽気だ。


 今は日曜日の真夜中。店員も客も酒が回って結構ハイで、みんな騒ぎ放題で好き勝手に喋っている。僕以外の人達はほとんどお互いに顔見知りのようだが、なにぶん僕はこの店の常連ではないので知らない人ばかりだ。それでも隣の客が気軽に声を掛けてきてくれる。


「初めまして~ツトムと言います。この店はよく来るん?」

「初めまして、涼二です。オープン当初に何度か来たことあるけど、随分と久しぶりなんですよ」

「へぇ!それなのに20周年パーティにわざわざ?」

「えぇ、マスターにお祝いを言いたくて、ね」

「お!なんやマスターの色恋関係かいな?」

「いや、昔の知り合いで、たまたま周年って聞いたもんで」

「ふーん。ま、マスター目当ての客は多いから頑張りや!」

「だからそんなんちゃいますってば」

「まーまー。ほら、とりあえず飲もうや〜」


こんな適当な会話があちこちで交わされ、しかもこの状態が日が昇るまで続くのだから気楽なもんだ。


 ここは大阪の堂山町にある小さなバー。俗にいうゲイバーというところだ。良いか悪いかは別として、最近はLGBTQとかいう呼ばれ方が定着したが、このバーにはGに該当する男たちが集まる。つまり男を好きな男が夜な夜な集まってバカ騒ぎをする所だ。昼間の社会では隠さざるを得ない側面を曝け出すことができる場所でもある。もちろん全員がそういった自分をひた隠しにしているわけではないが、大半のゲイは日々の生活のほとんどで自分を偽って生きている。


 ゲイバーでの呆れるくらいに陽気な笑いは、そういった普段の窮屈さからの解放から生まれるのかもしれない。かくいう僕だって、今まさに普段では考えられない自分になってバカ騒ぎしているのだから。

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