第31話 最悪は突然に

「ったく、帰る体力ぐらい残しておけよ。」


 悪態を吐きながらも、そのFクラスは私を支えてくれる。屈辱だ。まさかあの程度で体力も魔力も使い果たすとは…。


「…。」


「自分の限界くらい、自分で解っておかないと今度は誰も助けてくれないかもしれないんですよ。」


「解ってるわよ…。」


「解ってないから、こんなことになったんじゃないですか?」


 核心をつかれ、ぐうの音もでない。


「だって…いつもはあんなところでゴブリンの大群なんて出くわさないんだもん…。」


「言い訳にもなりませんよ。そんなの。ダンジョンなんていつどこで何が起こるか解らないんですから、ペース配分、体力管理は絶対ですよ?」


「…あんたFクラスの癖に…。」


「多分、ダンジョンに潜ってる時間はこっちのほうが長いですからね。」


 偉そうにそう言うFクラスに腹が立つ。


「同い年の癖に…どうせ1年2年の差でしょ?」


「…まぁ。」


 含みを持たせながら、そんな風に答えた。まあどうだっていい。完全に私の落ち度と言うのが癪でしかならない。


「にしてもだが…あのゴブリン…全員魔石がなかったな。」


「まあ、稼ぎがないのは痛いわよね。」


「…割りと期待はしてたんだが…Fクラスの稼ぎじゃどうしてもな…。」


 日野が今日まともに倒したのはゴブリン1匹だけ…よくよく考えたらこいつどうやって暮らしてるんだ?


「何て言うか…お前普通に生きていけるのか?」


「…まあなんとか。」


「なんとかって…Cクラスの私でも日銭稼ぐのでやっとなのに…。」


「君の場合はもっと上手いこと出きるだろ。あまりにも魔力の配分に無駄がありすぎる。」


「…仕方ないでしょ?」


「隙をなくすことに手一杯って感じだろ?能力に身体も魔力も追い付いていない。」


「そんなこと言われなくたって…。」


「解ってるなら多少戦闘スタイルを変えてみればいいだろ?」


「だって…。」


 まあ…今までこのスタイルで来たって言うんだったらなかなか矯正って言うのは難しいか…。


「まあ…難しいもんは難しいよな。」


「なによ…そんな解ったような口聞いて。Fクラスの癖に。」


「なぁんか…いちいち鼻につく言い回しですね。そんなに下に見たいですか?」


「だって現に下じゃない?」


「…君、友達とかいます?」


「な!?失礼ね!」


 とは言ったものの…割りと図星で友達が居ない。なんでこいつそんなこと知ってんのよ…。


「まあ…図星なようなのでもうこれ以上は言いませんが…。」


 本当に…こいつ…体力があったら殴っていた。けどまあ…事実なんだよなぁ。全部。

 そんな時、前方から探索者とおぼしき人物が歩いてきた。年は随分と食っているように見える。白髪のローブに身を包んだヨーロッパ系の男。


「この時間に…?」


 日野が呟く。私たちは放課後からダンジョンに潜り、そこから数時間は経過している。つまり外は暗くなっていると推測できる。


「まあ…あり得ない話では―――――。」


 その時、私は見てしまった。その目の前からやってきた探索者の魔力の流れを。


 足が止まる。それは日野も同じだった。


 奴は…魔物の魔力の流れをしている。だからと言って完全に魔物と言うわけではない。人の流れでもある。


「あの人―――――。」


「見るな。」


 それだけ日野は呟く。そうして私を引きずり、歩き出す。


「どうして…?」


「あれに敵うわけ無いだろ?お前にも視えたのならわかるはずだ。」


「お前にもって…日野も…?」


「まあ…訳あってな…。」


 日野にも視えている…。


「敵うわけないって言っても…行かなきゃ…!」


「行って何ができる。今のお前が行ったところで、即細切れにされるだけだ。行くぞ…。」


「でも…!」


「こういうのはギルドに報告。それでいい。」


「それでいいってあんたね…。」


「ここには日本一だっているんです。無理に弱い奴が死ぬ必要はないですよ。」


 いちいち言いぐさが鼻につくが…事実ではある。


「…でも…だったとてどうする気…?」


「さっき言ったでしょ。ギルドに報告。以上。」


「…それでどうにかなるって本気で思ってるの?あれがヒノカグツチかもしれないじゃん。」


「ヒノカグツチ…か…。」


「あんただって知ってるでしょ。あれが人間だってことくらい。」


「…まあ一応…ただあれはギルドが魔獣認定してるし…人の枠組みではないだろ。」


「でも所詮人間よ?魔法使ってないときにかかったら1発でしょ?」


「…相手のことなめる癖…本当に止めた方がいいですよ。例えそれが格下だろうと…足元掬われますよ?そもそもさっきのがヒノカグツチだったら、君は殺せたんですか?」


「万全じゃないんだから…無理に決まってるじゃない。」


「多分、万全であっても無理ですよ。」


 そう吐き捨てる。淡々と述べられる事実…。


「ほら、とっとと逃げますよ…多分大事になる。」


「え…?」


 そう言うと、日野は私を軽々抱え走り出す。


「なっ!?何してるの!?」


「じゃあ走れるんですか?おとなしくしててください。」


 Fクラスとは言え…流石に一般人よりかはそれなりに体力があるか…。


「て、言うか何が起こるの?」


「Aクラスが総動員されるくらいですかね…。」


「…え…?」


 それってだいぶ大事なのでは?それこそレベル6相当…。


「スサノオ初襲撃の時…あの時がレベル7。2度目の時がレベル6に指定された出来事です。で、少なくともあいつはそれと同等くらい。って、なれば逃げるしかないでしょ。」


「………。」


 なんでこいつ…そんなこと知ってるのよ…いや、私が知らなすぎるだけか…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る