対面、再会

2028.07.24 映像記録


途中まで書き起こし。


13:12


「今日は変態どもがレビューしていた

アパートへ向かいます」

堀の深い精悍な顔立ちする

坊主頭、ダークスーツを着こなす

引き締まった体格の中年男性が

カメラ越しにそう説明する。

肩に下げた鞄にビデオカメラ仕込み、

部屋のインターホンを押していく。

二階は反応がない。やむなく一階でも

続けていたら

「あのー」

小鳥のような細い淑やかな声に

振り向くとカッターシャツ、プリーツ・

スカート姿の眼鏡かけた中性的な少女が

顔を覗きこんでくる。

「すみません、取材をしておりまして」

「何か……事件ありましたけ」

華奢な首を傾け、尋ねてきた。

男性は息を飲みつつ「いえ、実は──」

詳しい事情を簡単に説明した。


(時間が飛び、部屋へ案内されたようだ)



13:45


「異様に甘い緑茶とミルクコーヒー、どちらにします?」優しい紅玉の瞳で男性を見つめ、訊ねる。「あっ……じゃミルクコーヒーで」食い気味に男性はそう答えた。

「ぼくはりょくちゃ」

カメラ画面に掌へ乗るサイズしかない

ぬいぐるみのような少女が、小さい手で

振る。

「あっー人のカバンに入っちゃダメだよ」

あめ玉転がすような甘い声で「おかあさん、とうさつ」と告げた。

「へっ?」

「いや、違うんです。取材資料のために

撮影してるんです」

男性は必死に弁明しながら、ビデオカメラと小さい少女を取り出す。青ざめた顔で

盗撮理由を語る男性に、中性的な少女は

「とりあえず、カメラ切りましょうか」

はにかんだ笑みを浮かべ、引き締まった

滑らかな腕を伸ばす。

(ここから音声のみが奇跡的に録音されていた)


「俺だ、○○高校で同じクラスだった鷲原一真」

「しりあい?」

「あっー」

少し間を置き

「確か……女はとりあえず貢がせ、カップルの彼女さんを狙い、脅迫と調教して

オ○ホにするろくでなしヤンキー君かな」

「やり○んやろうか」

「正確にはネトリ・ゴールデン・マシンだよ。今はスノボールハゲだけど、昔は金髪だったから」

「ネトリボーグ」

「ある意味、そうかな。

機械的に手当たり次第、泣き落としとか使って、女性に貢がせるのが得意だったね。

今は下半身ホストじゃなく、陰謀論的雑誌で働いてるのがびっくりした」

言いたい放題いわれる男性。なぜか

啜り泣くような声が。

「あちゃーないちゃった」

「よかった……よかった。本当に

十年以上も居場所がわからねまま、心配で心配で仕方なかった」

「きみとはもう……半ば終わってる感じだと」

「マジか!?」

泣き声から一転、悲鳴まじりの声をあげる。

「きんじょめいわくー」

「これぐらいは大丈夫。ここに住んでる

中に、マトモな人いないから」

「それもそっかー」

「もう一度……チャンスを」

「無いよ。きみの女性問題で

住み処が放火されたんだから」

小鳥のようだが、冷たくそう

切り返す中性的な少女の声。

「あれは……おかしくなった桂子が

俺のクソみたいな交遊関係調べ、

仕掛けたんだよ」

「ふーん、じょせいのうらみはこわいね」

あめ玉を転がすのとは少し違う

明るく幼い少年のような甲高くも

心地よい声。これは先ほどのぬいぐるみ少女だ。

「あのねーこのおじさん、ママと当時は

先生やっていたお母さんの関係に気づいて……脅しに同類の子たちを使い、ママと

お母さんを○便器にしようとしたんだよ」

「しろゆりにどく?」

「うーんと、白百合に金色のやり○ん○ソ野郎が正しかもね」

「しろゆりにきいろのすけこまかし」

「それもアリだ」

「もっと……罵倒してくれ。昔みたいに」

呆れたようなため息つく中性的な

少女の吐息。

「気持ち悪いから、二度こないで。一応、盗撮は不問にする。だから二度、関わらないで」

「君のお母さま二人に

なんと説明すれば」

「また、僕が個人的に連絡するから

大丈夫。落ち着いてきたし、そろそろ

──…のことを報せようと思ってたしね」

「おばあちゃんふたりにあえるの?」

「予定があえばね」

「──…、──…っ!!?」

若い男性の怒号とものが激しくぶつかる音とともに音声は途切れた。


●◇□"#


"鷲原一真です。これからよろしくお願いします"


彼と会ったのは怪奇編集部の編集長になる前。のちに港でホラ貝に全身を喰われる先輩の紹介だった。彼はまだ当時、二十歳そこらのハズなのに顔は恐ろしいほど澱み、眼は冷たく感情が読めなかった。

意外と勤勉、私の記者としての教えをスポンジみたく吸収していった。

そんな彼が……

"取材に行ってきます"

これを最期に、植物状態になるとは

思いもしなかった。

私は編集部に送られたビデオカメラを

再生。彼に何があったのか……

私は真実を知るため、ビデオを再生した。

"もっと……罵倒してくれ"

これはもう私が関われる案件ではないと

本能が悟った。すぐさま古くからの

知り合いにLi×eで情報を送った。


《いきなりなんや、ム○カ大佐》


《ム○カじゃない、明地だ》


《おまえ田中じゃん、本名》


《それよりも耳寄り情報を私なりに文章などでまとめた、それを送ろう。君の捜していた娘さんを見つけたようだ》


《一度……中身、みてから返信するわ。

報酬は何がいい?》


《江戸川乱歩大全集、電子じゃなく

紙の本で》


《Am○zonか、メ○カリで探せや。その分の報酬は用意しとくわ》


《遂に……か》


《ああ、やっと見つけた。お説教しなくちゃ……できねぇかもだけど》




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