第32話 謎の男

 結局、俺たちは無事にダンジョンを脱出することができた。が…こいつはまだ歩けないらしく、俺が未だにおぶって家まで送っている。


「もうそろそろ歩けるでしょう?」


「…無理。」


「あっそ…。」


 こいつ…傲慢だな。


「んで、どこまで送ればいいんです?」


「家まで…。」


「家までってあんたねぇ…。」


「しょうがないでしょ…足先まで痺れて動けないんだから。」


「しょうがなくなんてないんですけど…はぁ…次も同伴しましょうか?」


「…別に頼んでないし。」


 なんやねんほんま…なんやねんほんま。


「あぁそうですか。ならせいぜい死なないように自分の管理だけはしといてください。」


「…はい。」


 そうは行ってもこいつ死ぬまでわからねぇんだろうな。まあ義務は果たすが道理はねぇ。


「そんで、家ってどこです?」


「ギルドの近くのマンション…。」


 なぁんか…聞き覚えあるなぁ。

 ともかく俺はそいつの言葉に従い道をたどっていく。見慣れた風景。なれた道。見たことあるマンション。


「ここでいいわ。」


「ここでいいって…がっつり自室じゃないですか。」


「まあその…ありがと…。」


「…はあ…まあ何かあったら呼んで下さい。」


「連絡先も知らないのにどうやって…。」


「俺の部屋隣です。」


「え?」


「俺の部屋、隣です。」


「…マジで?」


「こっちが聞きたいですよ、そんなこと。」


 よりにもよって隣人がこんな人だとは…どうかと思う。


「まあ、何かあったらまた。」


「じゃ、遠慮なく。」


 遠慮はしてくれ。頼むから。


 とそのとき、俺の携帯が鳴った。発信元を見てみると美海さんとなっている。


「すまん、じゃ、また明日な。」


「え、ちょっと!」


 そうして、家のなかに入りその電話に出てみる。


『もしもし、勇太くん。今大丈夫?』


「えぇ、大丈夫です。」


『今もう家帰ったかな…?』


「えぇ、まあ。」


『悪いんだけど渋谷のダンジョンで…。』


「なんとなく…予想はしてました。」


『行ってくれるかな…?』


「ちょっと…難しいかも。」


『ああ誰かいる感じ?』


「ええ。」


『解った。佐々木くんにも連絡いれてみる。』


「はい。あぁ、そうだ。渋谷のダンジョンでしたよね?さっきそこで怪しげな男を見かけたもので。」


『怪しげな男…。』


「高身長で五、六十代のヨーロッパ系の男性です。魔力の流れが人のそれではなかったもので…恐らく今回の件その男が関係しているかと。」


『…解った。真島さんにも連絡いれておくね。』


「ありがとうございます。じゃあ失礼します。」


『そっちも気を付けて。』


 そこで通話は切られる。いやぁ…面倒なことになってきた。謎の男…ただでさえこっちは世界の終わりに備えなきゃならんのに。

 隣人は面倒な新米だし。こんな時期に不審者なんて本当にどうにかしてる。


 しかしまあ…ある程度は平和になったのかな…スサノオがいなくなったお陰で。

 結局奴がどういう奴なのかも知らないけど…。


「いやあ…波乱の予感。」


 謎の男…奴もスサノオよろしく俺を探しているとしたらまた戦わなきゃならんのか…。

 だが目的が解らん。


「ちょっとぉォ!!助けてよぉォ!!」


 人が真面目に考えているときに隣から玄関からそんな声が聞こえる。


「…ったく。」


 悪態を吐きながらも、その扉を空ける。


「…歩けない。」


「…あんたどんだけ非力なんだ…。」


 実力で見ればCクラス相当。だと言うのにこの有り様。


「仕方ないでしょ…?」


 足が痺れている…うーん…いや、いやいやいや…いやぁ…?


「すみません、ちょっと失礼します。」


「え、え!?」


 そうして、とりあえずそいつを抱え部屋にいれる。ソファに座らせて少し様子を見る。


「脚、見せてください?」


「は、はぁ!?な、なんで!?」


「応急処置。」


 そうやってテンパるそいつを黙らせ、右足首を観る。


 やはりと言うべきかこいつ捻ってやがる。とりあえず素人目でもわかるくらいには腫れている。


 振り向き様の刺突…無茶な身体の使い方…戦闘中のアドレナリンによる痛みの鈍化…恐らく、どこかのタイミングで捻った後本人でもそれに気づかず戦い続けたことによる炎症。


「はあ…馬鹿…。」


「はァ!?」


「あんたこれ捻ってるじゃないですか。なんで言わなかったんです?」


「だって…探索者ならこの程度…。」


「探索者もね、人なんですよ。あんたも言ってたでしょ。人ならすぐに倒せるって。それって言うのは自分にも言えることなんですよ。人である以上、すぐに倒される。」


「そんなこと…解ってるわよ…!!」


 どこか真剣にそう答えた。


「…解りましたよ。とりあえず、近いうちに病院に行ってくださいよ?生憎と知り合いにヒーラーは居ないものでして。」


「あんた…ここに転校してきたばかりじゃない。」


「…昔、こっちで暮らしてたんですよ。」


「そうなんだ。」


「まあ色々あって転校して、そんでまたこっちに帰ってきたんですよ。」


「何か…あんまり深くは聞かないでおくわ。」


 何か…慈悲をかけられた気がする。


「そんで、とりあえず今日はどうするんです?」


「今日…もう動けない。」


「はぁ…んじゃ毛布持ってきます。」


「え、えぇ!?」


「動けないんでしょ?」


「い、いやまあそうだけどさ…。」


「まあ嫌なら嫌で家のほうまでおぶって行きますけ―――――。」


「それは駄目。」


「…え?」


「それだけは駄目。」


 だいぶ喰いぎみだったけど…。


「…んじゃ…毛布持ってきます。」


「…はい。」

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