第8話 このシーンの次が、冒頭です

誰よりもト早くロールに反応し、そして駆け出すジゴーとウトト。それに焦りを感じつつ、冷静にルダンもまた、スラの手を取った。


「行きましょう」先を走る二人を、スラもルダンも追従する。


「剣」


 だが、その前に、スラは瓦礫の影を指した。よくみると、そこにはなくしたと思っていたルダンの剣があった。彼女はそれをひっ掴み、改めて走った。


倉庫から出ると、先を行く二人は、身を隠すためか廃墟の中に入っていく。


「どこに行く気でしょう」スラは独り言つ。前を走る二人の後を追ってはいるが、まるで見知った土地であるようにすいすいと、ロビーのような広い場所を抜け、狭い地下道のような廊下を走る。


「わかりません」ルダンは務めて冷静に返事をした。それに対し、スラはもう返事をしなかった。


 彼女の視線は、すでに周囲の見慣れぬ魔族の建築物に注がれていた。コンクリート製の建物の中は初めて通る。そこには豪華な装飾もなく、絵画の一枚もない簡素な壁や、飾り気のないシンプルなドアノブなど、到底王宮では見ないものばかりだった。小さい部屋がたくさんあるのも興味をそそった。そもそも、廊下の幅が二メートルもない場所を走るのが初めてだった。絨毯も極めて薄く固く、走ると反動が足を抜けて腰を貫き背骨を揺らす。


 階段もそうだった。そのどれにも華がない。階段の角はただ痛々しく尖り、それ以上の配慮はない。手すりすらもただ角のない棒が壁に沿っているだけで、つるんとしていて不気味だった。触れてよいものか、そもそも手すりなのかも疑わしい。


 階段を登り切り、開け放たれたドアの向こうは、テラスの様な……否、屋上になっていた。その縁に、辺りを見回すジゴーとウトトを認める。


「ジゴー、どう思う」ウトトはジゴーへ訊ねた。


「真っ直ぐ降りよう。そこで、使う」


 二人だけの符牒だろうか。いまいち判然としないことを二言三言。そうして、やっぱり装飾のない、ただただ簡素な鉄の柵を超えて、二人は大地に戻った。スラとルダンも慌てて追いかける。建物が傾いているおかげで、その上を滑るように降りることができた。

 

 そして、コンクリートの破片の上を上り下り、アスファルトの上を走って、瓦礫の積もった低い山、その上の崩れた建物の陰に立つ。


「まあまあ、よく見えるな」


 ウトトの言葉に促され、そこで改めてスラもルダンもあたりを見た。そこで、絶句することになる。


 魔界の絶えない赤い陽光の中、迫りくる魔族の影にぞっとした。囲まれていた。彼らは、低い唸り声のようなものを上げていた。


『■■■■■■(目標を発見)』

『■■■■■■■■■■(直ちに狩りに移行する)』

『■■■■■■■・■■■■■■(生死は問わない。ただの野良だ)』


 もはや逃げ場などなく、静かに震えるスラの顔の横を、一匹の蝿が飛んでいく。



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