夢の切れ端
それぞれ出来上がった料理を机の上に置いて、椅子に座った。輝姫はパンケーキ、透馬はフレンチトースト、朱音はハンバーガーである。
「いただきます。」
輝姫は手を合わせて、ナイフとフォークを手に取った。透馬と朱音も、それぞれカトラリーを手に取る。と言っても、朱音は紙の上からハンバーガーを掴んだだけだが。透馬はカチャカチャとしばらくナイフとフォークを右と左で入れ替えていた。やっと止めた手元を見て朱音はくすくすと笑い出し、透馬はムッとした様子で唇を尖らせた。
「なんだよ。」
透馬の不満そうな声色に朱音の笑い声は余計に高くなり、透馬はじとりとあかねを睨んだ。
「亜麻王くん、ナイフとフォーク今持っているの反対なのよ。本来なら右手ではナイフ、左手ではフォークを持つのが正解なの。」
透馬は目をぱちくりとして、自分の手元を見た。確かにナイフを左手でもち、フォークを右手で持っている。
「あ、そ、そうなんだ!ありぎゃちょ!」
舌を噛んでしまいった上に顔が真っ赤になっているのは、恥ずかしさからなのだろう。ナイフとフォークを持ち替え、透馬は顔を伏せた。輝姫はそれを不思議そうに眺めた。
「輝姫〜、ハンバーガー一口いる?」
やっと笑い終わった朱音の言葉に、輝姫はチラリと朱音のハンバーガーを見た。一度持ったナイフとフォークを置いて、ニコリと笑う。
「えぇ、ぜひ。朱音もパンケーキ一口いる?」
朱音はパァッと顔を明るくして、ぶんぶんと首を縦に振った。そしてハンバーガーの皿を持って輝姫のパンケーキの皿を入れ替える。
「はい、どうぞ!」
にっこりと笑って差し出してきたハンバーガーの中には、何やら黒いものが見えた。パカリと一番上のパンを取って見ると、焦げたものの塊だった。レタスとトマト、チーズが入っていることから考えると、肉だろうか。一口もらうと言ってしまった手前、とりあえず一口食べてみる。
「いただきます。」
ジャリ。輝姫は思わず渋面を作りそうになった。朱音の期待の眼差しを感じて、口角を上げて目を細める。
「…美味しいよ?」
「何その表情!その間は!?そしてなぜ疑問形!?」
役者ではないのだから当然だが、やはり嘘は苦手だ。輝姫はハンバーガーを朱音に返し、口直しにパンケーキを一口食べた。甘くて、口の中でふわりととける。ほおが落ちそうな味に、顔が緩むのを隠しきれなかった。
「そういえばさ〜、輝姫、なんか火見て師匠って言ってたけど、あれどうしたの?」
唐突な質問に、輝姫はこてりと首を傾げた。そして、自分が言っていたことをやっと思い出す。青色の炎を見て師匠、と口からこぼれたのだった。
「え、と…」
輝姫は記憶を手繰った。師匠と呼んだからには、何か理由があるはずだ。ふと、今朝の夢を思い出した。
「夢に出てきた人に似てて…」
上を向いて考えている輝姫は、朱音の瞳がきらりと光ったことに気が付かなかった。
「それで?」
考えを促してくる声に、輝姫は夢の詳細を思い出した。確か、と口に手を当てる。
「指を鳴らしたら炎がついて、それを黒い髪のサファイアの瞳の人に褒めてもらったの。綺麗な男の人なのにフードをかぶって襟までたてて、もったいないと思ったわ。」
無意識に、輝姫は指をパチンと鳴らした。遠くの方で、驚く声が聞こえる。
「火が強くなった〜!」
どうやらまだ調理が終わっていない人が使っていたコンロの火が大きくなったらしい。コンロが故障したのだろうか。
「厨二病だ。」
朱音が思わずと言ったふうにこぼした言葉に、輝姫は顔を真っ赤にした。確かにその通りだ。輝姫の年頃の人たちがかかる、漆黒の〜、という感じの言葉を言うあれだ。
「まぁまぁ。ただの夢なんだし、ね?」
透馬が気まずい雰囲気を壊そうとしたが、全然役に立っていなかった。
「そろそろ食べ始めないと、時間がなくなりますよー。」
先生の言葉が、教室に響いた。三人は黙ってそれぞれの料理を食べ始めた。
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