第12話 幕間、女神さまの登場だ!


『はい、カット! お疲れ様でしたー』


 明るい女の声で目を覚ます。否、まだ覚醒ではない。ジゴー・エルギーが目を覚ましたのは、真っ白な空間だった。いつもそうである。


「今日はどんな小言を?」


 ジゴーは虚空に向かってそういった。


『いいじゃん。こういう機会でないと喋れないんだし』


「別に、神様だったら好きにできるんじゃないのか」


『そういうもんでもないんだなあ』


 やれやれ、と声は響く。


『ところでどうだね、旅の進捗は』


「女神様とやらがもう少しサポートしてくれたら快適に進む。なにせ、ゴールがまるで見えない」


 ジゴーは肩をすくめた。


『やだなあ。わかっておられない。それも旅の醍醐味じゃん? でもね、一つだけ悪いとは思っているよ。折角異世界ファンタジーっぽい世界に転生したのに、壊すのはコンクリートの建物ばっかでさ。実は、言いずらいんだけど、次のシーンもそうなんだ。ごめんね』


「それは関係ないだろ」


『だけど! もう少し先に言ったら少しは異世界ファンタジーっぽい、クロスオーバーなことさせてあげるから。えっとね、具体的にいうと何ページ先かな……』


 耳元で、なにやらページを捲るような紙の擦れる音がする。ジゴーは不快そうに顔を歪めた。


「その脚本をおれに見せろよ」


『それは無理。わたし、女神さまだから』


「そもそもできないのと、できるけどやらないのは問題だ。あんたの脚本のペースだと、いつまで経ってもこの世界はこのままだ。おれは、この世界を全部壊すためにいるんじゃないのか。だとすると、今のやり方は効率が悪い」


『そうはいってもね。すでに君は破格の力を得ているんだ。もうそれくらいにしておくれよ。いいかい、君の力は……』


「女神様が暇じゃないと使えない上、毎度こうやって雑談に付き合わされる能力だ。あと変な台詞を言わされる。なんとかならないのか」


『台詞はいいでしょ。かっこいいと思うんだけど』


 声は自信を滲ませている。


「そんなわけあるか。ダサいだろ」ジゴーは抗議した。それに対し、〈女神様〉はやれやれとため息をつく。


『まったく、台詞ぐらい、いいじゃないか。わかってないみたいだけど、君に与えたのは、君が演じる怪獣を、この世界に丸々一匹投影する能力だ。別にさ、いいんだよ。君に、指先一つで町をひっくり返したり、ドラゴンの火だろうが、大狼の顎に噛まれようが死なない能力でも。でも、そういうのは結局、この世界の『尺度』の中にある。それじゃあ、この世界は覆せない』


 女は一気にそう捲し立てた。


「……だから、異世界の怪獣を呼び出している。『尺度』の外にあるから」


『その通り。定規の中で最大で、否、それを超えた力でも、計測できるんだから限界はある。でも、君の力はその枠外だ。しかも、ただの異世界じゃない。存在しない架空の世界。あり得ないし存在しないから破壊し得ない空に描いた絵。しかも、製作はわたし。つまり、誰にも破壊しえない究極の虚構』


「でも、ラジュードは不死身の怪獣じゃないからな」


『そう。でも、ラジュードを倒した兵器はやっぱり、虚構の中にある。だから、誰も怪獣を破壊し得ない』


「違う。あれは兵器じゃない!」ジゴーは珍しく大声を出す。

 

 まったく、これだから、と彼女はぼやき、


『土壌酵素破戒財〈オムニエンザイムディスラプター〉は存在しない、空想の産物。この世界には存在しない。否、フィクションの中にしか存在せず、その対極に『実在世界』はある。だから、科学怪獣ラジュードは誰にも破壊しえない。だから安心して戦い給え』


 と、尊大に語る。


『と、言うわけで、若くして死に、やり残したことといえば……』


「そんなものはないって言っただろう。ずっと勉強ばかりしてきた。それ以外のことは知らない。でも、それに後悔はない。ただ、死んで分かったことがある」


『そう、それが君のいいところ。じゃあ、休憩時間は終わり。トイレは済んだかな? 同時上映もお楽しみに。では続きをどうぞ!』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る