第39話 存在意義

「探索者証明書の剥奪ってそれ…。」


「いやぁ…勇太があそこまでやるのも珍しいんだ…優しい子なんだが…まあやりすぎではあると思うがお前さんのことを思ってのあれだったんだろうな。」


「ま、待ってくれ!話が見えてこない…。」


「まあ聞け。勇太はこう判断した。お前はこのままでは死ぬ。」


「し、死ぬってそんな…。」


「己の体力、技量を見誤るようであればすぐに死ぬと。現にお前は勇太に殺されかけた。」


「それは…そうだが…。」


「勇太がなんのために戦うのか…さっきも言った通りだ。この世界を救う。多くの人を守るためだ。」


「…ならより多くの人が立ち上がらなきゃ…。」


「そこが間違っている。あまりにも勇太を下に見すぎているんだお前は。」


「なっ…。」


「1つ…確信していることがある。全人類が束になったとて、勇太との力の差は変わらない。」


「は、はあ?デタラメじゃないか…そんなの…。」


「デタラメなんだよ。勇太は。その力、熱量は太陽と同じとも言われる。」


「な、なんなんだよ…。」


「お前はその目をもってして確認していた筈なのにその事実にさえ気がつかなかった。」


「…。」


「無茶と無謀は違う…わかるな?」


「…はい…。」


 私は…あいつのことをなにも知らなかった。回りのことがなにも…見えていなかった。


「勇太と肩を並べられるのは…せいぜい神ぐらいなもんだろう。」


 神…その一言でことの重大さにようやく気がつく。愚かであったと。その上で私が生きていることについて…あれは手加減なのだと思い知る。


 遠い…あまりにも遠い存在であった。


「まあ…勇太も勇太で随分とやってくれたみたいだからそこも処分については考えるが…2度とあいつに手を出さないでくれ。あいつがなにより嫌っていることだ…自分の力で誰かを殺めるっていうのは。」


 自分で招いた結果がこれであった。あいつは1人でなんでもできるのではない…1人じゃないとなにもできないのだ。


 1人じゃなにもできない…私とは違うんだ。


 探索者証明書の剥奪。私には向いていない。あいつははじめからそれを見抜いていたのだろう。何もかも…私の予想の上をいっていた。経験も、実力も…目も…こんなの私がいる意味なんて無いじゃないか…。


「私が私である意味なんて…。」


 1人ベッドで呟いた。


 曰く、回復は順調であった。それは今、リハビリをしていても実感する。回復魔法のお陰と言うのもあるが…日野がある程度の応急処置をしたと言うのもある。

 はじめから殺す気はなかった。あんな状況でも冷静に判断していた。煽りに煽ったあんな状態でも、一線を越えることはなかった。


 あいつは常軌を逸していると言うのがよくわかった。己の惨めさを痛感した。結果的に瀕死の状態だったながらも後遺症無く退院できるほどまで回復した。あの日の出来事から1ヶ月後のことであった。


 当然だが、学校に行く気力などない。これからどうやって暮らしていけばいいかさえも分からない。なんなら収入だって…ない。

 なにができるんだよ…こんな私に…。


 私が引きこもりになるのは当然の結果だったのかもしれない。遅かれ早かれ…たぶんそうなってた。そのきっかけが日野だった。それだけだ。


 そんな日が続いた。さらに1週間が経った頃。インターホンがなった。出る気力などなかった。だけど…扉の外から聞こえてきた意外な声に身体が反応した。


「俺だ。」


 そいつは…私のことを死の縁まで追いやった存在。そいつは、私の存在価値を無いとバッサリと切り捨てたそいつ。無気力の中に、やるせない怒りと…どうしようもない罪悪感が涌き出た。


 見て見ぬふりをしようともした。なぜ扉を開けるに至ったのか…それに関しては覚えていない。


「なんの用よ。関わってくんなって言ったのはあんたでしょ?」


「まあ…それはそうなんだが…それでも言うべきことがあってな。」


「なによ。」


「すまなかった。」


「あんなもの…自業自得でしょ?自分の力量を見誤って絶対に勝てない存在に突っ込んでいって…あんたに力を使わせた。」


「まあ…煽ったのは俺だがな。」


「変なことを言うけど…心をへし折ってくれたのは…感謝はしてる。」


「の割りにはお前やつれてんな。」


「当たり前だ………私は…もう存在する意味を失ったんだ…。」


「生きてるだけでいいんだよ。どうせもうすぐ…それを実感するときが来る。探索者だとか魔獣だとか…そんなものどうでもよくなる瞬間が来るんだから。」


「どういうこと…?」


「まああれだ…真島さんに言われた………何もかも救いたいと思うのであればそれ相応の責任を取れ、と。」


「ま、待って?さっきから一体なにを言っているの?」


「ここからできるだけ遠くへ逃げろ。『ヤツ』が来る。」


「ねぇ、『ヤツ』ってさっきから―――――。」


 そう言いかけたときだった。扉の外に稲妻が走った。遅れて雷鳴が轟く。外は清々しいくらいの晴天。その異質な一閃に戦く。


「来た…。」


「あ、あの魔力…。」


 あの日…初めて日野とダンジョンに潜った帰り道にすれ違ったあいつと一緒だ。


「逃げろ…今回のヤツは本気だ。」


「本気…。」


 そう言うと、日野はマンションの通路から飛び下りた。


「えぇ!?」


 なんて反応をしたが、直後炎に身を包み羽を広げ飛び立つヒノカグツチが姿を表す。ここが…戦場になるんだと…察した。


 唇を噛み締める。有り金だけもって、靴を履いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る