第24話 幕間、休憩入りまーす
『カアアアアット! はいお疲れ様ー』
「終わったのか」
いつもの明るい女の声に、心底うんざりした声でジゴーは答えた。目を開けると、周囲は目が痛くなるほどの真っ白、なのだが、不思議と目が痛むことはない。白を白と認識してはいるが、それが光ではない証左だった。これはきっと、無なのだと思っている。
『自分で終わらせたのに何言ってんの』
「いつもその実感がない」
『そう。まあいいや。そうそう、あのね、一応忠告しておくけど、いきなり〈怪獣壊演〉するのはやめてね。こっちにも準備があるの』
「なにがだ。いつも、おれが使いたいときに使わせない癖に。それに、そっちには脚本があるんだろう」
『あるけどさー。そういう問題じゃないんだよね。わかるかな、撮影が始まる前に急に役者がトイレ行って出てこなかったり、演技がいまいちリハと違う感じ。スタッフだってさ、全部が全部練習通りにとはいかないわけよ』
「何の話だ」
『だからさ、そういうことのせいでわたしは良いシーンと悪いシーンを選別して、後々編集しなきゃいけないわけ。この苦労、わからないかな』
「知るか。そうじゃなかったら、とっととおれを怪獣のまま、この異世界でほっつき歩かせればいい」
『そうしてもいいんだけどね、そんなことしたら君が持たないのはわかってるでしょ。一晩通しで歩くのも大変なのが人間なんだから。怪獣になったって同じ。殺されないからって寝てる間に埋められたり、コンクリートに沈められたりしたらどうすんの。まあ、その時はカットしてもいいけど、最後の手段だよ、それは』
「……」
『身の程がわかったようでよし。ちなみに、今回はねー、君のお友達がドラゴンの炎でヂュ、ってされそうだったから助けてあげたんだ』
「知らん。勝手に燃やしておけばいい」
『そうもいかない。大事なキャストだからね』
「まさか、あの二人はお前の脚本通りなのか」
『そうだともいえるし、そうでないともいえる。本調子じゃない役者は確かに困ったものだけど、それはそれとしてアドリブやその日の天気、或いはミス、それらを含めて芸術にするのがわたしの仕事ともいえる』
「おれはやっぱり、お前の映画撮影にでも利用されているのか?」
『違うよ。そんなメタ的な話じゃない。わたしの目的はたった一つ』
ジゴーの言葉に、相手の声は静めるように深かった。
「……」
『わたしがこの世界で起こした唯一の失点。それを取り戻したいだけ。さあ、時間さ。また壊すために向こうへお戻り』
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