一卵性双生児
「なあ、近所にうまい店があるんだ。一緒に行こうぜ」
友人に声を掛けられて、昼飯を食いにいくことになった。
閑静な住宅街を少し逸れたところにある小さな店で、結構お洒落な、ウエスタン風の店だった。店名は、「天命」。ややこしいが、本当にそれが店名なのだから仕方がない。
中に入り、「二名で」と告げると、店員が窓側の席に案内してくれた。ほどよく日差しが入ってきて心地よかった。
友人は席につくないなや、メニュー表すら見ずに店員を呼ぶベルを押した。
「おい、まだ俺決めてないぞ」
「大丈夫だ」
なにがだよ、とむっとしてみせると、友人はにやりと笑った。
「この店はな、メニューが一つしかないんだ」
「え、一つだけ?」
「そう、その名も、『一卵性双生児』だ」
気持ち悪い名前だな。そう返すと、友人はハハ、と快活に笑った。「まあ、とりあえず来たら分かるよ」彼はそう言って、やってきた店員に『一卵性双生児』を二つ頼んだ。
メニューが一つしかないのならば、わざわざ注文しなくてもいいのではないか、と友人に言おうとしたその時、料理がやってきた。注文してからわずか五秒。あまりに早すぎる。
どうやら熱々のプレートに何かが乗っているらしい。まさか、一卵性双生児が焼かれているとでも言うのだろうか。犯罪だ。一卵性双生児を日々調達するコストも結構なものだろうし、そもそもそんなもの食べたくない。
「お待たせしました~。こちら一卵性双生児になります。鉄板非常に熱くなっておりますのでお気を付け下さい」
目の前に置かれた鉄板を恐る恐る覗く。
そこには、一つの目玉焼きと、ソーセージが乗っていた。
「卵と双生児だろ?」
「しょうもな」
きっとこの店はすぐに潰れるだろう。
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