事故物件移住するインフルエンサー

 〈今日の彼女と彼女 これまで〉


俺はそこそこ知名度を誇る

世間に影響与えるヤツだ。

TikTokやインス○グラム、You×ubeとかでもそれなりにファンがいる。数年前から

何番煎じかも分からない事故物件に住みまくる活動を繰り返してきた。

だが──


"何も起きねぇじゃん"


俺に対するリプやコメントは

気づけばアンチまみれ。

実家に肥料四○トン送りつけられる

嫌がらせまで、おかげさま絶縁することに

なった。そんなこんなで収入が大幅に下がり、本気で事故物件ぐらいしか

住める家はなくなり……


「五十八名ほど泣きながら退去してますが、大丈夫ですか?」


俺は家賃一万、住めば三ヶ月ほどで

住人が涙を浮かべ退去する〈バクゴウアパート〉四○ニ号室を選ぶことに。

怪奇現象でも起きれば、それで再起できんだろうと浅はかな考えだった。

異変は住み始め、三日後から。


〈食べてください〉メモ書きとともに

冷蔵庫にチゲ鍋が入ってる。一人分、野菜たっぷり辛さは控えめ。見知らぬ器だったから少しのお礼と感謝の言葉を封筒にいれ、洗った皿ともに小テーブルへおいた。

それから二日後。


〈これおいしい〉今度は子供の書いた字で

冷蔵庫に月餅と黒く小さい……蝉が

袋詰めされたのが置かれていた。

月餅の甘さと蝉の海老に近い食感を

堪能しながら、その日は終わった。

空腹のあまり食べたが……蝉も味付け

ちゃんとすれば食えるんだな。

また二日後。


〈うちの娘がすみません〉最初と同じ

美しい筆で書かれたメモ、さらに 

冷蔵庫には円形の深掘り皿へ飾られた

すき焼きがあった。旨い、こんな味が濃いのは神戸牛だ、生まれて初めて神戸牛を食べた。出汁が白菜を使い甘さを際立たせる。


こんな生活は三ヶ月過ぎ、俺はついに

メモにこう書いた。


〈二人に合いたい。顔がみたい、

一度でもいいから〉


五日ほど食事は用意されてるが

返答がない。またダラダラと深夜に

眠ろうとしたら…… 


ギギギギギギ。浴室扉がゆっくり、俺以外いないハズなのに開いた。

丸く切り揃えた広い額と一本だけ立つ

艶かな黒髪が見え、徐々にりんごみたく

つぶらな大きい瞳の少女が──

「あだっ」

「──…?」

「あたたたた、うしろぶつけた」

押入れから十歳後半の少女が飛び出してくる。後頭部をさすりながら、さらに若い少女も姿を見せる。視界に絶世の美少女ふたりが母娘みたくじゃれあってる。

陶器のような純白の肌、小さく整いすぎた顔に華奢でしなやか綺麗すぎる肢体。

ふたりとも髪の色は黒、だが瞳は切れ長の瞼から紅と二重まぶたから柑橘色との違いがあり、顔立ちも可愛らしいのが娘で、整いすぎるあまり中性的なのが母だろう。母の方が十センチ高くやや筋肉質だ。おばさんぽいっピンクカーディガン越しでもわかるほど引き締まっている。

「いや◯◯さん、すみません。この娘ちょっとかわってて」

小鳥みたく細い淑やかな声で、俺の名を呼ぶ母親。

「○○、いんふる」

なんか微妙に意味が違う言葉を発する

変声期前の少年みたく甲高い

でも心地よい甘美な声していた娘。

俺はふたりに名前を教えてほしい、そう頼んだ。


「ぼくは○○○、○○○」

 

◇□●)□


「編集長」

「どうした、一真クン」

「もしかしたら音声録音で監禁された

少女と赤ん坊の居場所を、見つけたかもしれません」

編集長のメガネが片方ヅレた、少しおもしろい。まぁそれよりも元人気インフルエンサーのブログにあの変態レビュー集があったアパートの名前も判明した。

「ちょっと……取材に行ってきます」

「気をつけるんだよ」

世界同時デフォルト、難民増加、食料不足のおかげで日本も自動拳銃携帯しても

良くなった。これで治安が良くなるのかは

賛否両論だが。

取材に行くのに武装するのも

なんかアレだけど……仕方ねぇ、そういう時代だ。

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