第17話 乙女たちの巣作り

 ある日の活動日。

 休み時間中に外を見ていた俺は、降る雨の量に憂いていた。


(降りすぎでしょ……こんなに降ってたら誰も来ないんじゃないのか……)


 季節は梅雨に入ったこともあり、これから雨の日が続くのが予想できる。

 みんなが部活に対して足が遠のくことも考えられた。


 とはいえ悪いことばかりではない。

 かなり週刊らしくなってきた俺の連載漫画、『週刊くま日和』に季節のネタとして取り入れられるからだ。


 今日の話では主人公のくまが遊びに出かけるものの、大雨が降って雨宿りをするというお話。

 相変わらずヤマもオチもない内容だが、ここのところ割と見てもらえるようになっていた。


 ただ、今日はかなり降っていることもあり、彼女らへ先に中止の旨を知らせることにする。


「『みんな、ごめん! 雨が強いから今日は無しで』」


 そうメッセージを全体に向けて送ると、なぜか個別に返事が返ってくる。

 一番初めに返ってきたのが川名さんだ。


「『行くけど。普通に』」


 メッセージ越しではあるが、有無を言わさない感じの文章に目を丸くする。

 だがこの強引さ、結構俺は好きなのだ。


 次に返ってきたのが芝崎さん。


「『風は出ていないし大丈夫なはずよ。時間通りに行くわね』」


 確かに風は吹いていない感じだが、これからどうなるかわからない。

 安全のために控えて欲しいものの、来てくれると嬉しいのもまた事実だ。


 そしてほぼ同時に江東さんからも返ってくる。


「『ありがとう。でも今日のくま日和の感想言いたいから行くね』」


 そう言われてしまっては断ることもできない。

 大切なファン一号としてもてなすほかない。


 返信すると、今度は犬鳴さんからメッセージが飛んでくる。


「『そうですね。そうだ、神瀬くんのお家で雨宿りさせてもらえませんか?』」


 一度あたかも納得したかのように見せて、結果は変わってないというテクニックを披露してきた。

 雨宿りして帰るまでに止むのか謎だが、引き受けるしかない。


 そして最後に夜凪さんから返信が来た。


「『もったいない、もったいない! 雨に濡れた乙女を見ないなんてもったいない!』」


 残念ながらこの土砂降りじゃ、そんな艶やかなことにはならないだろう。

 でも彼女の来たいという思いは十分に伝わった。


 俺はみんなに気をつけて来るようにと返信する。


 結局、この雨の中で全員が部活に参加することになったのだった。


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 俺は雨の中急いで帰宅する。

 靴はすっかり浸水し、靴下までグショグショの酷い有り様だ。

 着替えて、ある程度拭いた制服をハンガーにかける。


 果たしてこんな状況で本当に来られるのだろうか。


 なんてことを考えていると、夜凪さんの言葉が浮かぶ。


「雨に濡れた……乙女……」


 邪な考えが脳を駆け巡る。

 雨に濡れてスケスケな展開が来るのかもしれない。


 これぐらいの妄想は許して欲しい。

 俺は男子高校生なんだ。


 などと悶々としていると、インターホンが鳴って出迎える。

 扉を開けると、五人揃っていた。


「濡れてない? 大丈夫?」

「うんっ、大丈夫だよ」


 江東さんの言うように、本当にみんな微塵も濡れていなかった。

 逆にこの大雨の中、どうしてそんな綺麗に来られたのかが不思議なぐらいだ。


 バカな妄想をしていた自分が恥ずかしくなる。


 中に入ってもらうと、もう俺が何も言わずとも定位置に座る。

 テーブルに対して座布団を敷いて座るのが芝崎さんと夜凪さん。

 ベッドの上に座るのが江東さんと犬鳴さんだ。

 川名さんはベッドのサイド部分にだらしなくもたれかかるのが好きらしい。


「みんな、雨の中お疲れ様。来てくれたのは嬉しいけど……やること何も考えてなくて」

「ふーん、まぁいいんじゃない? 暇潰せるのは色々と持ってきてるんだからさ」


 川名さんが言うように、この前に彼女らに聞いた持ってきたいものはここに持ってきてもらっている。


 ただ、思っていたものと違う感じだったことが多かった。


 たとえば江東さんはお菓子を持ってくると言っていた。

 俺はてっきり小袋程度かと思っていたが、業務用の段ボールに入れて持ってきたのだ。


 川名さんはゲームを持ってくると言っていたものの、携帯用ゲームかと思いきや家庭用のゲーム機と箱に入った新品のコントローラーを持ってきていた。


 また、夜凪さんは漫画を持ってくると言っていた。

 確かに持ってきたのはそうだが、まさか五十巻も持ってくるとは思わない。


 枕を持ってくると言っていたのは犬鳴さんだ。

 しかしなぜかパジャマやヘアバンドなども持ってきていたのだ。


 そして芝崎さん。

 彼女は結局何を持ってきたのかがわからない。

 ダッフルバックに色々と入っているようだが、絶対に見るなと言われている。


 全員に言えるのは、暇つぶしどころの持ち物ではないということだった。


「そ、そういえばまだちゃんと神瀬くんのお部屋を見たことがなかったので……その、見せて欲しいんですけど……どうでしょう?」

「部屋? いいけど、部屋って言ってもなぁ……」


 ここはワンルーム。

 今いるリビングとキッチンは繋がっており、あとは洗面所とトイレ、風呂ぐらいしかない。


「いいねぇ~、お、お風呂見に行こうよ、ひひっ」

「ユニットバスだし、見ても面白くないと思うけど……それでもいいなら」

「よ~し、じゃあ見に行こう!」


 夜凪さんはノリノリで風呂に向かっていく。

 この中で風呂を見たことがあるのは、以前にトイレを貸した芝崎さんだけだ。

 もう見る必要はないはずだが、彼女もついてきていた。


「ここが風呂。ほんとそれだけなんだけど……」

「なるほどなるほど……ここで神瀬くんはいつも……ぐひひっ」

「君江、やめなさい」

「トイレとお風呂がくっついてるんだねっ、面白いかも」


 初めてユニットバスを見たのか、江東さんは興味深そうにしている。

 ときどき忘れそうになるが、彼女たちはお嬢様なのだ。


「ここでカーテン閉めてシャワーするんだ? ふーん。今度使っていい?」

「……えっ!? つ、使うの?」

「恵人っ、あなたねぇ……」


 川名さんの言葉に俺も含めて驚く。


「まぁ今日は大丈夫だけどさ。暑くなってきたら汗かくだろうし……」

「それは……そうだけど」

「シャワー料払うからさ」

「いやいや、いいよそんな」

「そう? じゃあ決まり」


 押し切られてしまった。

 本当にここでシャワーを浴びていくつもりなんだろうか。

 また変なことを考えそうになり、首を振る。


「ならリンスとかも必要になってきますよね?」

「あぁ……そういうのは無いね。男一人だし……」

「大丈夫です、お家から持ってきますので。そうだ……入浴剤も持ってきましょうか」

「にゅ、入浴剤っ!? ま、まぁ必要なら……うん、持ってきてもらえれば」


 犬鳴さんもシャワーを使う気だ。

 というか入浴剤を持ってきてバスタブにまで浸かろうとしている。

 風呂掃除を急いでしなくてはいけない。


「こ、このお風呂って二人で入れるの~? んひひっ」

「一人用だと思うけどなぁ……」

「そうかなぁ? 鏡子ちゃんはどう思う?」

「なっ!? なんで私に聞くのよ!」

「え~、だって神瀬くんと……ぐひひっ」

「だ、黙りなさいっ! ほら、お風呂の見学は終わりよ!」


 真っ赤になった芝崎さんは夜凪さんの背中を押し、リビングに連行する。


 さすがに二人一緒に風呂に入るのはありえない。

 まずスペースが明らかに足りないからだ。


 ただそれは浴槽に浸かることを前提としたもの。

 もし立ったままでいいのなら……。


「……ハッ!?」


 そこまで考えてしまった俺は、慌てて正気に戻りみんなのもとへ急いだ。


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