第2話

宿から連れ出された僕たちは二頭立て馬車に乗せられて街を駆け抜けた。そして暗闇の中、郊外に建つ古城へ案内された。砦だったものを改築して住めるようにしてある。

「ここはどこだよ」

「黙って来て」

 馬車から降りたウラカはランプを手に裏口から急いだ。小路はほとんど枯れかけの枝葉で隠れるように続いていた。ここはゲルグ城と呼ばれ、かつてはブスレシピ要塞の一画を担っていたが、今は地位のある人の別荘だということだった。僕たちは裏口からリビングに通された。屋敷にいる人々は信頼していいとのことだったが、もちろん僕とレイはまったく信じてはいなかった。

 それでも僕はソファにどっかと腰を降ろした。眠い。まだ船に乗っているような揺れ方もする。

「どうして逃げたの?」

「無茶苦茶言わないでくれ。爆発したんだぞ。逃げなきゃ死んでた」

「口癖なの。そりゃそうね」

 ウラカは納得した。逃げればこちらが悪いと思い込んでないか。

 メイドが卵を挟んだ夜食を差し入れてきた。黒水はレイが飲めないというと、新しく紅茶というものを持って来た。味はまさしく紅茶だ。

「モッシとズミは?」

「聖獣と精霊は探索されるから戻ってもらったのよ。ひとまずここで気配は消えるはずだから」

 ウラカはレイの髪を結んでいたポッチリを指差した。それで追跡してきたのだと教えてくれた。コロブツのママにもらったものだが、そろそろ効果も薄れているとのことだ。

 僕とレイはパンを食べた。

「二人ともよくこの状況で食べられるわね」

 僕たちは同時に食べかけを皿に置いた。そんなこと言われてまで食べる気にもならない。僕たちが帰るからと立ち上がろうとしたところ、

「ごめんなさい。どんどん食べていいから。わたしが悪かったわ」

「わかればいいのよ」

「不機嫌にならないで。単なる言葉の綾よ。食べてください。わたしが一人で冷や汗かいてるんだわ」

「だいたい」僕はパンを口に放り込んだ。「船での扱いは何だよ」

「ごもっともです」ウラカは額で両指を組んだ。「本当に申し訳ないと思ってるの」

「本部に来てほしいというから来たんだ。それなのにいきなり剣は没収されるし、船からは降ろしてくれないし、訳わからん奴らが何度も同じこと聞いてくるし。そりゃ僕たちも歓迎されるとは思ってないよ。でもこれはひどすぎるんじゃないかな」

「教会潰すから」とレイ。

「わたしも取り調べるなんて聞かされてないわ。何調べられたの?」

「コロブツ、ルテイム、グレイシアでのことも聞かれた。違う奴が何度も同じことを聞いてきたよ」

「わたしも。魔族だから何とかかんとか話してたわ。性格悪い」

「森の衛兵がいました」ラナイが口を挟んだ。「わたしが第五軍にいたときに秘密活動していました」

「森の民から能力のある者が選ばれるんだけど、主に教会内外の機密活動をしてるわ。殺されたロブハンも森の衛兵の一人だと」

「誰?」と僕とレイ。

「覚えてないならいいわ」

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