第30話 ダンジョンへ

 その日の放課後のことである。


「じゃあ日野、行くわよ?」


 そう声をかけてきたのは俺のとなりの席の奴。名前は確か…相葉 由美。


「行くってどこに?」


「特訓に決まってるじゃない。Aクラスになれってあんたが言ったんだから。」


「…それにどうして俺が必要なんです?」


 正直…誰かと一緒に居るところを見られたくない。と、言うか帰りたい。


「言い出しっぺが来るのは当然でしょ?きちんとAクラスに育て上げてみなさいよ。」


 こいつ…全部俺のせいにする気か…!


「Fクラスにそんなことできるわけないでしょう…めんどくさい。」


「いいからとっとと来なさい…!」


 そうして…俺は結局嫌々ながらそいつについていくこととなった。


 ギルドに申請を出した後、渋谷のダンジョンへと直行する。


「知ってる?ここ、こないだヘイグロトが出たって。」


「レベル5指定の魔獣でしたね…最近多いらしいですから。」


「そうなの?」


「…ギルドからの連絡あるでしょう。今ここのダンジョンはこういう理由のため封鎖ですとか。」


「ああ、あれめんどいから通知切ってるのよ。」


 こいつ…馬鹿かッ…!!

 呆れもほどほどに、そのダンジョンへと潜入していく。まあ…こいつの実力なら40階層ぐらいまでは適正だな。


 10階層くらいまでは危なげなく見ていられる。センスはいい。氷魔法による隙の無い刺突攻撃。氷の剣か…あまり見たことの無い戦闘スタイルだ。

 後ろからの不意打ちにもしっかりと対応している。よく観察すると解るのだが、相葉の回りには氷の粒が漂っている。

 成る程…あれで動きを察知していると。


 隙がない。と言うのが相葉の戦闘を見た感想。もっと言うと、意図的に隙をなくそうとしている。だけどそれを保つのにも魔力を消費している…持続力はないだろう。

 アイデアはいいが常時展開と言うのはナンセンスな戦い方だ。


 そうして…12階層まで到着する。


「ここね…ヘイグロトが出現したのは。」


「ああ…。」


 ヘイグロト…まあこいつも妙であった。氷を扱う妖精…レヴィアタンらに比べれば随分と可愛いものだったが、それでも脅威であることには代わり無い。それで、何が妙かと聞かれれば魔石を落としたことである。


 通常、精霊系の魔獣は魔石を持たないのだが、今回のヘイグロト魔石を落とした。それもどこかで見覚えのある深い青色の魔石。

 どこかあの指輪の件と似ているが…少し違う。

 まず水棲魔獣でないこと。ここ最近のレベル5指定魔獣の大量発生、水棲魔獣は観測されていない。カラミティワームやヘイグロト…サイクロプスにヘカトンケイル。昆虫に巨人に異形に精霊とごちゃ混ぜである。

 次に魔石の所在にある。先にあげたレベル5指定魔獣(ヘイグロトを除く)には魔石が複数個存在した。

 明らかに何か第三者が絡んで居るわけだ。で、このタイミングで動き出す奴ってのは間違いなく…。


「ほら、ボサッとしてないで前見る!!」


 その声で我に返る。目の前にはゴブリンが10匹ほど。Cクラスでも10匹ってのは堪えるか…だが俺も下手な動きは出来ない。


「…戦うんですか?」


「戦わないと…!」


 いやあ…暑苦しい。得意な属性は氷の癖に。なんて思いながら、立ち回りを考える。Fクラスであれば1匹刈れるかどうか。それをギリギリでやる。それしかない。力加減はまあどうにかしてみよう。


 それよりも何より問題なのは相葉の疲労である。

 ここに降りてくるまでの間、あいつは氷による空間探知に頼ってきていた。若干、疲れと焦りが垣間見える。いざとなれば…俺が助けるしかあるまい。


「行くわよ…!」


「…酷いなぁ…。」


 なんて溢しつつ、俺はそいつのあとに続く。1匹こちらに誘い出す。とりあえずはギリギリのところで躱しながら奴の様子を見る。


 しっかりと後ろの奴にも対応しているが、若干自分の力に翻弄されている部分がある。言うなれば身体能力が追い付いていない。前方しか見えないのに無理矢理後ろを見ようとするからそうなるのだが…悪くはない。


「はぁッ!!」


 剣を振るうその姿。迷いがない。傷を与えることは成功しているが…致命傷にはなっていない。せめてあと3匹こちらにヘイトが向いてくれれば楽にはなるか?いや、もう少し様子を伺って見るか?


 俺も俺でこいつの相手をしなければ…どうやって倒そう。


 今の俺の攻撃手段

>焼き滅ぼす

叩き潰す


 駄目だな。絶対やったらあかん。Fクラス相当の攻撃じゃない。

 どうにかこうにか急所に一撃入れれば都合よく倒れてくれねぇかな…。


「さあ…どうしたもんか。」


 少し呟く。ナイフ…今度から持っておくべきだな。ギリギリ回避から至近距離に詰めより、みぞおち部分に拳を入れてみる。

 少し怯んでくれるのはありがたい。

 向こうは向こうでもう3匹刈っている。流石だな。だけど…やはり疲労が目立っている。


 とりあえず…目の前の弱ったゴブリンの首に突きをかます。それで折れてくれるんだから有難い。あと6匹。


 さて、どうする。


「Fクラスの割にやるじゃない…。」


 自分の心配をすればいいのに…。


「まあいいわ…今日はここらで切り上げね。」


 …こいつ…今の状況を解っていないのか?何て思っていたが…秘策はあったようである。

 6匹が同時に襲いかかる…そして彼女のテリトリーに入る。その瞬間…氷の剣が生成された。やつらの脳天をぶち抜くように。


「…ほう。」


「はぁ…はぁ…はぁ…もう…無理…。」


 相葉の持てる魔力でこれだけ使えばそりゃあ…そうだろうな。

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