2:引きこもりゲーマーな妹に耳かきされる!

(SE:カチャカチャとコントローラーを使う音)


……え、ちょっと待って。

なに、その動き……ヤバッ、ちょ、やめてっ。


くっ……このっ、その動き、卑怯!

……なんで、私の攻撃が完全に見切られてるっ……。


避けてばっかなのに、地味に体力削ってきてうざいっ!


……あーっ! そこでその技使うの!?

ちょ、一気に瀕死になっちゃったんだけど!?


えっ……これ、負ける?

やだ! 嫌だ嫌だっ、負けたくないっ……!

お兄ちゃんのくせに……お兄ちゃんのくせにー……!


(SE:ゲームの敗北音)


ま、負けた……。

完膚なきまでに叩きのめされた……。


ありえない……この私が負けるなんて、そんなことあるわけが……。


ねぇ! 一体、どんな手を使ったの!?

普通に考えて、普段そこまでゲームしてないお兄ちゃんが、一日中びっちりゲーム三昧の私に、勝てるわけないじゃん!


なんか怪しいなぁ。

まさか……ずるしたわけじゃないよね?

一対一の真剣勝負で卑怯な手を使うなんて、最低だよ?


……妹の戦い方は見慣れてるから対策済み?

癖を見抜けば簡単に倒せるぅ~~?


く、ぐぅぅ……くやしい~~!

……次やるときは、絶対に負けないから!

それまで首を洗って待っていやがれ!!


というわけで、じゃ、私はこれで。


……え、どこへ行くのかって?

えっと、ちょっと自分の部屋でやることがあって……。


…………。

……わかったわかった。

流石に忘れてくんないよね……負けた時の約束のこと。


“私が負けたらお兄ちゃんの言うことを何でも聞く。”


はぁ、こんな約束、しなけりゃよかった。

でも私、どっちにしてもその約束には従えないから。


どうせお兄ちゃんもそう言うんでしょ。

確かに約束はしたけど、私はもう、学校には……


――え? 耳かきをして欲しい?


耳かき? 正気?

てっきり、兄ちゃんも私に学校に行けって言うのかと……。


ふ、ふ~ん、そうなんだ。

ま、いいケド。

そのくらいのことでいいなら、やってあげるよ。


じゃ、ほら。

とりあえず、ここに横になって。


(※ソファの上に横になる)


……何やってんの?

そうじゃないでしょ。

耳かきするんだったら、私の膝の上に横にならないと。


……ぷっ。

自分から言い出したくせに、なに恥ずかしがってんの?

妹の膝枕くらい、別に恥ずかしがることないじゃん。


ほら、早くして?

早く横にならないと、約束は無効にしちゃうよ?


(※妹に膝枕される)


どれどれ~……ってうわ。

お兄ちゃん、これ、結構耳垢たまってるよ?

自分で掃除とかしないの?


はぁ。もう、しっかりしてよね~。

こうなったら私が、隅々まできれいにしてあげるよ。


【※注釈。(カリカリ……)のところは、少しの間だけ静かな時間が続く。耳かきの音だけが聞こえていて、会話と会話の間の静寂がある。気まずさや癒しの空間がないまぜになっているイメージ】


(※↓右耳の耳かき開始)


じゃあ、ちょっとずつやっていくね。

こんな感じ……かな。



(カリカリ……)



……なんか、人の耳の中を見るのって、変な感じ……。


耳かき?

もちろん、やるのは初めてだよ。


こうやって耳の中を覗いてるとさ、綿棒をどこまでも突っ込めるのか、気になってきちゃうよね……ふへへ。


わっ、ちょっと、急に暴れないでよ。

まだ耳かきの途中なんだから、危ないでしょ。



(カリカリ……)



あっ、ほら、早速取れたよ。

でっかい塊が取れたね~。


ね、ちょっとだけ首の角度、変えてくんない?

今のままだと、奥のところが絶妙に見えなくてさ……。

ちょっとだけでいいからさ、首をくいっと動かしてよ。


怖いからもう終わりでいい?


大丈夫、大丈夫。

そんな無理にはやらないから、酷いことにはならないってー。たぶん。

ほら、お兄ちゃんが怖がってちゃ、いつまで経っても終わらないよ~?


(※首の角度を変える)


……うわー、すっごい良く見える~。

お兄ちゃんの耳の奥が、ぜーんぶ丸見えだよ。


ふふっ、なんか私、楽しくなってきちゃったかも。

こうなったら、隅々まできれいにしてあげなきゃね~。



(……カリカリ)



あー、なんか集中してたら喉乾いてきた。

ジュースジュースっと。


(SE:ゴクゴクとジュースを飲む音)


っぷはー! やっぱりジュースうまー。

やっぱりジュースは美味しいよね。


ん、お兄ちゃんも飲みたいの?

ダメー。これは私の分です~~。

耳かきが終わったら、自分で飲んで下さ~い。



(カリカリ……)



よし、これで右耳は綺麗になった!

我ながらだいぶいい感じにできた気がする。あとは……


ふーー、っと。(※耳に息を吹きかける)


あ、今、ゾクってしてたでしょ。

キモ~。


ほら、今度は反対の耳するから、顔、こっちに向けて?


(※頭の向きを変える)

(※↓左耳の耳かき開始)


(カリカリ……)


ってかさ~、お兄ちゃん。

今更だけど、妹に何でも言うことを聞かせる権利を手に入れて、真っ先にお願いすることが「耳かき」って、なんかキモくな~い?


普通だったらさ、ドン引きされちゃうんじゃないの?


ま、私には寛大だからさ。

こーやってお兄ちゃんをきもちくさせてあげてるわけだけど。


いつか彼女とかできたら、言動には気を付けたほうがいーよ。

お兄ちゃんが変なこと言ってキモがられたら、絶対振られちゃうからw


……なんで彼女がいない前提なのかって?

あはっ、お兄ちゃんに彼女がいるわけないじゃ~んw

冗談おもしろ~~いw



(カリカリ……)



えー? 自分だって彼氏いないじゃんって?

あは、そりゃそうでしょ。

人と会ってないんだから、彼氏どころか、友達もいないんだもん。


毎日人と会ってるのに、彼女がいないお兄ちゃんの方がよっぽど深刻だよ。

……はは、まぁ、たしかに私たちって似た者同士なのかもね。

兄妹だから、そりゃそうか。



(……カリカリ)



はい、おわり。

どお? すっきりした?

結構たっぷりとれたから、音、聞こえやすくなったんじゃない?


あれ? どうしたの?

不満そうな顔して……。


ふーをしてない?

……ああ、しょうがないな……。


ふー。(※耳に息を吹きかける)


どお? これで満足?


はぁ……にしても、お兄ちゃんの耳を掃除することになるなんて思わなかったなぁ。

後にも先にも、もうこんなことはしないんだからね!


……今回の勝負では負けちゃったけど、次は絶対に負けないから。


まだやる気なのかって?

当たり前でしょ?


ここで終わったら、私の負けで終わることになるじゃん。

まさか、勝ち逃げする気だったの?

……そんなの絶対許さない。


次こそはお兄ちゃんをボッコボコにして、顎で命令してあげる!

それまで首を洗って待っててね、お兄ちゃん!

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