毒蝮【ドクマムシ】オリジンズ

呉根 詩門

昭和って、もうわかる人いるのん?

ー最近、テレビやラジオで大活躍のMr.毒蝮さんですが、この業界に入るきっかけは何だったんですか?ー


俺は、事務所の応接室のソファーに座って、いかにも下世話なネタを書きそうな、ガリガリに痩せている、ほんっとにいやらしい目をした週刊誌の記者を前に取材を受けている。こいつ、ろくに風呂にも入ってないんじゃないか?臭うんだけど?ガリガリと頭を掻くな!フケが飛んでばっちいぞ。くそ、きっとこいつは、俺が今まで色々とやらかした女性問題を嗅ぎつけてやってきたハイエナに違いない。ここは、一つ。そんなちゃっちいネタを書かされて仕事が無くなったら困るから、ビッグでジャンボなネタを提供してお帰り願おうと思い俺は頭を捻った。


俺は、素知らぬ顔で平然と


「そうですね。僕くらいのビッグになると、学生時代もスケールが大きいんですよ。」


「ほほう、それはどう言う?」


おい!テメェ、人の話を聞きながら指を鼻に突っ込むな!言葉と態度が全然違うぞ!ふざけんてんのか?


「知らないかもしれんが、欽ちゃんの仮装大賞ってあるじゃないですか?あれの元ネタは、僕の発案なんですよ」


「おお!興味深い!是非聞かせてください!」


くそ!あくびしながら、ほじるな!こいつやる気あるのか?


「そうですね…あれは僕の高校三年生の文化祭の事でした」


ーーーー


僕は、文化祭の実行委員の委員長でした。その中で何かクラス別でコンクールをやらないかと言う意見が出てました。それで委員内で何か案はないかと話し合っている時、一年が勢いよく手を挙げて


「委員長、コント大会しましょう!それで生徒からの投票で一位を決める形にするとぜっったい盛り上がります!」


まぁ、他の委員は、やる気がないのと一年の熱意のゴリ押しでコント大会をする事になりました。


それが、あんな形になるとは…誰も思っていませんでした…


文化祭の当日前まで、あちらこちらで2、3人で固まって


何でやねん!



ちゃいまんがな!


の絶叫ツッコミが校内の至る所に響いていました。僕は、内心こいつら馬鹿じゃねと白々しい思いで遠くから眺めていました。


そんなこんなで文化祭当日、連日のボケとツッコミの練習で顔と手が赤く腫れ上がった、お笑い馬鹿野郎軍団が舞台の袖に待機して、自分の出番を今か今かと待ち構えていました。僕は、そいつらを虫ケラを見る思いで眺めていると


「君ねぇ〜、僕思うんだけどぉ、コント大会に出ると面白いと思うんだよねぇ〜」


あまり話たこともない同じ3年の男子が僕を、まじまじと見ながら話しかけてきた。


「そっだ〜。君ねぇ、こっちに追いでぇ〜。僕がねぇ。いい感じにしてあげるぅ」


と、見知らぬ同級生に僕はトイレに無理矢理連行された。


「んん〜、こっちは、こうして顎を伸ばして〜いい感じん。で!君はこのパンツ履いて。んん〜いい〜いい〜!」


そして、僕は眺めているだけのはずが何故か舞台に立っていた。僕は、ただ一言その男子にファイティングポーズをとって立っているだけでいいと言われたので構えて棒立ちしていると


「カモン〜カモン〜」


と男子は、どう考えても猪木の格好をしながら寝そべって挑発をしている…


こ、これは…猪木とモハメド・アリの対戦のコントか?て、事は僕はモハメド・アリか?


「ふざけんな!」


と、僕は猪木を思いっきり蹴った。


「痛い〜ん。君ねぇ。ボクシングは〜脚を使っちゃいけないのぉ」


「脚もへったくれもあるか!いきなり何させてるんだよ!」


と、再び思いっきり蹴り上げると


「んん〜痛いん。痛いん。だ・か・らボクシングを脚を使っちゃ…」


僕は、羞恥心も相まって完全に頭に血が上った。そして、寝ている猪木を立たせると


「ふざけるのもいい加減にしろ!俺はボクシングやプロレスよりキン肉マンが好きなんだよ!くらえ!必殺パロスペシャル!」


僕は常日頃から憧れているウォーズマンのパロスペシャルを護身用として練習していたのだ。そしてこの時、完璧見事に決まった。両手両足を締め上げられた猪木は


「元気ですかー!元気があれば手足が締め上げられて脱臼しても何でもできる!1!2!3!」


「脱臼したら何にもできないだろ!」


ーダアアアアー


猪木の雄叫びと共に会場全員の絶叫が響いた。


そして、コントが終わり袖に下がった後、元猪木の男子生徒が


「君ねぇ。なかなかよかったと思うの。僕ね。楽しかったんだよね〜」


僕は、その男子に何とはなしに


「まぁ、普通のコントや漫才より、みんなでお笑いに特化した。モノマネや仮装大会やった方が面白いかもな」


「んん〜!君ね、いいアイデアだと、僕思うの。そのネタもらうね」


ーーーー


「この元猪木の男子生徒が後の欽ちゃんだったわけですよ」


「本当ですか?あの有名番組の生みの親が毒蝮さんだったとは!」


こいつ口だけは真面目だが人前で平然とお尻をボリボリと掻き始めた。緊張感が全くない。怒りを通り越して呆れてしまう。


「ところで、最近毒蝮さんは、ある人妻女優とホテルを出たと言う話が…」


「ああ、すみません。欽ちゃんどうしたの?久しぶり、うん、うん。ああ、ごめんなさい。ちょい欽ちゃんにネタの相談お願いされたから、外出しないといけないので、今回はここまでで」


「ああ、はい。すみません、大事なお時間ありがとうございました。また、お時間あればお願いします」


「はい。こちらこそすみません。また、次に」


と、記者は強烈な悪臭を残して去って行った。もう、来るな!早く風呂に入れ!


「欽ちゃん、ごめんね。うん、ちょいドブネズミがいたから。うん、わかった。今行くね。待っててね」


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