白昼の回想

俺が彼女と会ったのは……高校一年の頃。

「気を付けてね、髪を染めすぎると

痛めちゃうよ」

なぜか俺の髪を気にかけ、声をかけてきた。か細い小鳥のような美しい声。男子学生の制服に隠しててもわかる、きめ細かな

雪白の肌。しなやかにすべすべした腕と脚、顔は──恐ろしいほどに整ってやがんだ。彼女と逢い引きする担任の女教師もろとも我が物にしてやろうと、考えちまったのがすべての始まり。

通う高校近くの掘っ立て小屋で暮らす

彼女の元へ。もちろん目的はチョメチョメだ。俺のマグナムで、骨抜きにしてやる。

結果は……

「よしよし、ごはんだよ~」

「わんわん!!!!」

半殺しにされ、掘っ立て小屋で飼われることになった。右脚は砕かれ、

手首はあり得ない方向へ曲がり動けねぇ。

「今日は野菜と残飯もどきだよ~」

ウマイ、めちゃくちゃ彼女の手料理が旨い。

ここで俺は気づいてしまった……犬の生活も悪くない、彼女に飼われるなら。

彼女はリハビリまでおこない、数日間も

付きっきりで世話してくれた。

「ゆっくり……そうそう、腕をあげる」

「丁寧はスムーズ。スムーズは速いって

元アメリカン・スナイパーさんが

言ってたよ」

「徐々に進めばいい。まだ時間は

あるんだから」

もう彼女ナシには生きられないほど

俺は魅力されてしまった。

学校に復帰した俺は、髪を黒に戻し

今までカネをせびった女達に頭を下げ

関係を精算していく毎日。

ボロボロの俺を、彼女は甲斐甲斐しく

手当てする。

「もう……派手に喧嘩しすぎだよ」

艶かな声で呆れたようにそう呟く

姿に、俺はなおのこと彼女と添い遂げる

覚悟を決めた。

一通り終われば、最後の相手──

「桂子先生」

「なんだ鷲原」

「お話があるので、生徒指導室か

二人きりなれる場所へ」 

「あっ……うん。わかった、放課後にな」

俺は彼女の大切な女性を調教していた。

ただ自分の欲望を満たすため、教師と生徒の蜜月をネタに脅迫してな。

細くはない程よく肉がついた三十代の女教師をマグナムで──依存させた。

刺されても仕方ないと考えていたが

土下座しながら、彼女のことを含めすべて告白したら「そうか……」だけ呟き、

女教師は生徒指導室から出ていった。

俺は釈然としないまま、夕方になり

彼女の家へ。

「あっーなんかきみ宛にかっちゃんから

荷物あるよ」

かっちゃん、女教師を愛称で呼ぶ

彼女。俺もちゃん付けで呼ばれたいと

思いつつ、両手大のダンボールに包まれた

かっちゃんの贈り物を開封。

中身は……

「カワイイじゃん」

俺の写真を貼り付けた藁人形が五十体、しかも顔面に釘が打ち込まれていた。

その日から教室で女教師と会えば

藁人形が、自宅や掘っ立て小屋に送られるようになった。彼女は気に入ったのか、

特殊な棚に藁人形を溜め込んでる。

俺はどうするべきか、迷いつつも

ひたすらバイトしながら彼女と逃げる

準備をしていた。

結婚指輪も買うために……だが。

「逃げて。床下に地下道あるから」

あの女教師が、俺が別れ切り出した女達を

引き連れ、焼き討ちしてきやがった。

「ジュンは……」

「かっちゃんと話してくる。説得できるか、どうか微妙だけど」

「ちょっ」

「バイバイ~」

彼女は華が咲いた笑顔を浮かべ、燃え盛る

掘っ立て小屋から逃がしてくれた。

俺は必死に地下道を抜け、森の中へ

出たが……

「遂に見つけたぞ」

今度は俺が寝取った女達の元カレどもに

捕まり、リンチ。包丁で滅多刺しにされ、

死ぬハズだった。

「おいやりちん野郎」

彼女とは違う凛としたがさつな甘い声が

暗い場所から聞こえる。

「おまえのせいで、うちの娘が行方不明になった。正直、おまえさんに頼りたくないんだけど」

耳に囀ずる美声で「おまえさんにチャンスをやるわ。顔と身体を作り替える、だから」頭を鷲掴みされたような衝撃とともに

「娘を捜せ。見つければ地獄へ流すのは考慮してるよ」と宣言されたんだ。

役目は……終わった。あとは彼女とあの子が無事で……




”バイタルが急変した!!”


”脈が安定しません!!!!”


”心肺停止──”

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