第34話 原初の星

 数日前、勇太が動けないとのことだったので、代わりに俺が対処した渋谷のダンジョン。

 13階層にてサイクロプスが発生していた。まあどうにかすることはできたが魔石が2つ…。


「いやぁ…。」


 無事帰還して報告できたはいいものの、ここ最近の異常個体の増加…それに加え不審人物の目撃情報。


「穏やかじゃねぇな。」


 いったい何が起きているんだか。屋上から校庭を見下ろしそんなことを考える。


「久々に勇太と…いや駄目か。」


 ったく…なんであいつはFクラス何てところに留まっているのやら。いやまあ解る。そりゃ自分の力で死んだ両親がいるってのに力を誇示なんてできない話だ。


「真面目だなぁ…。」


 だからといって、あれがなきゃ世界は何度か滅んでるのも事実だ。やるにしても、もう少しうまいことカモフラージュしてほしい。


「いやぁ…本当に………。」


 空を見上げ、言葉が詰まった。


「何?あれ?」


 渦巻く空、魔力が集中している…小さく見えるあれは…人間?


 まさか、例の不審者?このタイミングで動き出すのか?しかもよりにもよってここで。


―――――――――――――――

――――――――――

―――――


 上空より見下ろす町並み。結局のところスサノオは失敗した。最も重要なヒノカグツチの抹殺。それこそ我々が信じる者を世に解き放つための絶対条件。


 まあ所詮、奴も流れ着いたただの人間にしか過ぎない。


「どれ…この力も馴染んできた…1つ俺に見せてくれ…ユピテル…。」


 その掛け声は、黄金の雷を産む。結局のところ、奴の顔さえ割れればあとは吹き飛ばすだけだ。今やネフィリムとなった俺の力を防ぐものなど居るはずもない。


「外界の化物めが。」


 その場所に向け穿たれる閃光。雷鳴と共に下界は炎の海に………。


「ん…?」


 炎の海になってなどいない。ましてや建物が崩れたりだとかそんなこともなく………。


 ただ1つ気がつくことができたのは、腹に突き刺さった鈍痛のみであった。


 それはあり得ない威力を持った拳。目の前の少年を認知するのに随分と時間を食った気がする。

 炎に身を包んでいる…間違いなくこいつがヒノカグツチ。


「あのさぁ…おっさん…空気読めよ。」


 その一言で、俺の体は天へと突き上げられる。人の体でこれ程の威力…いや、少し目を使ったので解る…こいつは俺と同族の存在へとなっている。つまりは神の力を受け継いだ…ネフィリムである。

 だがなんだ?地力が違いすぎる。なぜ俺が視認できなかった?なぜ俺が知覚まで時間がかかった?訳が解らん。


 吹き飛ばされながら、そいつの姿をとらえようとする。一瞬だけ…羽を広げたそれの姿が映った。するとまた、腹部に激しい痛み。


 こいつはとっくに人の枠組みを越えている。


「お前…あの時渋谷のダンジョンにいた奴だな。」


 やはり…向こうにもバレていたか。ならまあ…真っ向から叩き潰すだけだ。


「なら、どうする?」


「…厄介事の芽は摘んでおく。」


「そうか…絶対に死なない自信があるのだな。」


 そうして俺は、そいつを掴み力任せに下に投げつける。その速度は、おおよそ雷のごとく。

 あれならば、衝撃を待たずして体がバラバラになる。

 天から地を穿つようにそれは叩きつけられ…なかった。空中で…止まりやがった。


「少しはやるみたいだな…おっさん。」


 何こいつ?聞いてた話と全然違うんだけど?これでも俺人間の枠組みは越えたほうなんだけど?


「まあこれでお前の目的もはっきりした。俺の抹殺だろう。」


 どうすんの?これ?もう少し作戦練っとくべきだった?


「真っ向からやりあうってんなら俺もちょっとは本気で付き合ってやるよ。」


 なぁんか…不意打ちを選んだスサノオの気持ちが解る気がする。こいつ真っ向から殺すってことが物理的にできないんだ。


「まあ…やる他ないだろうね。【ユピテル】…。」


 雷を手に取る。俺のこれがどこまで通用するのか…。


「いいだろう…【阿鼻司アビス】」


 ヒノカグツチの纏う炎が、さらに紅く盛る。揺らめくような…穏やかな炎のはずだが…これは…ヤバい。俺神性持ってるのにもう熱い。


「行くぞ…。」


 低く呟いたそいつの姿は消える。あまりにも早く…あまりにも重い。拳と言うより…隕石をその身で受けたかのような衝撃。痛感する圧倒的な差。

 上空に打ち上げられ…もうどうにでもなれと言う気分にさえなってくる。

 これが人類を今まで守ってきた少年の実力。


「まだ…おわんねぇぞ…。」


「え!?ちょ!まっ―――――。」


 なぜこの速度で吹っ飛ばされた俺に追い付ける…なぜこの連撃を加えることができる…慈悲なんてこいつにはないらしい。


 吹き飛ばされた先でまた吹き飛ばされ…俺はなにもすることができない。何より…こいつの速度についていけない。これでも俺は神の力を継承したんだぞ?


「おっさん…タフすぎねぇか?」


「何言ってんだ…きちんと痛いわ…。」


「痛いだけですんでんのが意味わかんねぇ。」


「まあ…俺も君と同じようなものだからね。」


「人の枠組みじゃねぇことは解ってる。なぁ、お前らはいったい…何を企んでるんだ?」


 目の前の少年はそう聞く。


「何って、原初の星…かつて神々が支配していた地球に戻したいだけさ。」

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