第38話 処遇

 炎を纏った日野。それを目の当たりにした。


「ヒノカグツチってのは…俺のことだよ。」


「あんたが…。」


 見る限り人間の魔力回路…だけどいつか見た切り抜きみたいに炎を纏っている。やはり、ヒノカグツチは人間であった。だけどまさか…Fクラスのこいつがヒノカグツチなんて…。


「まあ、来な。格の違いを教えてやるよ。」


 ここで…ヒノカグツチを倒すことができれば…きちんと認められる。


「ヒノカグツチ…!!」


 氷の剣を握り締め、そいつの元に駆け出した。その初撃をそいつはあえて受けて見せた。刺突…普通なら人体を突き破ってもおかしくないのに…なんでこいつは悠々と立っているんだ…?


「こんなもんか?」


「なんで…!」


 その言葉の刹那、炎が私を襲う。だけどそれを見逃すほどではない。氷の障壁で熱風を防ごうとした。


「熱ッ!?」


 一瞬にして私の氷は蒸発する。その水蒸気が熱となり私を襲う。苦しい…息ができない。


「今の…吸い込んだな。呼吸器系にダメージが入ってる。まだ続けるか?」


「まだ…まだ…!!」


「そうか。」


 怯む私に、そいつは炎を振り払い近づく。まともに呼吸ができずに思うように身体が動かない。だけどこの間合いなら私の氷で…!!


「ヒノカグツチッ!!」


 潰れた喉で叫んだ。やつの回りに生成された氷の剣はそいつを潰しにかかる。この状態のこいつなら私でも勝てる!


 勝てる…。


「な…なんで…。」


 そいつは。氷の剣を全部砕いた。拳の1つで全部。


「そんだけか?」


 不意に…やつの背に炎が灯る。熱い…けど…逃げ場もない。

 頭を掴まれる。脳がかち割れそうな位の力。


「がぁッ!!」


 こんなに…強いのかよ…ヒノカグツチって…。


「まさかこの程度で死ぬんじゃないよな?」


 そんな言葉が聞こえた次の瞬間、私の身体は壁に叩きつけられる。どうなったのか知覚する隙すらなかった。


「ァ…ッ…。」


「なんだよ。息巻いてこの程度か?こんなんじゃBクラスも程遠いな。」


 言葉がでない。身体が動かない。なんだ…これ…。


「だんまりか…まあ当然かその身体でしゃべれるわけねぇもんな。んで、どうよ?まだやるか?」


「ァ…。」


 私は…死ぬのか?


「返事もなしか。」


 炎が揺らめいている。私を焼き尽くそうとしている。


「お前は自分の力を過信しすぎなんだよ。無謀って言うのはこういうことを言うんだ。」


 説教垂れ流される筋合いなんてない…せめてせめて一撃だけでも…!!


 氷の粒が弾ける。


「…あっそ。」


 次の瞬間煌々とした爆発が私を焼いた。声も出ない状態で身体を焼かれていく。ヒノカグツチ…私じゃあ手も足も出ない。最後に私の瞳が捉えたのは…魔獣の魔力回路と入り交じった日野の姿だった。



 ヒノカグツチにこだわる理由と聞かれれば特にない。強ければそれでいい。そう思っていた。奇しくも、私には才能があった。魔力を持つものはこの世界でも優遇される。それだけ選択肢が広がる。強ければなおのことだ。


 そんな力の誇示のために私は強さを求めた。


 だからこそ日野にはイラついた。自分のしてきたことを全て否定されたような気がした。強くなくてもいいだとか、そんなものは怠慢に過ぎないと。


 そんな日野に私はあっさりと負けた。なぜあいつが力を求めないのか…それがわからない。あれだけ強ければなんだってできる筈なのに頑なにFクラスを貫いている。弱いふりまでして。


 どうしてあそこまで強いのかそれが私にはわからない。どうしてその力を見せないのか…わからない。



 目を覚ましたのは奇跡にも等しいと言われた。


 ギルド併設の病棟のベッドの上。だけど随分と様子が違う。険しい顔の男性がそこにはいた。


「え、えと…あなたは?」


「すまんな。目を覚まして早々に。俺は真島と言うんだが…君、ヒノカグツチと交戦したのは本当か?」


「え、ええ。」


 真島…どこかで聞き覚えがある。


「端的に言おう。今回のこと、忘れてくれ。」


「わ、忘れろって…それは…?」


「ヒノカグツチ…日野 勇太の正体を知ってしまったものへの処遇だ。」


「ど、どう言うことだよ!ギルドはあれを魔獣認定してるんじゃなかったのか!?」


「表向きはな。その方が本人のためだ。まあ色々説明してやる。」


「本人のため…?」


「勇太からの意向でな。本来なら協力者になってもらうんだが、お前さんには全て忘れるようにと、そして口外禁止と伝えるように言われてな。」


 それから私は…ギルドの真相を知ってしまった。日野 勇太はギルドの奥の手、ヒノカグツチであること。そしてその存在は限られたごく一部しか知らないということ。


「―――――それで…どうして私は協力者側にならないんですか?」


「勇太曰く、人間性に難があるらしいな。」


「は、はぁ…?」


「自分ならなんでもできると勘違いしている典型的なプライドの高いCクラス。俗にやる気のある無能と判断されておる。」


「…な、なんなのよ…。」


 イラつく。探索者としての期間もそう変わらない癖に。


「まあな…あいつも幼少期からダンジョンに潜っておるからな…お前の行動が稚拙に見えたのかもな。ま、それを差し引いてもお前の問題行動は色々発覚しているわけだが。今回も許可なくあのダンジョンに侵入したわけだからな。」


「なっ…。」


「んまあ…命が一番っていうのはあいつがよく言ってることだ。以上のことを踏まえてだね、君の処遇なんだが…探索者証明書の剥奪だ。」


「…え…?」

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