第36話 幼馴染み

「あんた、さっきまでどこ行ってたのよ!?大変だったんだから!!」


 なんて、相葉は叫ぶ。そりゃそうだろ。こっちだって大変だったんだから。


「まあ、ちょっと呼び出されてな。」


「呼び出されたってあんたが?Fクラスの癖に。」


「その上から目線の態度、辞めてもらえるか?俺だって傷つく。」


「あ、あぁ…悪かったわね…って、そうじゃなくて!!ヒノカグツチが出たのよ!!」


 そりゃあ…俺行きましたもん。めちゃめちゃ頑張りましたもん。まあ仕留めきれなかったけど。


「まあ見えはしたよ。」


「なんか反応薄いわね…太陽が2つあるくらいの明るさだったのに。」


 マジかあ…あれでもそのくらいなのかぁ…随分とよくない。あの力、全てを引き出していればあれほど上空であろうともこの辺一帯を焼け野原にできるってことだろう。ましてや、地上で放とうものなら…あまり考えたくないものだ。


「あまりにも現実味がないもんでな…。」


 なんて、相葉と会話をしているときのことだ。


「よう、勇太。元気か?」


 …聞き覚えのある声。正直振り向きたくもない。どうしてこんなときに声をかけてくるのか…。


「あ、あなたは…。」


 分かりやすく相葉が動揺する。


「お、俺のこと知ってる感じ?」


 なんて言っているが、探索者で佐々木さんの名前を知らない奴なんてたぶんいない。事実上、この国で一番強い人だから…。


「佐々木さん、萎縮してるから辞めてやって下さい。」


「おぉ、すまんな。まあ用があるのはこっちだから楽にしてくれ。」


 そう言って俺のことを指差す佐々木さん。


「…だ、そうだ…ちょっとパシられてくる。」


「おいおい、パシリって言い方は酷くないか?」


「実際そうでしょう?」


 なんて言い合いをするのもいつぶりのことだろうか…。


「あ、あの…2人は…どういう関係…?」


「「ああ、幼馴染みだ。」」


「え…えぇ!!??」


 なんて…少し前に聞いたような反応を見ながらそりゃそうだよな、改めて思う。


「お…幼馴染みって…日本最強と…日本最弱が…。」


「はは、勇太酷い言われよう。」


 なんて笑ってるけど…目が笑ってない。この人…過保護なんだよなぁ。


「ま、まぁまぁ。ってな訳だから、もっかい行ってくるわ。」


「あ、う、うん…。」


 そうしてその場をあとにする。小声の「マジかぁ…」と言う言葉に『マジや』と心の中で返して佐々木さんについていく。


「ここ…屋上じゃないですか?」


「まあ、ここなら誰も来んだろう。ってか、さっきのあれ…なんだったんだ?」


「あぁ…スサノオの仲間でしたよ。」


「仲間かぁ…まあ一枚岩なわけねぇよな。あんだけ神がどうとかほざいていた奴なんだから。んま、仕留めれたんだろ?」


「いいや…しくじった…。」


「マジで!?」


「俺もビックリしましたよ…あれ食らって生きてるのは人間じゃねぇし…聞いた話、奴は本当に人間じゃなかった。」


「ど、どういうことだ?」


「俺には今、師匠の力が流れている…それは佐々木さんも知ってるでしょう?」


「ああ…。」


「俺の師匠…バアルって言うのは大地の神でした…。」


「バアルか…確かペルシア神話のもとにもなったすげぇ神さんだったよな。」


「そうです。そんで奴も変なこと言うもんで…ユピテルと…。」


「ユピテルって…そりゃ雷を操る神じゃなかったか?」


「ええ、神々…俗にグレゴリ種と呼ばれる存在のうちの一人です。そして、あいつは言った。俺とおまえは同族だ、って。」


「ま、待て…そりゃつまり…奴も神の力を得ていると?」


「そう言うことになります。ってかそうであってほしいですね。俺の拳食らって生きてる人間なんて…いないでしょうから。」


「マジかよ…。」


「そんで…不思議なことを言うもんで俺のことをこう呼んだんですよ。神の子ネフィリムって。」


「…ネフィリム…。」


「つまりは、もともと人間の器だった化物が人間のフリをした化物になってたってそう言う話みたいですね…。」


「まて…その言いぐさ…おまえ…もう人間じゃねぇのか…?」


「人間ですよ?なんとか半分は。少なくとも、この状態はまだ人間です。魔力の流れが見える奴も俺のことを魔獣判定してないんで大丈夫でしょう。」


「おまえ…たくましいな…。」


「なんでです?」


「普通、人間じゃないってのがわかったらもっと焦ったり、パニックになったりするもんだと思ってたんだが…。」


「案外、ならないもんですよ。それこそ、一回死んだので。そこから生き返った時点でもう十分化物と言えるんじゃないですかね?」


「まあ…そうなのかもなぁ…てか、洒落にならんわ!なんだよ!一回死んだって!!」


「ああ、言ってないですっけ?俺、スサノオと戦ったとき、首切られて死んでますよ?」


「…は?」


「そこから…師匠が蘇生してくれたんです。自分の権能を使って…。」


「ま、まてまて…初耳なんだが…。」


「いやぁ…あのときは完全に油断してましたね。もう二度目はないので…確実に仕留めようとしても逃がしちゃって…。」


「追い付かねぇって。ってか、なんでそんなに冷静でいられるんだ!?」


「いやもう…たぶん人間の感覚じゃないんですよね。何て言うか…最悪自分がどうにかすればいいって感じです。」


「お、おまえ…。」


「いや…現実を見て気がついたんですよ。あのとき、スサノオをどうにかできるのは俺だけ。その俺が死んだ。もうあれを止めれるのは居ないし…なんならその後にも厄災が控えている…。」


 どうあがいても…俺は死ぬことはできないのだ。


 でなければ…世界が滅びかねないから。

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怠惰なFクラス探索者、有名配信者の配信に写り混みバズる 烏の人 @kyoutikutou

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