10話 vs鳥人バド②
10話 鳥人バド②
「ケッ。当たんねぇよそんなのッ!」
Kは挑発するように手を叩き、バドとの距離残り数メートルの所で、横に大きく跳んだ。
「そんなんで避けれるとでも思ったかッ!」
対するバドは、その速さからは想像も出来ないほどのUターンに近い急旋回をし、跳んで避けたはずのKの背中を正面に捉えて体当たりをした。
「ッッッ!?」
うめき声を上げたのはバドだった。
完全にKの背後を取ったのにも拘らず、Kは攻撃が来ることが分かっていたかのように宙返りでバドの体当たりを躱した。
それだけでなく、宙返りをしながらバドの後頚部に魔力の籠もった蹴りを入れていた。
「アタシの車壊した時も、さっき上でぐるぐるアホみてぇに飛んでた時も、そうやって急旋回してんの見てんだから、そんぐらい想定内なのは当たり前ェだろ」
地面に激突したバドは、地面を赤茶色に汚しながら音を立てて滑り、野次馬の群れに激突して止まった。
「腹滑りが上手だなぁ。ペンギンみてぇだぞ」
Kは指を差しながら、ゲラゲラと品性を感じさせない笑い声を上げた。
「だ、黙れッ!」
立ち上がったバドが翼をKに向けると、散弾銃のように無数の羽根がKに向かって射出された。
「痛ぇッッッ!」
咄嗟に腕で顔を庇ったKだったが、全てを防ぐことは出来ず、射出された羽根の一本がKの右頬を引き裂いた。
引き裂かれた右頬からボタボタと血を流すKは、ニヤリと笑った。
「お前の”抜け羽根攻撃”ぐらいしか、ヤベェ攻撃はねぇな」
「そんな名前じゃない。”羽根射撃(フェザーショット)”だ」
「アッハッハッハッ! それがカッコいい名前だと本気で思ってんのかッ!? ”良いセンス”してんなぁッ!」
Kが大きく一歩踏み込んで、左拳をバドの脇腹に叩き込もうと振りかぶった。
バドは翼で脇腹をガードしたが、ズドンと音が響いたKのパンチの衝撃を、バドの翼は吸収する事が出来なかった。
「ガハァッ!?」
翼で防ぎ切れなかった衝撃を、脇腹に喰らったバドは顔を歪めながら蹌踉めいた。
「おいおい、御自慢のガードはどうしたってんだ!? ”身体強化”がガタガタじゃねぇかッ!」
今まで攻撃を防いできたバドの翼の”身体強化”が弱まったと知るやいなや、Kは魔力の籠もった拳と蹴りを、間髪入れずに叩き込んだ。
防ぎ切ることが出来ないと分かっていても、避ける術の無いバドは翼で身体を覆い、Kの猛攻に抗った。
「くたばれッッッ!」
最後の一発は、一呼吸置いてからの強烈なストレートを決めるはずだった。
だが、渾身の力を込めるためとは言え、一呼吸置いたのがマズかった。
バドはその一瞬の隙を逃さず、地面を強く蹴って空に上がると、八の字を描きながら一気に加速した。
「最後に油断しやがって猫女ッッッ! 勝つのは俺様だッッッ!」
「お前ェじゃねぇよッッッ!」
辺り一帯に風切音が鳴り響く。
それは、先程よりもさらに速度を上げた、バドの超高速飛行により発せられた音だった。
「これが俺様の最高速度だッ!」
その言葉の通り、Kとの戦闘による感情の爆発と集中力によって、バドの飛行速度は今までの最高速度を更新していた。
バドの最高速度による弾丸突撃。
対するKは射線上に拳を構えてタイミングを見計らう。
「これで終わりだッッッ!」
「俺様の台詞だッッッ!」
飛び散る血飛沫。
それはバドのものではなく、Kの血だった。
「クソ、がッ」
バドは、Kとの距離僅か1メートルの所で急停止し、カウンターを狙っていたK目掛けて、ありったけの”羽根射撃”をお見舞いしたのだった。
バドを睨み付けながら倒れるK。
対するバドは、勝利の実感が沸々と湧き上がり、気持ちの悪い笑みを浮かべていた。
「ハハッ。ハハハッッッ! 俺様の勝ちだッッッ!」
崩れ落ちて動かなくなったKを見下ろしたバドは「許しなんかいらねぇッ! 今此処でイカれた頭ごと踏み潰してやるッ!」と叫び、足を高く上げた。
「ノノッ! 早く助けないとッ!?」
どう見ても絶体絶命のピンチだというのに、ノノは椅子に座って頬杖をついていた。
「勝負は決まったでしょ」
「えッ!? だから、早くKを助けないとッ!?」
ノノが小さな溜め息をついてから、バドを指差した。
「死ねッッッ!」
確かに、Kの頭を踏み潰そうとしていた。
しかし、足を下ろす直前。
バドの身体はガクガクと小刻みに震え、バドの足はKの頭に触れること無く、一歩後ろに着地した。
「ッッッ!?」
頭が熱い。視界がボヤケている。手足の感覚が遠退いていく。気が付けば見下ろすのではなく、空を見上げている。
何が?
一体何が起きた!?
視界があっという間に狭まり、ついには真っ暗になった矢先、近くで足音がした。
「綺麗にパンチ貰うと感覚無いでしょ。あと10センチ手前で止まる脳みそがあれば勝てたのにね。あぁ、それよりも大事なのは謝罪の言葉だったね。ホラ、早く言ってよ。用意してたんでしょ? って、聞こえてないか」
動かなくなったバドに歩み寄っていたノノは、仰向けの姿勢からうつ伏せの姿勢に変えると、翼の先端であり拳の手前、人間でいう所の手首を腰に回させて、手の中から現れた光る輪っかで縛った。
「何ですかソレ」
「”超簡易拘束魔法”。私達がこの場を去るまでの時間稼ぎには充分」
「そんな便利な魔法があるのなら、最初からそれ使えば良かったんじゃないですか?」
「”超簡易拘束魔法”ってのは、”まあやみ”みたいな何にも出来ない奴を拘束するための魔法なの。
相手が今みたいに満身創痍なら別だけど、本来、”身体強化”が使える相手を止められるような魔法じゃない。
それとも何? 金輪際歯向かって来ないように、今この場で息の根を止めておけって言いたいの?」
「いやいやいや。そんなこと言ってないですし、思ってもないです」
ノノは何度か周囲を見回し、新たな刺客がいない事を確認すると小さな溜め息をついた。
「車はボロボロ。Kはズタズタ。悪いけど、これ以上”お荷物”を増やされると困るから、ケースは私一人で運ぶわ。”あやみま”はKと一緒に修理工場にでも行ってて」
「え、えっと」
『リスピー、今いる場所に私のバイクとレッカーを呼んで』
頭の中にノノの声が響いた。
”脳内会話”の相手はリスピーのようだった。
『それだけで大丈夫? ”怪我人回収車”も呼んどく?』
『いらねぇよリスピー。問題ねぇ』
Kが”脳内会話”で答えながら、表情を歪めつつもゆっくりと身体を起こした。
身体を動かした拍子に、身体の彼方此方から血が流れ始め、既に汚れていたシャツがさらに赤黒く染まった。
『Kなら止血しとけば大丈夫そうだし、その辺は私がやっとくから』
『分かった。レッカーは手配済み。バイクはもうちょっと掛かりそう』
『そう。ありがとう』
”脳内会話”を終えたノノはKに歩み寄り、緑色の魔力を手に纏いながらKに触れた。
「それ嫌いなんだよなぁ」
「ふぅん。じゃあ、出血多量で死ねば?」
ノノが手を引こうとすると、Kはその手を掴んだ。
「冗談冗談。すぅぐ真に受けんだからよぉ。全く、頭は良いかもしれねぇが、随分と凝り固まっ痛たたたたッッッ!」
ノノがKの”豊満な胸の先”をつねり、Kは叫び声を上げた。
「この”無駄な脂肪”。鳥人間の攻撃で削ぎ落とされてば良かったのに」
「おいおい今度は僻みか? そんな根暗みてぇな根性してるからちっせぇままなん痛たたたたッッッ!」
「立場を弁えなさい」
「怪我人に暴力奮う奴が何を言ってんだか」
いつもの喧嘩が始まったと思いきや、いつの間にか治療は終わっていたようで、出血は治まっていた。
「いつも言ってるけど、一時的な止血だからね。触ったり強く動かすと傷口開くからね」
「へいへい。ありがとう」
ノノの手を借りて立ち上がったKは、大きく伸びをした後に、柔軟運動を始めた。
その拍子に腹部の傷が開いたのか、破れた服の隙間から鮮血が弧を描いた。
「やべっ」
「もう知らないからね」
Kが慌てて傷口を手で押さえていると、1台の大きなレッカー車が近づいて来て、クラクションを鳴らした。
「おいおい。また派手に壊してんな。運ぶからサッサと準備しろ」
レッカー車の運転席から顔を覗かせたのは、目つきの鋭い金髪の女性だった。
金髪の女性はノノに視線を向けると小さく舌打ちをし、視線をKに向けた。
「おい。血塗れじゃねぇか。言っとくけど、汚ねぇ奴は助手席に乗せねぇからな。それと、助手席の定員は”一人”だからな」
「私は乗らないわ」
「ハァ? お前に言ってねぇよ”魔女っ娘”」
「それが客に対する態度なの?」
バチバチと火花が飛び散ってそうな睨み合いを始めたノノと金髪の女性の視線の間に割り込んだKは、僕に向かって手招きをした。
「すぐ喧嘩すんなや。おい、行くぞ。”みやあま”」
「え、あの、レッカーされる車に乗ってるのって危なくないですか?」
「アイツの助手席に乗るのと、アタシと一緒にコッチに乗るのどっちが良いってんだ?」
そんなの決まってる。
「いや、普通に助手席乗りますよ」
予想外の返事だったのか、Kは数秒硬直した後に「そうか」と少し寂しそうに呟いた。
「早く乗れよ。置いてくぞ」
金髪の女性が舌打ちをしながら睨んできたので、僕は慌てて助手席に駆け寄った。
助手席のドアを開けるのと同時に、強い煙草の臭いが鼻を刺激し、効きすぎた冷房に思わず身震いした。
入るのに躊躇していると、怪訝な顔で睨んできている金髪の女性が口を開いた。
「誰だお前」
「あ、雨宮です。雨宮樹です」
今更乗るのを止めるわけにもいかないので、意を決して助手席に座った。
「訊いてんのは名前じゃねぇよ。お前、Kの連れか?」
「連れ? そう、ですね。一緒に色々やってます」
「なら良いけど」
金髪の女性は、ダッシュボード一杯に並べられた煙草の箱から一本取り出し、火を点けてから咥えた。
「私の名前はクィン・B。よろしく」
それだけ言うと、滑らかな手付きでレバーを操作し、レッカー車はゆっくりと動き出した。
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