ひどい扱いを受け続けた俺が部活を変えたら、俺はただただ学校生活が上手く行った。一方、前の部活のエースはただ落ちぶれて行った。
白金豪
第1話 退部の薦め
「そろそろバスケの才能が無いから退部しろよ。その方が皆のためだし、そっちのためでもあるからさ」
高梨靖典はベンチメンバーに1度も選ばれた経験が無いバスケ部の1年生である。
靖典は春休み(新学期まで残り1週間)の練習にも関わらず、バスケ部エースの高谷から退部の推薦を受ける。
「そうだそうだ! 」
「お前のような下手な部員は目障りなんだよ」
「部員のモチベーションは下がるだけだ」
高谷に感化された周囲の部員達も同意を示す。
部員は誰も守ってくれない。周囲には敵のみ存在する。
「みんなも俺に同意だってよ。新入生が入ってくる前に退部した方が良いと思うぜ。新入生にお前が舐められる前にな。ははは」
高谷の高笑いに便乗するように、他の部員たちも大きな笑い声を上げる。1つに集まった笑い声は体育館に騒々しく響く。
(うわぁ~。もうこんな環境でバスケしたくないよ。バスケは下手な上、人間関係も最悪なんて。良いこと無さすぎ)
「分かったよ。今から先生に伝えて来るよ」
バスケのコートの外に出て、靖典はバッシュ(バスケットシューズ)を脱ぎ始める。
「珍しく賢い選択を取ったじゃないか。才能無い奴は辞めるべきだと思うぜ。だから今日でさよならだ高梨君」
完全にバカにしたトーンで、高谷は右手を振る。
「「「あははは。最高かよ!! 高谷!!! 」」」
周囲の部員達が噴き出す。
(なんだよ。そんなに下手なのがダメなのかよ)
耳障りな笑い声を背後に、靖典は体育館を退出する。
制服に着替えずに、そのまま職員室に向かう。
淡々と退部の意志を顧問に伝えてから部室に戻る。そこから制服に着替え、帰路に就く。
「…ただいま」
沈んだ声と表情を浮かべながら、自宅の玄関で靴を脱ぐ。
「おかえり! 今日は早いね」
リビングと繋がる戸から弟の康人が現れる。
靖典と大きく違い、康人は高身長である。その上、顔も整っている。
「バスケ部を辞めたからね…」
弱々しく答える靖典。
「は? どういうことだよ。退部なんて急すぎない? 」
康人の声のトーンが大きく変化する。靖典の様子から違和感を覚えたのだろう。
「エースから退部を薦められたんだ。他の部員達も楽しそうに便乗していたよ。
だから彼らの希望通りに沿って今日辞めてきた」
康人に注意を向けることなく、靖典は玄関の階段を1段1段上がる。
「…そうか。それは災難な経験をしたね」
おそらく靖典の胸中を察したのか。康人はそれ以上深く追求しない。
「……」
康人を背後に、靖典は無言で階段を上がり続ける
「 今後は部活には所属する予定はないの?」
「…分からない」
1言だけ返すと、靖典は自身の部屋に籠るためにカギを施錠する。そして、カーテンを全て閉め、長い眠りに落ちた。
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